幕間:陽だまりで
ある晴れた日に
「ねえ、ギイ、あれは何に見える?」
ふくふくとした小さな指で、マリーシアが真っ青な空に浮かんだ白い雲を示す。
ギーベルグラントは内心困惑しながら彼女の指の先に目を凝らした。
彼にはただの雲にしか見えないそれも、マリーシアにかかると『何か』に見えるらしい。
たとえば仔犬とか、花とか、ケーキとか。
そう言われればそう見えるかもしれないが、パッと見た限りでは、やはり、ただの雲だ。
「何でしょうねぇ……」
彼女に見えるものを同じように見てみたくて、ギーベルグラントは首をひねる。
「すっごく早く走るんだよ」
「走る……」
「四本足でね」
「動物ですか」
「あんまりこの辺じゃ見たことないよね」
「良く飼育されているものですか?」
「そうだね、そうかも」
「……猫……?」
「ちがうよぉ」
嬉しそうにかぶりを振ったマリーシアは、期待に満ち満ちた眼差しでギーベルグラントの更なる答えを待っている。
その期待には、応えたい。
応えたい、の、だが――
どう頑張っても、彼には空に浮かぶただの水滴の塊としか思えなかった。
「わかりません」
諦めてそう答えたギーベルグラントに、マリーシアは今の空と同じ色の瞳を輝かせ、得々と説明する。
「ほら、あそこの長いのが頭で、足が四本出ているでしょう? あれがしっぽ。たてがみもあるでしょう? どう? お馬さんに見えない?」
馬。
ギーベルグラントは彼女の言うように、見ようとしてみる。
頭、胴体、脚、そして尻尾。
すると、どうだろう。
マリーシアが言った通り、空を駆ける巨大な白馬が姿を現した。
まるで、魔法のように。
「ああ、本当だ……」
呟くようにそう言ったギーベルグラントに、マリーシアは満開の笑みで答える。
「でしょう? でね、あっちはクッキーね。あと、あれは――」
鈴が転がるような彼女の声は、次から次へと新しい何かを生み出していく。
一つ一つに頷きながら、ギーベルグラントはマリーシアのその目に映るものを共に見つめることができる幸せを、噛み締めていた。