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付きまとう男

以前投稿した短編の続きです。

批評、感想、いただけたらとても喜びます。

「愛しています、涼子さん。僕と結婚してください!」

「嫌です」


 相変わらず豪華な花束を持参し、大学の正門前で涼子が出てくるのを待ち構えていた男は、この三カ月で挨拶のようになった求婚の言葉を懲りもせずに繰り返す。

 顔よし、頭よし、家柄よしのこの男―――綾小路星彦は、涼子の通う女子大ではちょっとした有名人だった。

 彼は、同じ市内にある旧帝国大学の学生だ。学年は涼子の一つ上。彼女が女子大に入学した当初から、星彦の噂は学内にあった。

 曰く、なにをとっても完璧な平成の王子様。

 そんな男が毎日のように涼子に会いに来るものだから、星彦の求婚攻撃が始まった当初は涼子もひどい目にあった。

 嫉妬、やっかみ、羨望。

 彼がアニメのヒロインに涼子を重ねているとは思いもよらない女たちは、寄ってたかって涼子を攻撃した。

 廊下ですれ違いざまに罵られることはしょっちゅうだったし、空き時間に呼びとめられて囲まれ、集団で責められたことすらあった。星彦にお近づきになりたい者は涼子にすり寄った。

 三か月が経つ今は随分と少なくなったものの、完全になくなるというわけでもない。涼子はそのすべてに辟易しつつも、なんとか耐えている。


(この人たちはあの男の残念さに気付いてない被害者…あの男の見てくれに騙された被害者…)

 

 そして涼子に付きまとう星彦のほうも、大分騒がれていたらしい。

 あんな女に告白するなんて悪いものでも食べたのかとか、風邪でも引いて頭がおかしくなったのかとか。

 しかしその異常行動も三か月目となると、周囲の見方も変わるようだ。平成の王子様と陰で騒がれていたはずの男は、今やすっかりとその評価を変えていた。

 曰く、平凡女のストーカー王子。

 随分と落ちたものだ。

 涼子は差し出された花束を今日も受け取らないまま、憐みすら覚えて、跪く星彦を見下ろした。涼子の視線に気づいた男が、ぱっと顔を輝かせる。


「この後なにか予定はおありですか?よければ一緒にお食事でも、」

「お断りします」

「相変わらずお忙しいのですね。ああ、できることならあなたの抱える重荷すべてを僕が代りに引き受けて差し上げたい」

「結構です」


 忙しい、というのは毎度なされる彼の勘違いだったが、今回ばかりは少しあたっている。

 星彦に付きまとわれるようになって三か月。

 夏季休講を目前に控えた現在、涼子は大量のレポートとテスト勉強を抱え込んでいた。

 それは目の前の男も同じはずなのだが、星彦はそんなそぶりも見せない。仮にも難関大の学生、抱える課題は涼子よりも重いだろうに。


「…あなた、学校はどうなの?レポートとかテストとか、大変なんじゃない?」


 つい気になって聞いた涼子に、星彦はあっさりと答えた。


「レポート?テスト?レポートなら一日あれば書けますし、テストなんて授業に出ていればとけるでしょう?」


 …この天才が。

 授業を聞くだけでテストが解けるなんて、小学校を卒業して以降あってはならない現象である。


「ああ、涼子さんが僕に言葉をかけてくださるなんて!マグノリアの神よ、感謝します」


 大好きなアニメの世界観にどっぷりとつかって、星彦は胸で六芒星をきる。いつも以上にまぶしい美貌は、ここではない世界を見つめてとろけるような笑みを浮かべていた。

 …このまま現実に帰ってこなければいいのに。

 今のうちに帰ろうと歩きだした涼子だったが、素早く立ちあがった彼に進路をふさがれた。


「涼子さん、夏休みのご予定はどうなっていますか?よければ僕と、」

「実家に帰ります。夏休みが終わるまでこちらには戻りません」


 涼子は淡々と嘘をついた。夏休み中まで付きまとわれてはたまらない。

 信じたかどうかは分からないが、星彦は大げさに肩を落とした。


「…そうですか。残念です。夏中あなたにお会いできないなんて」

「アニメのミーナを毎日眺められるじゃない」

「もちろん、ミーナとの時間は取るつもりです。だけど僕は、涼子さんとの時間も欲しい。…マグノリアの神よ、この強欲は罪なのでしょうか」


 なんというか、顔がいいって得だ。何をやっても様になるから、他の誰かが言えば確実に気持ち悪がられる発言も聞き逃せてしまう。

 ストーカーまがいの待ち伏せと求婚だって、彼がやるから許されているのだ。一方の同情を向けられるべき涼子は陰でたたかれ、面と向かっても罵られる。


(なんなのよ、この差)


 考えてしまえば苛立ちが湧いてくる。

 涼子は進路をふさぐ星彦の肩を強く押した。


「どいてください、帰りたいので」

「涼子さんが僕に触れてくださった!マグノリアの神よ…!」

「…」


 本当になんなんだ、この人。

 苛立ちがしおれるくらい疲れを感じて、涼子は溜息を吐くのだった。

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