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テディベアと終焉のアリア 其の二

「喰われている?どういう意味だ」

 俺は思わず首を傾げる。いまいち理解出来ない。一体、何に何が喰われたというのか。

「お前は彼女を見て何か感じたことはある?」

「少なくとも何か憑いてるとかそういう感じはなかったけど……」

「けど?」

 やはり少し嬉しそうに聞き返す。

 こいつ分かっていて聞いてやがるな。確かにうまく説明出来ないがなんか彼女を視認した際にあった妙な違和感があった。あれは。

「なんか普通の人と比べて、そこに存在するという感じが希薄だったような。いまいちうまく言い表せないけど」

「うんやっぱりね。私もそう思った。やっぱ自分だけじゃないってのは確信になっていいね。まぁ正確には魂の気配が極端に薄かった」

 また聞き慣れない単語が飛び出す。なんだよ魂の気配って。

「言い換えれば魂の発する臭いっていうのかな。あんたは後天的に見えるようになったっぽいけど私は先天的だから私の方がそういうのには敏感なのよ。普通はどんな人間でも一定量するものなのに彼女からそれがほとんど無臭に近かったわ」

 そんなモノがあったとは驚きだな。俺からもしているのだろうか。

「元々、薄い人もいるけど彼女の場合、性格の急変等も含まれているから後天的、しかも霊的トラブルの可能性が高いわね」

 うわぁ、今、この人、さらっと嫌な事言ったなぁ。

「あの、すいません。急に気分が悪くなったんで帰っていいですか」

「じゃあ、一旦、部室に帰って作戦会議かな。神馬さんにも連絡しなきゃだし」

 聞いちゃいねぇし。


 数日後

 今、俺は若月 楓の自宅近くに来ている。いつものメンバーに神馬さんを加えた五人は車から降り、若月の家に向かって歩く。

「おい、桜沢。マジでやる気か。これ犯罪だぞ。一応、言っとくけど」

「しょうがないでしょ。原因探らなきゃ助けようがないんだから」

 今日は若月の家が完全に留守になるという事で原因があると思われる彼女の自宅に不法侵入しようという今回の作戦だが思っていた以上にこいつらフリーダムだな。

「静かにしろ、馬鹿。喧嘩するな。ここまで来て、今さら何を言ってる」

 神馬さんががこちらを睨みつける。家の前に辿り着くと神馬さんは何やら怪しい道具を何点鞄から取り出すと鍵穴をいじり始めた、と思ったらものの三十秒程で開けてしまった。

 それはもう完全に犯罪だろ。つーかあんた何者だ。

 ドアを開けると俺を除いた全員がなんの躊躇もなく家へ入っていく。いや今更だけど慣れすぎ過ぎだろお前ら。

「お前もとっとと入れ」

 神馬さんに背中を押され、しぶしぶ、俺も犯罪者の仲間入り。

 帰りてぇ。心の底からそう思った。

「よし、では事前の打ち合わせ通り、樋口は一階を探索、私と神馬さんは二階で若月 楓の私室を中心とした探索、他は誰も帰ってこないか見張っていて。じゃよろしく」

 桜沢はそう言い終わると神馬さんとまるで自分の家のように平然とすぐ近くにあった階段を登っていく。

「ちょっと待てよ。探索っ何を探せばいいんだよ」

「そんなものはフィーリングよ。なんかここおかしいなぁと思う場所や物があったら知らせて」

 桜沢はそう言いながら二階へと消えていく。

「お前、そんな適当な」

 なんだよフィーリングって考えるな感じろってやつか? ブルース リーかお前は。

「お前も大変だな。いろいろと」

 横で水上が無表情でそう呟く。

「そう思ってくれるなら一緒に探索を手伝ってくれよ」

 はっきり言って他人の家でしかも何があるかもしれない家をウロウロするのは不安だ。

「別にいいけど、俺はそういう能力ないからあまり探索には役に立たないぞ」

「ん? それはどういう意味だ」

「俺と森先輩はいわゆる『みえない』人だという事。そういう事は感知したりは出来ない」

 これはちょっと意外だな。こういう部活だからてっきり全員『そういう』能力を持っているものだと思っていたのだがそうでもないのか。

「けど以前 オイヤミさんに追われた時、森先輩は見えていたぞ」

「まーその辺は神馬さん曰く、霊体の霊子濃度とか関係しているらしいが詳しい事は俺もよく分からないんだけどな。条件によっては俺らでも見えるらしい」

「とにかく見えなくてもいいから一緒に来てくれ。ぶっちゃけ何があるかも分からない家で一人での探索は不安なんだ」

「って言ってますけどいいっすか?」

 振り向き、玄関で座りながらパソコンの画面を見ていた森先輩に話しかける。

「別に構わないわよ。見張りって言っても簡易設置タイプの監視カメラの画像をチェックするだけだからいてもいなくても一緒よ」

 さらっときつい事言う人だな。じゃあ別に監視に水上いらないじゃんと心の中で呟く。余ったので適当に振り分けたのだろうか。

「呼んだ時にすぐ来てくれたらそれで充分間に合うしね」

「俺の役目はこの家の人間が帰ってきて、脱出が間に合わなかった場合の足止め担当だ。最悪、少し乱暴な事になってもいいそうだが……それってどうなんだろう」

 俺が疑問に思った事を察してか水上は簡単に自分の役割を説明したらしいがそんな事聞かれても返答に困る。『殴ればいいと思うよ』とでも言えと?

「どうなんだろうって、とりあえずそうならないよう祈るしかないんじゃない。まぁお互い大変だな」

 水上の扱いの酷さに少し共感しつつ、、水上と共に一階の探索を開始とは言ってもリビングを含め三部屋くらいしかない狭い日本家屋だすぐに全部回り切ってしまった。

 箪笥や押入も開けては見たが特になにもなく。中はさすがに物色するわけにもいかず二十分程でやる事がなくなり、途方に暮れた。

 全く、何やってんだかな。そう呟きながら、水上が持ってきた中国茶を三人でに飲む。やっぱり後ろめたさのせいでなんか落ち着かない。上にいる二人が何も見つけずあきらめてさっさっ降りてくる事を願った。

 俺の携帯がいきなりバイブし始める。画面には桜沢の二文字。『リング』のビデオを見た後にかかってくる電話並の不吉さを感じる。そのまま切りたい衝動を我慢しながら電話に出る。

「見つけたわ。すぐ上がって来て!」

 それだけを伝える桜沢はすぐに電話を切った。

 俺は切れた携帯電話を見つめながら大きく溜息をついた。


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