テディベアと終焉のアリア 其の六
比較的、厄介な事にならず帰路につけたのはまぁ上々とすべきか。ていうか寝たい。携帯電話で時間を確認すれば、その疲労感も一層、深まる。明日の授業は……もうあきらめよう。
車内にも疲労が空気に混じり漂っている、なんとなくそんな気がする。
「神馬さん、神馬さんはあの女、もうあーゆう事本当にしないと信じているんですか?」
どうやらうちの部長殿は今回の沙汰にご不満のようだ。終始無言の森先輩はともかく、水上は室内での件からも桜沢、似た心情だろう。
「おそらくだがやめないだろうねぇ。奴はあんなナリをしてはいるが根っこは生粋の職人だ。あいつは多分、本物の御霊人形を作ろうとしているのさ。市松人形じゃ今時、売れないだろうしそんなに愛でてももらえないだろうからな。そこで考えた結果、今回テディベアの件なるわけだが、それもあまりうまくいかず。おそらく隣の和室、おそらく工房かなんかだろうが既に次の試作っぽいのが転がっていたよ」
「いいんすか」
「正義の味方じゃないからな。依頼の件が達成出来れば私としては問題ないよ。個人的に気に入らないっていうならどうぞご自由にだ。なんならここで降ろそうか?」
「いえ……それはちょっと……」
黙り込む水上。
なるほど、これが神馬 赤月なる人物の思想か。なかなか、興味深いと思うと同時に人による考え方の違いに少し考えさせられる。
「しかし、先程、神馬さんと香月の会話では現代人はそこまで人形を大切にしないと言ってましたけどそれは今回とは別の『愛される』人形なんですか?」
「そりぁな、まぁ。愛する人形と別称されるくらいの代物だ。そりゃ滅茶苦茶、愛されるだろう」
なぜかにやけ顔でそう答える神馬さんの表情からすぐピンと来た。
なんとなく分かってきた。出来ればその話は止めて欲しい。絶対なんか気まずくなる。
神馬さんはおそらく分かっていて言っているのだろう口調は真面目だが口元がにやけている。
「それは……」
「そう所謂、ダッチワイフってやつだ。あれなら確かに愛される。しかも上等なやつだど六十万とかするし、商売としてもおいしいだろうよ」
「なぁ要、ダッチワイフっ何?」
場が凍りつくっていうかお前は東先輩になんていう事を聞くんだ。神馬さんは運転席で笑いを堪えるのに必死といった感じで体を震わせている。
東先輩は少し考えた末、周りを気にしながら桜沢の耳元で何やら囁く。
どんな説明かはまぁ大体、予想はつき、予想通りに桜沢は顔をみるみる赤らめながら、こちらを少し蔑視し、そのまま黙り込んだ。俺は関係ないだろうが。
だが不覚にもその恥ずかしがっている桜沢を少し可愛いと思えた。
どうもここまで読んで下さって本当にありがとうございます。
実際書いていても思ったのですが結構、地味な話になってしまったのが今回の反省点かなと思っています。大体の流れとオチだけ決めていたのですが戦闘っぽいシーンを入れ損なってしまいおとなしい感じに。次回はもう少し戦闘シーンを増やそうとは思います。感想または何か指摘事項がありましたらまた教えていただければ幸いです。今後ともよろしくお願いします。