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樹海は謳う 其の七

 あまりに急激な状況の変化に理解が追い付かない。これは俺だけで水上や桜沢も同じらしく、桜沢は慌てて、神馬さんに連絡を取り、水上は険しい表情 で身構える。

 しかし、思考を落ち着かせる暇もなく、次の銃声が辺り一帯に響き渡る。

「神馬さん、何があったんですか?」

 桜沢は尚も、神馬さんに連絡し続ける。どうやら先程から返事がないようだ。

 何かが落ちるような音がし、全員の視線がその音の発生源を捜す。程なくしてその発生源は見つかる。俺達のいる場所からさらに三十メートル程奥に行った場所に人らしきものが倒れていた。

「神馬さん、あんた、まさか……」

「一応、勘違いされちゃ困るから言っておくがあそこに倒れている人物こそが 今回の件の主犯だ」

「けど、いきなり射殺する事はないんじゃないですか」

 警告もせずにいきなり射殺とか普通に考えればあり得ない行動だ。どういう神経しているのか理解に苦しむ。

「いや、私も当初はそう思っていたんだがね、色々と聞きたい事もあったしね。しかし、残念ながらそんな事をさせてくれるレベルの奴じゃなかったよ」

「まさか、さっき感じた足元に感じた感覚は」

「そう、野郎が何らかの術式を使う気配を察知したんでね、しかも結構、強力なヤツを。だから撃つしかなかったっわけ。撃ってなければ、お前らは今頃、その樹木の堆肥、良くて木隷にされていただろうよ」

「けど神馬さん。いくらそういう人物とは言っても、実際、殺害しちゃったわけだし、あの遺体とかってどうするの。埋める?」

 桜沢が至極、生々しい質問をする。確かにどうするんだよ。あれ。さすがに死体の埋葬は遠慮したいところだ。っていうか樹海で死体埋めるとか、どこのヤクザだよ、俺たちは。

「いや、埋葬とか面倒だし、そのまま放置するよ」

 あっさりと放置宣言。それはそれで問題なような気もする。

「神馬さん、仮にですよ。万が一、発見されて場合、俺達ヤバくないですか?」

「それに関しては問題ないわ」

 いきなり、会話に割り込んできたのは森先輩の声だった。

「神馬さんが撃った男、名前は梅園 恭介、とっくに断絶したと思われていた呪術を生業とした一族なんだけど」

 また面倒臭そうな名前が出てきたな、しかし。こいつらと一緒に行動するとなぜかこういう系統の人物によくエンカウントする。なんだよ呪術を生業とか怖すぎるだろ。

「で戸籍をちょっと調査してみたところ、驚くべき事が判明したのよ」

「今回の件を下調べしていたら、引っかかってきた人物でな。どうやらこの周辺の地域で呪術に関する研究をしていたらしい。でちょっと森に調査してもらったわけさ。」

「この人物、なんと戸籍上の年齢がなんと213歳。江戸時代から生きているというとんでも人物だったんですよ」

 しれっと森先輩は言ったが俺は自分の耳を疑う。それを聞いた他の奴らも言葉を失う。もちろんそんな事が現実、あり得るはずがないというのは小学生でも分かる。

「神馬さん、そっちの世界ではあり得る話なんですか。その、そういう霊的な力で長生きする人っていうのは。おとぎ話レベルでいうなら八百比丘尼ぐらいしか思いつかないんですが」

「いや、私もあくまで伝説や文献程度でしか私も知らん。、現実にあるとは私も思ってなかったよ。だが今、倒れている人物はスコープ越しとは言えどう見てもジジイには見えん。これはかなり興味深いな」

 『興味深い』ときたか。この辺りがやっぱりあの人と俺では価値観に決定的な違うんだよな。まぁどっちが正しいとかのたまうつもりはないが。

「神馬さん、とりあえず実は採取しますよ?」

 状況の理解を諦めたのか水上は再度、ナイフを投げる構えを取る。

「ああ、待て待て。水上、私が今から銃で枝ごと落とすから、お前は落下点に行き、キャッチしろ。絶対、落とすなよ」

 さっきまで極力、使用を控えていた狙撃銃を今になって、急に木の実を狩る程度の事に使用する……なるほどなんとなくだが分かってきた。

 本日、二度目の銃声が再び樹海一帯に響き渡る。太陽を彷彿とさせる紅い果実は垂直の線を引くように万有引力の法則に従い、落下し、水上はそれを難なくキャッチする。やはり、こいつはこういう事をやらせれば、なんでもそつなくこなすなぁと感心するが俺はそれよりも気になっている事を思わず口走る。

「神馬さん、あんた、元々、『これ』が目的だったんじゃないですか?」

「なんの話?」

 三発目の銃声。今度は蒼い果実だ。

「今回の一件ですよ。本当は大体、掴んでたんじゃないですか? 」

 でなければここまでの流れ、全てがうまくいき過ぎている。狙撃をギリギリまで行わなかったのは術者の存在を知っており、敢えて、水上にああいう不確実な方法での果実の採取を指示したのか。全て神馬さんのシナリオ通りだったと考えない限り、あり得ない采配の妙だ。

「そうね。まぁ否定はしないよ。今回はあからさま過ぎたしね」

 少し、声質に冷気と硬質が混ざる。

「えっじゃあ本当に今回の件は神馬さんの筋書き通りに事が運んでいたって事なんですか」

 桜沢は素直に驚いたような声を出す。こいつのこの反応は少し意外だ。てっきり、こいつは知っていると思っていたんだが

「いつもは事前に知らせたりするんだけど、今回は自然な立ち振る舞いが欲しかったんでね、敢えて知らせなかったわけだ」

「俺たちはあんたにとって駒なのか?」

「樋口、あんた口が過ぎるわよ。そして何も分かっていない」

 桜沢は俺を諌めるような口調で言い放つ。

「いいよ、いいよ。桜沢。要するにあれだろ? お前が言いたいのは私があんたたちを役者として巧く台本通りに動かし踊らせ、舞台脇でほくそ笑む演出家に見える。そう言いたいんだろ?」

 なかなか見透かしたように言ってくる人だな。というか分かってやっている所もあるからだろうが妙にイラつく言い回しだ。

「そうじゃないと?少なくとも俺は今回の件でその疑惑をより強くしました」

「まぁ普通、そんな事、本人に言わないもんなんだがね。その真っ直ぐな所は嫌いじゃない。けどこういうのはキッチリ言っとかないとな」

 段々、口調が普段の感じに戻りつつある。なんというかあまり相手にされてないように感じる。なんか俺がだだっ子みたい言われるのはなんか腹が立つ。

「で、お前に何が出来る」

 いきなりに言い放たれる怒気を含んだセリフに思わず気後れし、心情が一瞬で叱られている時のモードになる。



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