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蒼き神の再誕 其の六

 風呂の後、ひまつぶしも兼ねて、ゲームコーナー的な場所を探し、見つけたがよく分からないトランプのゲームの筐体と明らか無理そうなUFOキャッチャーがあるのみで少々、ガッカリしつつ五分程でその場を後にする。

 その後、夕食となり、仲居さんに言い、神馬さんの部屋で全員集合しての食事となった。旅館の方にもうまく説明したのだろう、ちゃっかりと巫さん分の食事までこちらに来ている。

「神馬さんはあの巫さんについてはどう考えてるんですか? なんかあっさり今回の件、オッケーにしましたけれど。なにか理由があったりするとか?」

 なんの理由もなく、この人がこういう面倒臭い席を設けるとは考えにくい。巫さんの現れたタイミングといい、なんか嫌な感じがする。

「いや、別に今回の件、ぶっちゃけ、もう打つ手がないんでね、少しでもあの神社に関する情報を聞けたらと、思っただけだよ。もしかしたら発動条件とかあるのかもしれないし、仮にも数日ここに滞在し、情報を収集したみたいだったから一応ね。特に深い意味はないよ」

 せっかく珍しく何事もなく終わったのになぜそんな事をわざさわざ……。やはりこの人も桜沢と同じタイプの人種なのだろうか。

 そんな事を考えていると部屋をノックする音が部屋に響く。どうやらご登場のようだ。来るは厄災の種かはたまた不思議な縁か。

 現れた巫さんは浴衣姿であのうっとおしいイヤリングは外していた。洋服とかより、こういう和装の方がこの人は似合うのか割と様になっている。

「いやいや、すんませんねぇ。皆さんが楽しくやってる所へこんな部外者がお邪魔させてもうて」

「いや、こっちも調査するにしても若干、手詰まり気味だったんでね。巫さんが調べた情報にも興味があったし、渡りに舟ってやつですよ」

「そう言ってもらえると助かるわ。ではひとつよろしゅう」

 社交辞令っぽいやりとりの後、お互い席に着きとりあえず乾杯し楽しい楽しい夕餉の時間が始まった。

 とは言っても世の中、こちらが思っているように事が運ぶ程甘くはないらしく巫さんが持っている情報というのは所謂、こちらの欲しっている怪異に関した情報は少なく、彼女は俺達とは違い、本当に民俗学を学んでいるのだろう。出てくる情報は至って学問的と言ったらいいのか。蒼神信仰の由来、生まれたわけ、信仰が退廃していった経緯果ては現在の海の水質状態からみる、この土地の漁業がダメになった理由と蒼神、そして科学的な見地からの結論と装備関係まで、要するにこちらの欲しかった情報ではなかったという話だ。

 桜沢と水上は早々に飽き、俺としょうもない話をしながら食事を進めていた。神馬さんも見た感じは普通に会話しているように見えるが明らか目が死んでいるのが分かる。しかし、ここまで来てしまったら帰ってとは言い辛い、そういう状況だろうか。嬉しそうに語る巫さんを目の前にすれば尚更だ。なんか違う方向で面倒臭くなったなぁ。森先輩はというとどうも会話を記録しているらしく一生懸命になにやらパソコンに打ち込んでいる。それは別に構わないのだが森先輩の周辺に空の瓶ビールが微妙に増えていっている事の方が気がかりだ。大丈夫かよ。

 そんな思いを馳せながら今宵はゆっくり更けていく。



 鈍く響く頭痛で目を覚まし、ゆっくり体を起こす。辺りは真っ暗でよく見えないがどうも旅館の自室らしい。途中から無理矢理、付き合わされたビールのせいで途中からどうなったのか、そしてどうやってここまで戻って寝ているのか記憶を辿っても何も出てこず、検索しても返ってくるのは頭痛と吐き気だけという最悪の状況だ。

「ああっくそ! 次からは飲むのはよそう」

 俺は静かに呟くと立ち上がり室内を確認する。どうやら水上はいないようだがどこへ行っているのだろう……と少し考えたが面倒臭くなってすぐに思考を中断する。とにかく気分が悪い。しようがない温泉にでも入ってアルコールを抜くか。確か温泉は深夜もやってたはずだ。

 そう思い立ち、俺は着崩れていた浴衣を少し直すと一旦、自室へ戻り洗面所に干してあったタオルを手に温泉へ向かう。

 さすがにこの時間では温泉には誰もいないな、っというか夕方に入った時も他の客はいなかったので俺達以外の他の客がいないのかもしれないが。

 湯船にゆっくりと浸かり、とにかく何も考えず、ぼーーっとする。まだ頭痛がするが多少はマシになったような気がする。

 さてと夕方の時は真面目ぶってああいうふりはしていたが今の時間帯、可能性は限りなく低いだろうが絶対ないとは言い切れない『あの』王道的ラブコメ展開……試さずにはいられないな。こういう馬鹿な事にオッズを張る。これもまた人生の楽しみ方のひとつだろう。そんな言い訳を自分にしながら俺は

露天風呂へと向かう。

 しかし、確率的にはかなり低いと分かっていても妙に胸の鼓動が速くなっていくを感じるのは酒のせいか、それとも俺が意外に小心者なのか。

 そんな事を考えながら俺は露天風呂の引き戸を開け、中へ入り、内部を一望する。

 自分の視界に肌色が映り、俺は体中が一瞬で熱くなるのを感じた。だが改めて、その肌色に焦点を合わせた瞬間、俺は俺の思考は停止した。

 そこにいたのは温泉の縁でうつぶせ状態で倒れている女性だった。

 ラブコメでなく湯煙温泉殺人事件だったらしい。などとジョークをかましている場合ではなくすぐに停止した思考復旧させ、その倒れている女性に近づく。湯気でよく見えなかったその人物が徐々に鮮明に見えてくる。

 そして俺はすぐにひらめき、全ての真相に辿り着く。

 見覚えのある顔、その人物の体つき(この体型はあの人しかあり得ない)、そして口元から流れる血……ではなく吐瀉物。すべてが一本に繋がった。

「森先輩……どうしてこんな事に」

 そこに倒れていたのは酔いつぶれて寝ゲロでむせて尚も寝ている、森先輩の無様な姿がそこにあった。


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