第5話
「んー」
由香里は気配をさぐりながら廃病院内を歩いていた。
彼女は猫目なので暗闇はおちゃのこさいさいだ。
「……(きょろきょろ」
周りを見渡しながら一つ一つ病室を見て回る。
かなりの妖力があふれているが、由香里にはなんの害もない。
『ガアアアアアア!!』
「……邪魔」
廊下を歩いていると、潜んでいたなにかが襲いかかってきたのだが、しゃがんでから後ろ回し蹴りをかまして蹴り飛ばすと、馬乗りになると頭をつかんだ。
『ひ、ひいいいっ!』
「ここの領主の部下か?」
怯える何者かに由香里は目を細めて尋ねる。
普段の口調とは違った言い方なので、威厳を感じさせた。
『そ、そうです』
「ならば、領主に伝えてここから去れ。さもなくば…滅する」
怯えながら答える者に目を細めて由香里は言い放つ。
ぴりぴりとした空気がこの場に満ちて行く。
それに気付いて立ち上がると彼女は走り出した。
残されたものはなんとか立ち上がるとそこから姿を消した。
まるで、消えるように。
「どこに行ったんじゃろうか」
廃病院内を心は歩きまわりながらつぶやいた。
手には懐中電灯が握られている。
これがないとよく見えないからだ。
「ここに入ったのはわかるんじゃが」
ぼやきながら歩いていると、人影が見えた。
よく見るとさきほど、肝試し気分で入ってきた四人だった。
「おまんら、ここでなにしちょるか!」
「「うわ!?」」
「「きゃっ!?」」
心のどなり声にびくっと肩をすくませる四人の男女。
それくらい今の心には迫力がある。
「な、なんだよ~……脅かすなよ」
「化け物がでてきたかと思った~」
心を見てほっと心を撫でおろす二人の男女達。
残りの二人は座り込んでいた。
「んなことより、はやくここからでるき!」
「えー、まだ化け物みてもないのに?」
「そうだよ~、せっかく来たんだから撮りたいし」
心がそういうと文句垂れる二人。
今の状況がどれだけ危険かこの二人はわかっていないようだ。
それは心にもいえることなのだが、いぜん戦いには力量があるのでなんとかできると思うのだが。
守りながらの戦いは彼にはキツイ。
「ね、ねえ……帰ろうよ」
「そうだよ、ここほんとヤバイって!」
震えていた二人は顔色がさらに悪くなっており、帰りたそうだ。
なにかの気配を感知しているのだろうか。
「えー、どうする?」
「まだ、探してない場所があるんだから探索はとう」
女子が尋ねると男子はニヤリと笑いながら返答しようとするが、その顔が青ざめていく。
それに気付いて女子もそちらへと視線を向けると。
『ひひひひひっ♪ 獲物をそう簡単に逃がすとおもうてか!』
天上にはりつき、首がまがった存在が大きな口を開いてそう告げた。
するどい目が血走り、ターゲットを心達にしだめている。
「ひぎゃあああああ!!?」
「で、でたあああああ!!?」
「ま、まってよ!?」
「おいて行かないで!!」
腰をぬかしそうになりながら逃げ出す4人組み…だが。
『おいおい、俺様にも食わせろよ』
牛の顔をした化け物が彼らを阻むように前に立っていた。
舌なめずりしているのはこちらも同じようだった。
「くっ! はさまれたがか!」
心はそれを見て悔しそうに唇を噛む。
いつもなら武器を持ち歩くのだが、今回だけはないのだ。
だから、かなりピンチといえよう。
と、何かの裂く音が聞こえたと共に鈴の音が鳴り響く。
ちりん♪
「………そこまで」
『ぶぎゃああああああああ!!?腕があああああああ!!?』
ふんわりと、着物付きのスカートをひるがえして着地したのは猫耳を頭頂部に生やし、尻に猫の尾を生やした白い髪ショートヘアの少女だった。
牛の化け物は斬り裂かれた腕を押さえて悲鳴をあげる。
月光に照らされた髪は光り輝いてみえた。
牛の化け物の腕を手にもちながら、少女が口を開く。
「……いままで、ここにきた人を殺してきたそうだな?
もはや、お前らに温情はいらぬ、ここで…処罰する……逃げ出せると思うなよ?」
『ちぃっ!そう簡単に』
少女の金色の瞳が化け物達を映す。
天井にはりついた化け物が手を伸ばして少女を攻撃しようとしたが、それはかき消えた。
そして、次にはそいつから血があふれていた。
『ぐがあああああああ!!!?』
「おいたはダメよ~♪」
悲鳴をあげる中で鈴をころがした声が響く。
そちらに月の光が照らされてると、小柄な少女が佇んでいる。
だが、ただの少女ではない……さきほどの少女と同じ頭頂部に狼の耳を尻に狼の尾を生やしていたのだ。




