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闇の香りはリンスと共に 其の一

 日が経つ事に暑さは増し、体感的にはもう夏の本格的到来を宣言しても問題ない感じだ。登下校の時間が比較的気温の低い時間帯ではあるとはいえやはり徒歩という行動による体温の上昇と発汗は毎年の事ながらうんざりする。

 そんな事を頭に過ぎらせ、同じ部活仲間である水上 冬馬と帰路についているところだ。こいつとはそろそろ知り合って一月くらい経つが相変わらずよく分からない奴で、まぁよく分からないという意味では神馬さん含めて他の部員も同様だが、そういう観点で考えれば、水上はまだまともな部類に入る人間ではある。我が民俗学研究会の『戦闘』担当でクールなイメージを受ける。中学時代はここいら一帯に悪名轟かす……

「しかし、部活ってのはこういうものなのかね」

 なぜかは自分でもよく分からなかったけどとりあえず話してみたくなった。

「なんの話だ」

「うちの部活だよ。今日も適当に集まって、料理食って、喋って終わりだぜ?何部だっていう話。そう思わね?」

 水上は視線を前に向けたまま、少し考え込む。

「うーん……けどあれだ、うちの部は波風が立つ時ってのはそれこそ嵐の如くだろ? 普段のあの緩い空気はむしろバランス取れてるんじゃないか」

「まぁ……そう言われる確かに……」

 なんか妙に納得してしまう。しかし、それだと今の状態は何か大きな災厄が起こる前触れという話になるわけだが考えただけで鬱になりそうだ。全く出来ればそういう事は避けたいのだが、部長である桜沢がトラブルを招くどころか自ら突っ込んで行くような奴だ。そう望むのははっきり無駄だという事を最近理解した。

 そして……

 目の前に少女が立っている。年齢は中学生だろうか、制服を着てはいるがこの辺りでは見ないタイプの制服だ。しかし、その制服は何故かかなりボロボロでしかも汚れている本人も顔や腕の露出している部分には擦り傷が少々。その茶髪の少女は俺達と目が逢うとこちらへ近づきこう言った。

「お願い、助けて……」

 そして厄介事は放って置いても向こうからやってくる。面倒な、全く。

 俺は水上の方を見、反応を伺う。

 水上はこちらを少し視線を走らせ、すぐに少女へ戻す。

「何があったか、説明してくれますか。俺らでなんとかなりそうな話でしたらなんとかしますけど」

「水上!!」

 なんの躊躇もなく目の前のおそらく厄介事になるであろう少女の助けを求める手を即座に取らんとするその快諾に俺は思わず声を上げる。

「しょうがないだろう、この状況、無下に無視するわけにはいかないだろう?」

「そうだけど……」

 分かってはいる。人として、無視するわけにはいかない場面では分かってはいるがなぜ、こいつは、いやこいつも、厄介事になると予測しうる救いを求める手をこうも迷いもなく取れるのか。俺にはどうしても分からなかった。



「しばらく、どちらかの家に泊めて欲しいんだけど、ダメかな」

 詳しい事情を聞くため、近くの自販機横のベンチで話を聞く事になったのだがその少女が発した第一声がこれである。少し拍子抜けというか、もっとややこしい事態を想定していたため内心、ホッとする。

 ただの家出少女か。厄介事ではあるが命に関わらないだけまだましというものだ。衣服の汚れからてっきり何かから逃げているのかと思っていたのだが、汚れに関しては後でさりげなく聞いてみるか。

「水上、うちの部ってそういう依頼も受けるのか」

「いや、微妙だな。厄介事や揉め事で霊関係以外でも依頼を引き受ける例は今までにもあったが結局のところ、桜沢先輩や神馬さんのサジ加減ひとつだからな。断る事もままあった」

「じゃあとりあえずどっちかに電話するしかないんじゃね」

「まぁそうなんだが、あの二人、あんまり出ないんだよなぁ。メールも返信来ないし」

 水上はそう呟きながら携帯電話をポケットから取り出し、ボタンを押し始める。

 そういえば以前も放課後に連絡取ろうとしたけど出なかったけか。

 しばらく少女と共に水上の連絡を取る様子を観察していたが表情と様子からやはり全く出ないようだ。全く、なんのため携帯電話なんだか。

「ダメだ。全然、出ない」

「もう、お前の家に泊めてやったら、それこそここで『じゃあ、ダメです。ごめんなさい』ってわけにもいかないだろう?俺、実家だし」

「いや、俺もだよ。親になんて説明するんだ」

「俺の彼女ですでいいんじゃね。うん、それで万事解決だよ」

「何も解決してないし、彼女に失礼だ!」

 珍しく、少し感情の入った口調とわずかな顔の紅潮を見ると吹きそうになってしまった。そこまでクールに徹しているわけでもないのか。少女の方は少し困ったような表情と共になるべく視線を合わせないようにしている。照れかな。ぶっちゃけ発端である水上に押しつけてみたいような気もするがあんまり揉めても彼女も気まずいだろうし、とっとと次善の手を提案するか。

「じゃあ仕方がない。うちの部室に泊まってもらうしかないんじゃないか。幸いあそこには布団も食い物もある」

「それしかなさそうだな」

 水上もどうやら同じ事を考えていたみたいだ。まぁそれしかないしな。

 水上は少女に歩み寄り、部室に泊める旨を伝える。

「一応、うちの学校内なんで部外者あんた一人でってわけにはいかないから俺達も一緒に事になるけどその辺を了承してもらえればって話だけどどうかな」

 っていうか俺もかよ。面倒くさいなぁ。少女の容姿から考えればアリだけどな。などとつい内心思ってしまった。ああ、我ながらなんと俗な。

「ええっ、それでいいわ。二人にこの相談を持ちかけた時点でその辺は仕方がない事だし、むしろ全然オッケーよ」

 もう少し、警戒していただきたいものなんだけど、最近は俺が知らないだけで皆こうなのだろうか。

「じゃあそういう事で。私は下灘 百合、どうぞよろしく、おふたりさん♪」

 こうして俺達はさっきまで歩いていた道を再び戻る。

 俺の中では初の女子とのお泊まりにうきうきする自分と何か不安な感じを覚える自分とが複雑に絡み合い、今、俺自身がどういう気持ちなのかよく分からないままただ歩み続けた。



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