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ただ、そこに辿り着くことの難しさ 其の三

 面倒臭い事になった。入部するどうこう以前に目的地に辿り着けなくなってしまった。幸いにも行けないのは民俗学研究部の部室のみで本校舎の方へは戻れるようだ。

 気持ち悪いとは思ったがそれでも尚、もう少し挑戦してみたいと思った自分が我ながら不思議だった。

 さて、冷静に考えてみる。原因はおそらくあの地蔵だろう。単純な話、あれをどうにかすればいいわけだ。しかし、正体や特性のよくわからないモノに手を出すのは少々リスキーだ。地蔵そのものに手を出すのは最終手段……いや、そうなった場合は諦めるべきだろう。この空間の支配するルール内で部室に辿り着く方法を探すしかないわけだ。

 少し、確かめておきたい事もあり、もう一度、あえてループしてみる。

 判明した事。校舎の入り口に戻される方法だが視界が暗転した瞬間の時間と校舎の入り口に戻されるまでに約5分の時間の経過があった。つまり地蔵を横切った瞬間、俺は意識を失い、まるで夢遊病者のように来た道を戻り、校舎の入り口に到着すると意識が戻る、というシステムみたいだ。

 これはなんとなくだがなんとかなりそうな気がする。空間転移の類でなかったのは助かる。

 少し、次の行動を考えつつ本日4度目の廊下を歩き、地蔵の前に到着。俺は自分の鞄から筆箱を取り出し、そこからさらに消しゴムを一個取り出し、部室側の方向に投げる。

 消しゴムは部室の前辺りに落下するとそのまま少し転がり、横滑りしながら静止する。特に何も起こらない。

 なるほどやはり自ら移動する手段を持っていない物体に対しては無効なのか。当たり前だけど。消しゴムが校舎の入り口の方へ飛んでいくなんていうファンタジー映像も想定していたがさすがにそれはないか。

 という事はもしかしたらそれなりのスピードで飛んでくる物体には対応出来ないのでは? そんな仮説が頭をよぎる。意識の消失点は先程のループの際ジリジリと前進しながらマジックで線を書いたので大体、分かる。

 プランとしては超シンプル『全力で部室側に向かって飛翔べ』だ。なんか自分で考えといて思うが頭悪そうな案である。けど現時点ではそれしか思

い浮かばないんだからしようがない。

 俺は鞄を床に置き、充分に助走の距離をとる。

 いざ実行するとなるとなんか不安である。ありえるオチとしては跳躍しても関係なく意識をなくし部室の前に到達するもそのまま、また校舎の入り口に戻されるというパターンが予想できるがまぁそこはやってみないと分からない所だ。もしかしたら効果が部室の前までない可能性もあるしな。……な

んとかなるだろう、多分。

 少し、間をおき。深呼吸をし、若干の恐怖はあるもののやることを決意。俺は左足で廊下の床を蹴りだし、目標のラインに向けて全力疾走した。目標のラインはもの凄いスピードで近付いてくる。頭に色んな考えが錯綜しつつも俺はラインの少し手前で右足で床を踏み抜かんばかり踏み込み、跳躍。 

 ヤバい。少し飛びすぎたか?

 跳躍した自身の高度を感じ、そう思った刹那、視界はまたも暗転。

 やはり、ダメか……?

 そう思った瞬間、今までと違う事が起きた。

 地震? 体感覚的に感じた妙な衝撃とともに頭に激痛。視界は暗闇のまま、今までのように視界が開ける事がなく意識はそのまま遠い彼方へ消え去っていったのである。

どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。ここは……また校舎の入り口か?それとも……。頭全体に響く鈍い痛みと朦朧とする意識の中、腰の辺りに軽い衝撃の連続を感じる。

「おい! 起きろ。こんな場所で寝ないでくれるか」

 徐々にはっきりしてくる意識の中、なんとなくだが状況はつかめてきた。どうやら俺は跳躍の途中でまた催眠状態になったらしいのだが幸か不幸か飛び過ぎたせいと急な催眠状態によりまともに着地できず、そのまま勢い余って突き当たりの壁に激突したらしい。衝撃で催眠が解けたのか、気絶した人間は操れないのかとにかく俺はそのまま気絶、現在に至るというわけか。ちなみに腰の辺りに連続して与えられている衝撃は目の前にいる件の人物、桜沢 潤が俺を起こすために蹴っていたようだ。とはいえその扱いはどうなんだろう。一応、怪我人ですぜ?

 俺はなんとか上半身だけ起こしつつ、まだ痛みの続くぶつけたであろう前頭部に手をなんとなく当てる。彼女は相変わらずまるで俺を見下すように直立不動で立っていた。

「ん? あんた、確か……」

 首を傾け、少し、怪訝そうな顔をしながら彼女はそう呟いた。

「先週、校門前で助けて貰った……」

「あーあのバ……あの時の」

 彼女は『ぽん』と手を叩き、明らかに今、思い出しましたという仕草をする。

 今、あの『バカ』って言いそうじゃなかったか? まぁあの件に関しては自分としても否定しきれないところではあるのだが。

「今日来る、見学者ってあんたの事だったのか。こんな時期にどんな物好きだと思ってはいたが……なるほどねぇ」

 桜沢は眼をを少し、細め、少し嫌な感じの笑みを浮かべる。少なくとも俺にはそう見えた。

「なんだよ、なんか文句でも?」

「いや、別に。ただ何が目的なのかなぁって思っただけ」

 それは聞かれると困るところだ。単純言えば桜沢に対する好奇心だがそれをここで言うわけにもいかないだろう。

「少し、興味がありまして……じゃダメか?」

 桜沢は少し冷たい視線を俺へ向けるとすぐに軽くため息をつき、表情を崩す。

「まぁいいわ。目的が何であれ部員の少ない弱小クラブだし、歓迎するよ。えっーと」

「樋口 クロエだ。」

「よろしくな、樋口。じゃあとりあえず部室に」

 桜沢はそう言いながら部室の取っ手に手を掛ける。

「ちょっと待ってくれ。その前にひとつ。『アレ』はなんだ?」

 そう言いながら俺はこういう状況を作った要因であるあの地蔵を指さした。

「ん?あんた『アレ』が見えるのか?」

 なぜか意外そうな表情をこちらに向ける。

「見えるもなにもそこあるじゃないか。お前こそ何を言ってるんだ」

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