異境の地もしくは隔絶された空間(幕間) 後編
哀れみを含めた視線をこちらに投げかけつつ要という女子はそう言った。しかし、それも予想の範疇である。なにやらいわくつきの人物である桜沢が所属し、いい噂の聞かない旧校舎に本拠を置く部。言っちゃあ悪いがまともな活動をしている方が考えがたい。現にここに来るまでにすでに怪現象に巻き込まれているのだからどっちかというと今さらである。
「それを今から説明するの。聞いての通りだ。ここは表向きは民俗学研究部って事になってるけど実際は全然違う活動をしている。入部するにあたりその辺の事は理解しておいてほしいわけなんだけど」
桜沢は残念ながらっぽく言っているが俺は民俗学などに全く興味がなかったのでむしろ嬉しいくらいだ。
「君のその反応から考えてその心配は無用だったかな。主な活動はトラブルの解決になる」
これはちょっと意外だ。そんな人助けみたいな事をすすんででする人物ではなさそうに思ったのだが……いや、外にあった結界と外での桜沢の『あの』発言から考えると
「霊関連のか? 」
「うん? 一応、そっちを主でやる予定にしているけど依頼がない場合はそれ以外もやるよ」
ちょっと前ならば一笑に付して相手にしないような話である。人生は分からんものだと改めて思い、そしてそんな自分が内心ちょっとおかしかった。
「で次に簡単に部員を紹介するね。私が一応、ここの部長の桜沢 潤、であなたの向かいいるのが森 要。主に情報処理とかを担当している」
森 要は俺の方を見、軽く会釈する。第一印象としては地味。眼鏡をかけ、眼の近くまでかかった前髪がそれをさらに強調している。
「右にいるちょっと人相の悪いの悪い奴が水上 冬馬。戦闘及び料理担当で君と同じ一年だ。仲良くやってね」
「よろしく。俺も助かったよ。男子は俺一人で話相手が欲しかったんだ」
水上は笑顔で炒飯を小皿に盛りながら話しかける。
確か、こいつは名前も聞いたことあるし、一年の教室の廊下で何回かすれ違ったこともある。入学当初は結構、話題になったせいか、そういう情報に疎い俺でもある程度知っていた。
確か中学時代、それなりに有名ないわゆる不良というカテゴリーに入る人物だったと聞いている。しかも相当無茶苦茶もやっていたらしい。それが合格ラインが大体クラスの中の上くらいの学力が必要なうちの高校に入ってきたのだからビックリだという話だった。様々な憶測が飛び交い、理事長を脅
迫したんじゃないかなどという荒唐無稽な話まででるくらい一時は校内で時の人のような扱いになっていたが本人の学内での態度や生活はいたってまともであり、動かない玩具をいつまでもイジる程の話題に飢えているわけでもなく。同姓同名の人違い説の浮上を最後に自然消滅した。
まぁ少し茶髪だし、雰囲気的にはなんとなくそれっぽそうだがまぁどうでもいいことではある。つーかこの部活『戦闘』担当ってなんだよ。もしかして戦闘の必要な事件に首を突っ込むつもりか。
「ああ、よろしく。俺も同年代がいてくれてよかったよ」
とりあえず、今の時点ではどういう人物か分からないので無難に返す。
「うん。ではあらためて彼が新入部員の樋口 クロエ君ね」
「樋口 クロエです。こんな時期の入部ですが一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします」
俺は立ち上がり、スタンダードな感じの自己紹介をする。とりあえず普通に振る舞う。それが無難に学校生活を送る、処世術だと俺は思っている。色は後で着ければいいのだ。
「さて、自己紹介も終わったし、本来の会議をしようと思うんだけどなんか質問ある? 」
色々とあるが今のところ、いまいち頭の中でまとまらない感じである。追々、説明してもらえばいいか。
「いや、今のところ特には」
「ん。じゃあ始めるね。でもその前に」
「その前に? 」
「炒飯を食べましょう。せっかくの炒飯が冷めてしまう」
俺は軽くずっこけそうになるも、少しおもしろくも思えた。そしてその炒飯は驚くほどうまかった。
こうして俺の日常における非日常は始まった。