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誘う刀 其の二

「馬鹿はお前だ。せめて味見はしろよ。あと換気扇をつけろ。頭が痛くなりそうだよ。いろんな意味で」

「そう言ってられるのも今のうちよ。食べた瞬間、あなたが涙を流して喜ぶ瞬間が目に見えるわ」

 桜沢は自信満々の表情で台所に再び入る。どっからこの自信は来るんだよ。それにしても凄い臭いだな。刺激臭っぽいせいか。段々、不快になってきたのでとりあえず部室の戸を開け、廊下の窓を開けね外気を入れる。

 ああっ普通の空気って素晴らしい。囚人がシャバの空気が美味いっていうシーンがあるけどこういう気分なのかもしれない。

 部室に戻ると既に桜沢が既にスタンバっている。ちゃぶ台の真ん中にはなぜかフランス料理とかに出てくるでかいドーム状の蓋みたいなものがが偉そうに鎮座している。

 ここまで来たらもう諦めるしかないな。俺はそう覚悟を決め、ちゃぶ台の前に座る。まぁポジティブに考えれば、今までこいつの料理を食べたことはないわけで、もしかしたら意外と美味いかもしれないしな。と無理矢理、自分に言い聞かせる。

「で、何を作ったんだ」

「そうね、名付けて『天使のカブリエルサファイヤ』」

「創作料理なのか!? 森先輩のレシピはどうした)」

「やっぱりさ。なんかそれってつまらないじゃない?レシピ通りなんてなんか最初から用意されたレールの上を走るみたいでさ。だから少し、オリジナル要素を加えてみたわけ。だから正確に言うなら 桜

沢 潤特製『天使の涙炒飯ガブリエルサファイヤチャーハン。どう?」

「炒飯かよ」

 大層な中二全開の名前付けといて、最終的にいつもの炒飯とか、拍子抜けというか安心したというか、不安なのは変わらないが。炒飯ってそんなに不味くは多分作れないとなんとなく思う。

「そう言うな。とりあえずはまずはその美しい姿をご覧にいれよう。料理ってのは見た目、香り、味の三重奏だからね。あまりの美しさに食べる躊躇されちゃうと困るけどね」

 いや、その理論でいくと香りの時点でかなりのクソったれマエストロが混ざっているような気がするがそんな思惑もお構いなしに桜沢は嬉しそうにその蓋を取る。

 そこには、一面の青色が広がっていた。まるで沖縄の海を彷彿とさせるその色はその物体が『炒飯』でなければ、素直に美しいと言えたかもしれない。だがその物体がこれから自分の口に入れなければいけないと考えれば、俺はそれを視界に入れた瞬間、戦慄を禁じ得なかった。

 そこにあったのは蒼い炒飯だ。それも半端な染まり具合ではなく。米を南国の海で芯から染めたようなそんな印象を受けた。正直な感想はを一言。気持ち悪っ。これを食えと……いやいや、む御冗談を。

 森先輩の反応を見ると先輩もさすがに顔が引きつっている。ドン引きだ。

「ふふっ驚きのあまり、声も出ないっところかしら。ふふん、だがこんなのは劇で言えば序章に過ぎないわ。本番はここから。さぁ食べて、食べて」

 まるで今から俺らが美味しいと涙を流し、『見直したよ、桜沢』っと言って欲しいっという雰囲気を全身から出しながら、小皿に炒飯をよそっている。

 俺はその姿を見て、ふとひとつの疑問が思い浮かぶ。俺はこの笑顔で褒められるのを期待している桜沢に正直な感想を言うべきなのだろうか。

 目の前に置かれた以上は当然食べなければいけないわけだがいかんせんこの見た目だ。食欲はみるみる減退していく。ダイエット食品としてはいいかもしれない。

「さぁ食べて、食べて♪」

 嬉しそうな桜沢を後目に俺は森先輩と目を合わせ、あ互い、覚悟を決める。蓮華でその謎の青い炒飯をすくうと心の中で気合を入れ、一気に口へ運ぶ。

 食った瞬間に口内から鼻孔へ強烈なチーズの風味が貫く。

(なんだこれは……)

 味は完全にチーズが支配しており他にもおそらく何か入れているのだろうがその全てがほとんど消失してしまっている。そしてなぜかご飯そのものがかなり水分を含んでいて、おおよそ、それは炒飯とは呼べる代物ではなく。どっちかというと感じ的にはリゾットに近いだろうかリゾットに失礼だが。というかリアクションに困る味だ。食べれなくもないが決して美味しくない。

「微妙だな」「微妙ね」

 俺と森先輩発した料理の感想、第一声がハモるように室内に響く。俺は料理を租借しながら、残っている、自分の分のその炒飯(自称)を見て、さらにゲンナリする。

「それ、どういう意味?まぁまぁってこと?」

「いや、お前、ポジティブに捉え過ぎだから。ぶっちゃけあんまり美味しくないってこと」

「マジで! ? っていうかお前、意外とはっきり言うな」

 そうなんだよな。普通、好きな女子が作った料理ならある程度のものなら『あっ俺は結構好きかも』とか言って全部食べるものだとなんとなく思っていたのだがなぜか普通にそのまま感想を言ってしまった。この辺りがこいつに対する感情の謎の部分だなと改めて感じる。

 そう言いながら桜沢は自分の分の炒飯を食べ始め、ゆっくりと味わいながらわずかに表情を歪める。

「これは確かに微妙だな。色々、入れたのにチーズの味しかしないし、ベチャベチャしてるし。おかしいなぁ何回もフランベしたのに」

「いや、フランベってそういう目的の調理法じゃないから、その時点でアウトだよ。まぁ次は水上にでも付いて貰って作ったら?」

 俺はそう言いながらとにかくその炒飯をただひたすら口へ運ぶ。このまま

食べずに捨てるのはなんか抵抗があったのでとりあえずよそわれた分は食べようと試みてはみたが、これは凄いな、食べれば食べる程不味くなっていく。舌の上に苦みを覚え始め、軽い車酔いみたいな感覚を覚える。どんな料理だよ、全く。

「おおっ! なんだかんだ言いながら食べてるね、樋口。意外とアリ?」

「ねーよ。限りなくアウトに近いアウトだよ」

「それってただのアウトじゃん」

 面倒くせぇ。そんな事を心の中で呟きながら森先輩の方へ視線を向けると炒飯には手をつけず、なぜかこちらを見てニヤニヤ笑っている。

「なんですか」

「いや、別に。ただ今の君は見ていておもしろいよ。料理は不味いが」

「要まで。そこまで不味くはないでしょう」

 自分の分をなんとかクリアし、お茶を飲みながら口内を洗浄する。やれやれと一息つき、部屋全体を視界で巡らせると部屋の片隅に刀が置いてあるのが目に入った。



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