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蒼き神の再誕 其の七

 この状況、俺は一体どうする事が正解なのだろうか。当然、人として酔い潰れた人間を目の前にして、しかもその人物が知り合いであれば介抱すべきだろう。当然の話だ。ただそれが同じ部活の先輩でしかも女性で全裸となると話は違ってくる。健全なる男子たるものスッポンポンの女が目の前にいれば、それはもういけない気分にならないわけがない。そう、普通ならな。そんな気分を宇宙の果てまですっ飛ばすほど彼女の吐いた吐瀉物の量は凄かった。

 正直ひくわぁ。これ、旅館の人にバレたらマジ土下座モンだろう。湯船にも入ってるし。この人、もう少し常識のある人だと思ってたんだけどなぁ。いろんな意味でガッカリ感の半端ない人だ。

「森先輩! 大丈夫ですか? 一人で起きれます?」

 とりあえず声を掛けてみる。返事がない。やっぱりダメか。つーかどんだけ飲んだんだよ。未成年だろあんた。

 考えた末に無理矢理、俺の肩を貸し、立たせるとなるべく先輩の体を見ないように男湯の脱衣所へ向け歩き出した。

 少しはそういうエロい気分なったらとか考えていたが現実はそんなに甘くなく、俺も元々、ちょっとアルコールが残っていたせいもあるだろう。先輩の吐瀉物の臭いが原因で見事に『もらって』しまった。不覚。まさかこんな事になるとはね。昔、車酔いで吐いた事はあるがアルコールで吐くのは今回が初めてだ。久々だが予想以上に体力的にも精神的にも結構削られるな。今の俺は気力、体力ともにある意味限界だ。本当に最悪だ。

 脱衣所につくと幸いにも人はおらず、とりあえず適当に先輩の体を拭き、俺の浴衣を着せる。着る気のない人間に服を着せるのは意外と骨が折れる事が判明する。想像以上に面倒に思ったが感情としては焦りの方が先に立つせいもあってなかなかうまくいかない。その際、いろいろと見えてしまったが現在の俺のテンションを考慮に入れて貰い、勘弁していただきたい。あとは再び、俺の肩を貸し、先輩の自室まで運べばミッションコンプリートだ。先輩に浴衣を貸した結果、俺はパンツ一丁になってしまうが。

 浴衣一枚羽織った、汗ばんだ意識のない女性、びちょびちょに濡れた体でしかもパンツ一枚の俺。どう見ても犯罪の臭いがする。状況的に誰かに見られたら下手したら通報されるかもしれない。俺でも通報する。

 考えてもしようがない。とりあえず俺は意識のない森先輩と共に男湯を出る。

 しかし、この世は割と理不尽に出来ていて、このタイミングでこうあって欲しくないと願った場合、大抵、そうなる。しかし、それは多分たまたまであり、そうなった場合のイメージが強く残るからそういう風に考えてしまうわけだ。だが俺はやっぱり世界はそういう風に出来ているだなとつい思ってしまうのは現在、その事象の当事者だからだろう。

 男湯から出た瞬間、俺はすぐに体全体の間接にアロンアルファが流し込まれたのではと思ってしまう程、瞬間動かなくなったのを実感する。

 目の前には今から女湯に入ろうとしている巫さんがこちらを向きながらたたずんでいた。


「しかし、君は樋口君言うたか、運がないようであるなぁ」

 笑みを浮かべながら巫さんはこちらを見ながら、森先輩を背負った俺の隣を歩いている。あの後、どう弁解しようなどと思考巡らせていたのだが巫さんの言うように運がよく、さっき宴席で地味にしこたま飲んで、風呂へ行った森先輩の事が心配になり、様子を見に来たところだったそうだ。おかげで俺はパンイチではなく浴衣を着る事が出来、森先輩も巫さんにちゃんと浴衣やら下着やらを着けてもらえ、こうやって森先輩の部屋への帰路につけたわけだからついていると言えばついているか。こんな森先

輩に遭遇してしまう時点でついてないような気もするが。

「すみません。手間をおかけしました」

「いや、ええってええって、止めんと飲んでるのを黙認していた、こっちにも責任はあるしね。無事なにより……ってことにしとくは」

「いや、あのすみません、その何か含みのある言い方はやめて下さいよ。俺が何かを森先輩にしたみたいじゃないですか」

「ふーん♪ いや、別にええで大丈夫、大丈夫」

 なんかむかつくな。なぜ、俺が何もしていないのに『あーはいはい。そういうことにしておくわ』みたいな空気になってるんだよ。

「いやぁ、青春やねぇ」

「あーはいはい」

 俺は呆れ半分、苛立ち半分で少し語気を強める。

 とりあえず俺はとりあえず適当に流す事した。本当に予想よりも面倒臭い人っていうかこういうふざけた感じは神馬さんに通じるものがある。類は友をよぶってか?

「まぁまぁ。冗談やって。そんな怒らんといてーや」

「別に怒ってないですよ」

「ちょっとからかっただけやんか。悪かった。謝るわ……で、揉んだの?吸ったの」

 無視する。どうやら相手にすればする程悪ノリするタイプらしい。

 俺は森先輩を背負い直し、足早に巫さんから距離を取る。背に感じる感触については……湧き上がってくる奔流に少しの自己嫌悪と興奮。

「ノリ悪いなぁ。そこはカウスボタンやったら『こう、コリコリと金庫を開ける要領でねっておい! 』くらいやってくれるで」

「いや、それ、今やったらただの誘導尋問に引っかかった間抜けな変態がこの地に誕生するだけですよ」

 つい、会話を返してしまった。関西の人って皆、こんな感じなのだろうか。

 下らない会話をしつつ、なんとか森先輩の部屋に到着森先輩をとりあえず布団に転がし、部屋を出る。

 先輩がとっくに湯冷めしていることや、ちょっと色々、見てしまった点が気になる所だが先輩を背負ってここまで来たため温泉に行く前よりも汗だくになっている現状と時間を考えたがこの状態で寝るのはさすがに気持ち悪いので億劫だがもう一度、温泉に行く事を決意する。

「彼女、大丈夫やった?」

 背後から巫さんの声が聞こえ、振り向く。

「ええ、まぁ酒でああなるのはいつもの事なので。どうもありがとうございました」

 ふざけた人だが助かったのは事実なので一応、改めての感謝。

「いえいえ、こちらこそ……」

 さわやかな笑みと共に俺に近づいたと思った瞬間、顎に妙な衝撃。何かが掠めたよ……う。思考は停止し、意識が暗転。そして最後に聞こえたその言葉は……

「ほんま、素晴らしい生け贄をありがとう」



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