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蒼き神の再誕 其の三


「おい、お前ら聞こえてるか? 」

 初めてのスキューバダイビングに少々ね面食らっていたところに耳に装着しているインカムから神馬さんの声が聞こえる。装備的にこちらから返事出来ないのだがっていうかその事は神馬さんも知っているだろうに。

「ああっそっちから返事出来ないんだったな。じゃあいいか。お前らそのままとりあえず前、方角で言うと南西方向へ進んで。すぐにでかい岩みたいなのが見えてくると思うから」

 指示内容を聞くと俺と桜沢は視線を合わせお互いにうなずく。『ついてきて』のジェスチャーをした後、桜沢は体の向く方向を変え、指示の方角へ進み始める。

 俺も少し慌てつつそれについていく。

 しかし、学校のプールで何度か練習したとはいえ、やはり本物の海だと微妙に感覚が違うような気がする。さすがに南の海のような様々な海洋生物が見られる事などは最初から期待していなかったがしかし、本来の海とはここまで生物がいないものなのだろうか、魚の姿などが全く見えず、それなのに海水そのものは妙に澄んでいて視界はすこぶる良好。まるで生物感がなく、でかい水槽の中で泳がされているそんな妙な感覚を覚えた。

 そうこう考えているうちに目的の場所に到着する。まるで岩がそこに生えているようにそれは存在した。高さは五メートル、山なりの形状をした、その岩は外観上は自然物のようにも見えるが何も存在しなかった海底にそれだけがポツンとたたずむ様は何かの意図があるのではとも考えられた。

「よし、到着したな。その岩のどっかに祠みたいになっている所があると思うからそれを捜して。くれぐれも見つけても指示があるまで触るなよ」

 いや、言われなくてもそんな得体の知れないモノに誰が触るか。

「特に桜沢。絶対触るなよ」

 ああっこいつは触るわ。

「ああっ後、少しでも違和感を感じたら、知らせて。カメラからこちらもチェックしているとは言ってもカメラ越しではどうしても感知し辛いからな」

 まぁそうならないように祈るよ、マジで。

 ほどなくして祠を発見、同時に社らしきものも見つける。話だけ聞いているとどれだけ大層な神社が沈んでいるのだろうと思っていたが失礼な話になるがそれはかなり粗末なものだった。一応、社の体は成しているがボロボロの上にとても小さく、その辺の道端にある名もなき社にすら劣る代物だった。長く海中にあったことや場所的な事も考慮にいれれは、仕方がない事かもしれない。ただ、この辺り一

帯の自然を司っていた神と聞かされていたのだが少々、拍子抜けだ。

 確認のため、桜沢のカメラに向かって、『これ?』のジェスチャーを行う。

「うん、それそれ。やっぱりかなり痛んでるわね。二人共、何か違和感とかは?」

 俺と桜沢返事の代わりに首を振って返事をする。確かに妙だとも思える。いつもならばこういう場所に来た場合、周辺の霊子が濃いせいもあり呼吸の際、違和感を感じたりするのだが水中にいるせいか今回はそういう感じが全くしない。海の状況に違和感は感じるが霊的感覚としての違和感は感じられない。それが現状だ。もしかして俺達が気付いていないだけなのか。そんな嫌な思考が頭を過ぎった。

「もう少し接近してくれないか。社には『何』が祀られているか気になる」

 気が進まなかったが仕方なく言われるまま、社に手が届くぐらいの所まで距離を詰める。朧げながらも祀られている物体が何であるか見えてきた。それは水晶だった。球体である事や海草やこけのわずかな隙間から見える表面のつや等からなんとか水晶だと認識出来た。これもまた失礼ながら御神体としては少々、ありがたみに欠けるというのが率直な感想だ。まさか、今回『これ』を持って帰るとか言わないだろうな。考えただけでも罰当たりな話だがあの人なら本当に言いかねないから恐ろしい。

「ふむ、なるほど」

 神馬さんの珍しく神妙そうな呟きが聞こえてくる。いつ、とんでもない命令が来るのかと考えると場所も場所なだけに不安で仕方がない。あと、桜沢が隣にいるのだが余計な事をしないかとこっちこっちで心配が尽きない。

「桜沢、樋口。やはり何も感じないか」

 俺も桜沢も先程と同様に首を振り、質問に対して否定で返事をする。

「よし、分かった。お前ら戻ってこい。明日の朝もう一度来るがおそらく今回は『はずれ』っぽいな。視覚的にも知覚的にもここまで感知出来ないならこの場所はおそらく『シロ』だ」

 珍しいというか初めての事なので少し驚いている。つまり無駄足というわけだがここまでの装備を揃えて、何もありません……あり得るのか?我ながらなぜ、そんな事を考えるてしまうのか不思議だった。普通に喜ばしい事だろうが。しかし、なんなんだこの腑に落ちない感覚は。俺は何か厄介事を期待していたと?そんな馬鹿な。

 思わずそんな思考を振り払うように首を左右に振る。桜沢が先行して帰還の途についているのが視界に映り、慌ててそれについていく。

 海から上がると神馬さんは笑顔を浮かべながら、労いの言葉と共に。

「こんな事もあるさ。明日、念のためにもう一度潜るがそれで何も発見出来なければ楽しい楽しい、自由時間としようじゃないか」

 そう言いつつ水上に後片づけを指示し、蔵森さんには港へ引き返すように言うとそのまま何やら考え込み始め、そこからは何を話しかけても適当に返事されるだけだった。



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