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テディベアと終焉のアリア 其の四

 疾走する車の窓をただ眺めてはいるが目に映るのは黒に黒が配色された漆黒の世界。外を眺めれば気も紛れるかと思ったが暗闇対する潜在的恐怖心から心がザワつくだけだった。

 いつものメンバーはいるようだがさすがに皆、心なし眠そうに見える。

「今から行く所ってやっぱり犯人の所か?」

 前に座っている桜沢に声を掛ける。何か喋ってないと不安でどうにかなりそうだ。

「ええ。やっと特定出来たみたいでさっき連絡があったの。そんなこんなで急遽、全員の強制招集となったわけ」

「まぁ実際はほとんど要がやったようなものだけどね。私は今回の作戦の下準備とかした程度だがね」

 神馬さんはそう補足しながらバックミラー越しに視線を寄越す。

「神馬さんがこうやってわざわざ付き添ってくれているって事は今回も結構ヤバイ感じって事ですか?」

「可能性としてはね。まぁそう不安がるな霊的な事象でヤバい事なんてそうそうないから」

 これほど説得力ない言葉も珍しい。っつーか人の魂を喰らう人形が出ている時点ですでに充分、尋常ではないだろ。心の底から不安だ。

「けどそんな人形を作るくらいの人物なんですよね、犯人は。何者なんです」

 神馬さんは少し面倒くさそうな表情をする。

「要、頼む」

「分かりました。今回、あの魂を喰らう人形の製作と思われる人物、名前は香月 静留。人形作りの名家香月家の末裔にあたる人物で、江戸時代ではその業界で香月の名を知らない者はいないくらいのビッグネームだったらしいわね」

「だった? じゃあ今は?」

「人形作りに関しては数年前に廃業しているわ」

 森先輩はノートパソコンの画面を見ながら淡々と説明する。

「神馬さん、こういう昔の人形師っていうのは今回みたいな呪術みたいなものをよく使ったりするんですか」

 とりあえず、疑問に思ったことを口走る。霊的な質問なので神馬さんにしてみる。

「さぁ」

 随分と素っ気ない返事が返ってくる。

「なにぶん、ああいう伝統系って鎖された社会構造を形成しているからなぁ。情報があまり出てこないんだよ。裏ではそういう術の存在があるかもしれないし、他の術者が第三者が介入してきた可能性もある。結局のところ」

 車が静かに停車し、ドアが自動で開く。どうやら市街地の中らしい。

「本人に聞いてみないと何とも言えないって事だ。さぁ到着だ。行くぞ」

 神馬さんは助手席からてかいボストンバックを肩に掛け、車外に出る。俺達もそれに合わせてとりあえず出る。

 人形作りの名家とさっき聞いて、でかい日本家屋的なものを想像していたのだがどうもそれっぽい建物はなさそうだな。ここから少し歩くのだろうか。

「よし、全員降りたな。今回の件の犯人はこの目の前のマンションの最上階605号室に住んでいる。とりあえず、ここじゃ目立つんでこのマンションの屋上へ行くから」

 そう言いながら神馬さんはマンションの入り口に向かって歩を進め。俺以

外の全員なんの躊躇もなくそれに付いていく。

 俺はため息混じりにその後を追い、改めてそのマンションを眺める。どう見ても普通のどっちかというと安っぽい外観だ。

「意外っちゃあ意外かな」

 俺はそう静かに呟いた。

 夜風を少し肌に感じはするものの六月特有蒸し暑さは緊張と相まって呼吸すらし辛く思える。

 屋上に上がるやいなや神馬さんはすぐにボストンバックからザイルやら金具やらを出して何やら準備を始める。

 まさかここから犯人の部屋のベランダに降りる気か?ははっ本当だったらおもしろい冗談だな。

 神馬さんがザイルのカナグを給水塔の梯子に取り付ける。どうやらマジらしい。作業を終え、戻ってくる。

「では作戦を説明する。私と水上でここからベランダに降り、室内へ侵入。水上は犯人の拘束。私はすぐに中から鍵を開けるから他の奴ら605号室前で待機。以上だがなにか質問は?ないならすぐに決行する。行くぞ水上」

 そう言い終わると神馬さんは早くも降りるため水上と共に歩き始める。相変わらず無茶ではあるが俺が降りなくていいというのはこの上なく素晴らしい。これからもこの感じでお願いしたいものだ。桜沢

がなぜか不満顔だがなんでだ? と思いながら、俺は東先輩と共に屋内へ入ろうとすると突然、後ろで桜沢の声が聞こえた。

「神馬さん、私も降りたかったんですけど」

 どうやらこいつはこの降下作戦もどきをやりたかったみたいだ。この人、どこまでアグレッシブなんだよ。ややこしいな。

「お前なぁ、以前もやりたいって言ってやらせて落ちかけただろうが」

「今回は大丈夫ですよ。あれから学校で何回か練習しましたし、前みたいにはなりませんよ」

 学校で何やってるんだよ。つーかどんだけ行きたいんだよ。理解に苦しむな。トラブルを楽しめる桜沢にとってはそれほど魅力的という事なのだろう。

「そうなのか」

 神馬さんは面倒くさそうな表情をしながら水上に形式上っぽい確認をとる。

「はい。学校で二十回程、落下八回、降りられなくなった六回と自分としてはまだ実践するのは危険っすね」

「だそうだ。残念でした」

「水上~この裏切り者。空気読めバカ」

 いや、当然だろ。どうでもいいから早くしてほしい。眠いのもあるだろうがどうやら俺はちょっとイライラしているっぽい。ちょっと自己嫌悪。

「すんません。けどやっぱ危ないんで……」

 桜沢はまだ納得したわけではなさそうだったが水上の心情を察してか不機嫌顔でこちらに向かってくる。てっきりもっと駄々をこねると思ったが。

「行くわよ」

「ああっ、さっさっと済ませて帰りたいよ、マジで」

 俺と桜沢と東先輩は指示通り605号室前に到着。現時点でおそらくベランダに降下し終えていると考える今からが本題といったところか。最悪、警察沙汰もあり得るだけにぜひとも無理はして欲しくない。

 沈黙。何も聞こえない。仮に犯人(仮)の香月 静留が中で都合良く寝ていたとしても多少なり何か物音が聞こえると思うのだが。もしかして留守だったとかだったら俺としてはこれ以上の幸福はないと言える、本日限定だけどね。頼むから大声で助けを呼ばれるとかだけは勘弁してほしい。そう考えてみるとマジでそうなったらどうすればいいんだろう。考えれば考える程、不安がつのるばかりだ。




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