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ただ、そこに辿り着くことの難しさ 其の二

「なるほど、同じ部活に所属し、接点を作るということか」

 確かに手段としては俺もアリだと思う。しかし、それと同時に様々な疑問が思い浮かぶ。

「その部はこんな中途半端な時期に入部しても問題ないのか?」

「問題ないと思うよ。人数もかなり少ないし、むしろ歓迎されるんじゃない」

 もう日差しに夏の熱気を帯び始めているこの時期に問題なく入部出来、留年した人物でも所属出来る……。おそらく文化系だろうが一体、何部なのだろう。

「で、何部だ」

「民俗学研究部。ちなみ所属人数三人」

 予想していたよりもはるかにマニアックな部活名に若干、困惑する。

「どういう部活だ? それ」

「色々、聞いてみたんだが具体的な活動内容まではちょっとわからなくてな。ただあまりいい噂は聞かない部ではあるらしいな。」

 ややこしい話だな。確かに初めて桜沢を見た時なんか普通とは違った雰囲気を持っていた。その妙な感じが気になったので調べてもらっているわけだがここまでの情報だと『異端』……そういう単語が頭をよぎる。

「クラスの評判もやっぱりあんまりよくないのか? 」

「そっちの方は可もなく不可もなくってとこか。成績はそこそこ、人間関係もつかず離れずとある意味、うまく立ち回っていると言える。ただ、去年の同級生からの情報によれば奇行や妄言の類の激しいヤバい奴との噂も」

 なんか嫌な感じだな。今から進もうとしている道が地雷原じゃないだろうか……それが今の率直な感想だ。まぁここでグチグチ考えてもしょうがない。どっちにしろ何の結果も出ていないのにここで退くわけにはいかない。とりあえずは行ってみるか。引き際は大事だが、それは今ではない。

「了っ解。じゃあとりあえず今日の放課後にさっそく行ってみる。部室の場所は?」

「確か、北校舎の一番、はじの教室だったかな」

「北校舎? お前がいい噂がないって言った理由が今、分かったよ。そんな所に部室のある部にいいイメージがつくわけがない」

 北校舎とは我が校で最も古い建物であり、倉庫や物置などが教室の大半を占める。普通の生徒は用がない限りは滅多に行く事のない場所だ。

 校内の治安上、問題ありとされていて定期的に教師が巡回しているらしいが実際にそんなことが行われているかどうかは怪しいものだ。情報に疎い俺の耳にさえその評判の悪さは届いているのだ真偽はさておき余程なのだろうとは思う。まぁ当時は個人的にはどうでもいいことだったがまさか関わる羽目になろうとは、わからないものだ。

「なんか聞けば聞く程テンション下がるな。牧野、情報サンキュな。今度なんか奢るよ」

 俺はそう言いながら立ち上がると、自分の教室に戻るべく、階段を下り始めた。

 背後から手を叩く音が響き、牧野が俺に声をかける。

「あっ悪い。今、思い出したんだけどその件の人物が所属している部な」

「ん?」

「『消えない』部なんだよ」

「どういう意味だ」

「普通さ、部員が少なかったり、いなくなったりするとその部活は廃部になるだろう? あの部はここ数年、部員がゼロだったのにも関わらず廃部にならず、部そのものだけが数年、存在していた。そして去年、桜沢と森 要という人物の二人が入部し、数年ぶりの人の所属する部になったというわけさ。おもしろいだろ?」

「気味悪いよ」

 一瞬、目眩がしたような気がした。

 終礼が終わり、なんの代わり映えのチャイムの音が校内に響き渡る。聞くたびにどことなく気怠い気分になるのは俺だけだろうか?

 そんな事を考えながら俺は北校舎に向かっている。しかし、いきなり行くのはいいがどうすれば自然な形で入部出来るか、それが問題だ。面識もない人間が突然、入るような部活ではないことは部活の名称からして明らかだ。

 今日はとりあえず見学という形をとり、どのような部活をしているか見学する事にしている。まぁいきなり入部でもいいが少しでも怪しさを緩和するために段階を挟むことにしたわけだ。部活そのものには特に興味がないため、ぶっちゃけ、どうでもいいのだが……どうせ帰宅部で毎日、プラプラしているのだ、これを機会にこの部活動をやってみることは別に悪くはないとは思っている。

 二階にある、北校舎への渡り廊下を通り、校舎内へ。

 やはりというか人が全くいない。本当にさっきまでいた本校舎と同じ学校なのかと疑問に思ってしまうほど雰囲気が全然違うように感じた。放課後の喧噪が遙か遠くで聞こえるがなぜかそれが遠い違う世界の音に聞こえる。それぐらい静かなのだ。

 そういえば俺もこの校舎には一,二回くらいしか来た記憶がない。牧野曰く物置になってしまった教室が確かに多いのだが『特殊』な事に使う教室も中にはあるらしい。

 その民俗学研究部の部室となっている教室は二階の一番、端にあるらしいのでそこまで歩く。

 その教室へと近付いていくにつれて、廊下に石の塊のようなモノが置いてあるのに気付く。距離的には件の教室の一つ手前の教室辺りだろうか。なんだ?

 俺は少し、足を早め、その石塊に近付く。

 それは地蔵だった。それもかなり古いもののようで元々はもっとメリハリがあったであろう形状は長い時間、風雨にさらされたようで曖昧な感じになっている。シルエットで辛うじて地蔵だろうなという認識出来るが近代的な建物の廊下に鎮座するその物体は恐ろしく違和感があった……っというかなでこんなモノがここに?とは思ったもののとりあえずスルー。考えたってそこにあるんだからしょうがない。今は用事の方が優先だ。

 そう考えながらその地蔵を視界の端に捉えつつ、通過。部室まではあと数メートルといったところだろうか。

 が次の瞬間、視界が暗転。目の前には先程、通った北校舎の入り口に立っていた。

(さっき確かに通ったよな? どうなってる)

 少し混乱状態なりそうだった頭を落ち着けて、考えてみるが何も思い浮かばない。仕方がないのでもう一度、行ってみる事にした。もしかしたら立ったまま白昼夢を見ていた可能性も『絶対』ないとは言い切れないわけだし、まぁないとは思うけど。

 小走りでさっき通ったであろう廊下を進む。やはり先程と同じように廊下には地蔵が置いてある。不安と好奇心が入り混じった感情の中、さらに加速地蔵の前を通り過ぎるもまたも視界は暗転。俺はまた北校舎の入り口に立っていた。

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