ただ、そこに辿り着くことの難しさ 其の一
「オーパーツ(場違いなモノ)」そういうモノが少なからずこの世界に存在する事ぐらいは知っていたがテレビや本で見たり、聞いたりする分にはなかなか興味深い話だと思うし、ロマンすら感じる。しかし、実際、自分がそういうモノ出会うとどういうリアクションをしていいのか困る。というより異常さがの方が先行してしまい気持ち悪いとさえ思う。
俺は今、学校の廊下で一体の地蔵と対峙していた。
事の始まりは昨日の昼休みまでさかのぼる。
俺は友人と屋上への入り口の階段に腰掛けている。
「桜沢 潤? 」
その男はそう言いながら購買で買ったウインナーパンを一口囓る。
彼の名前は牧野 涼、俺の数少ない友人のひとりである。俺とは違い交友関係も広く。それなりにビジュアルもいいためモテると俺のコンプレックスを体現したような奴ではあるがなぜかその腐れ縁は切れずこうしてたまに一緒に飯を食ったり、遊んだりするのは自分でも不思議だ。
「知ってるか?」
「まぁある程度はね。何? そいつがどうかしたか?」
「分かる範囲でいいから、どういう人物か調べてくれないか? 」
牧野はパンを食べ終わり、紙パックのコーヒー牛乳を飲み、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「なんだよ」
「いや、意外だなと思ってね。重度の引き籠もり体質で学校に来ているだけで既に奇跡と謳われるクロエが女性に対して積極的にアプローチをかけようとするなんてね。驚きと同時に感動すらおぼえるな。明日は赤飯でも炊こうか?」
「言い過ぎだ。俺はどんな存在だよ。そこまで酷くない」
少し、怒気を含めて切り返す。がまぁ言ってる事の方向性はある程度、正解なのが痛いな色んな意味で。
「まぁまぁ。もちろん友人としてそれくらいならいくらでも協力させてもらいますよ」
なんか、態度が微妙なような……まぁいいか。
「しかし、桜沢 潤とはなかなか渋いチョイスですな」
牧野の『あーそこきたか~』という感じを空気と態度でなんとなく分かる。そんな微妙かな。自分的には充分可愛いと思うけどなぁ。
「なんだよ、なんか問題でもあるのか?あっ別にまだ女性として好きとかそういうのじゃないからな。一人物としてどういう奴なのか興味があるだけでまだそういう段階じゃないんだ、マジで。誤解するなよ」
「異性に対するそういう感情は好きと同義だよ、クロエ。」
「ふーん。そういうもんかね」
「そういうもんだよ。あと『あの』桜沢 潤を全く知らないというのもどうかと思うぞ。友人としてもう少し他の人と会話をして欲しいものだ」
「大きなお世話だよ。それよりそいつ結構、有名人なのか?」
「ある意味な。フレッシュな新一年生の中にダブっている生徒がいれば嫌が応にも目立つだろう?」
「……マジで!!」
うちの学年にそんな奴がいるのか。全然知らなかった……。牧野の言うとおりもう少し人と喋るべきかもしれない。
「マジもなにもうちの学年じゃ割と有名な話だぞ」
「ふーん。しかし、留年とかしたら普通、学校を辞めたりするもんだと思っていたけどそいつは在学してるんだな」
俺の固定概念かもしれない。しかし、ここが落ちこぼれ救済の学校だったらいざ知らずそれなりの公立高校だ。俺だったらいたたまれないし、いろいろと辛そうだと思うが。
「まぁ桜沢の場合は別に勉強が出来なくてとかダブったわけじゃないからな。」
「ん? なんか別の理由が?」
「でなけりゃ、そこまで話題にはならんよ。僕も詳しくは知らないけどね。その辺も含めて調べてみるよ」
「ああ……。頼むよ」
翌日、牧野とはいえ数日はかかるだろうと予想していたのたが次の日の昼休みに同じ場所に呼び出された。どうやら調査し終えたらしい。
「もう調査し終えたのか?随分早いな」
「まぁな。今の時代、色々と便利なモノがあるからな。いい情報源さえ確保しておけばある程度のレベルの情報だったらそれほど労せず手に入れられるよ」
牧野は得意気に胸を張る。
そんなものだろうか。そのいい情報源が何かは少し気になるところだが今はとりあえずどうでもいいか。大事なのは情報が入手出来たという結果だ。
「でっどんな情報をお望みで?」
「ん? いちいち聞くのか?出来れば書面に起こしてくれた方がいいんだけど」
「それはちょっと面倒臭いからパスの方向で。口頭でいいだろ、別に」
まぁただで調べてもらったんわけだからそこまでは贅沢か。しかし、それはそれで面倒くさいような気もするが、何を質問すべきなのだろうかと少し考える。まぁ聞きたいことは結構あるがなんか微妙な気恥ずかしさみたいな感覚が俺の発言を鈍らせた。
少しの間、両者に沈黙が続く。
「どうした? 気になることがあったから僕に調べさせたんだろ? 何を悩んでいる」
「いや、そうなんだが……そうだ、牧野、俺は桜沢自身の本質的な所を知りたい。そのためにお近づきなりたいわけだけど具体的にどうすればいい?」
「どういう質問だよ。しかしまた随分と遠回しな言い方だな、全く」
牧野は軽く嘲笑するとと同時に軽くため息をつく。
「僕の率直な意見を言わせていただくと君は見た目はイマイチだ。学校での評判もパッとしない。仮にそのままストレートに告白しても失敗する可能性が圧倒的に高いだろう」
「喧嘩売ってるのか?というか何の話だ。お前また誤解したまま話を」
「まぁ、聞けよ」
笑みを浮かべながら、俺に左手で制し、話を続ける。
「僕は君とは結構、長いつき合いになる。君の持ち味もそれなりに理解しているつもりだ。それに気付いてもらうには中長期的なスパンで君のことを見てもらわないといけない。君は噛めば噛むほど味の出るそんな男だからね」
なんか褒められてるんだかてるのかけなされているのか微妙な気分ではあるが多分、後者だろうな。
「しかし、残念な事に君と桜沢さんはクラスが違う。君の素晴らしさをアピールするのは今の接点の少ない状況ではそれすら至難の業だ。そこで僕からの提案というわけだ」
「ん? なんだ?」
なんか、俺が桜沢 潤をゲットする作戦会議みたいになっている。言っても聞かないだろうからとりあえず話を進める。
「桜沢さんと同じ部活に入るんだよ」