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それでは今酔いも酔い夢を 其の三

「先輩、で話ってなんですか」

 一応、無駄だとは思うけど聞いてみる。面倒くさいなぁ。

「ん? 話? えーとそうそう、そういう用件で呼び出したんだっけ」

 先輩は視線が定まらないまま、ケラケラと笑う。何がおかしいんだろう。まぁ酔っぱらい相手にまともな会話など期待してはいないが今までの時間は一体なんだったんだ。思わずため息をつく。

「けどさ。たまにはよく知らない人と一緒に食事っていうのも悪くないね。うん、悪くない」

 そこにはやはり普段の部活では見ることの出来ない無垢な本当に嬉しそうな先輩の顔がそこにはあった。

「デザートのバニラアイスです」

 突然の声に驚くと同時に俺達の目の前にガラスの器にウエハースと共に美味しそうなバニラアイスがのっている。正直、中華みたいな脂っぽい食事の後にはぜひ締めで欲しい一品だ……がそんなもん注文したっけ。

「あの、頼んでいないですけど」

 と持ってきた店員の方へ向く。その瞬間、俺は驚愕のあまり、一瞬マジで時が止まった。

「なぜお前がここにいる」

 そこにはその店の店員の格好をした仏頂面の水上 冬馬がいた。

「樋口も災難だな」

「まぁ、ある意味な。じゃなくて、お前ここでバイトしてたのか? 」

「微妙に違う。ここ、俺の親父の店なんだよ。で、俺はたまにこうやって手伝っているわけだ」

「おおっ樋口、喜べアイスだぞ。ここはどの料理もそこそこだがアイスは絶品なんだ」

 先輩は子供のようにテンションを上げ、アイスを食べ始める。

「先輩、微妙に傷つくっす」

「だって事実なんだからしょうがないじゃん」

「このアイスは手作りなのか?」

「いえ、スー○ーカップっす」

 ……それは傷つくっつーか言うなよそんなこと。先輩も安い舌だなぁ。まぁうまいけどね、スー○ーカップ。

「それはそうとさっき『樋口も』って言ってたけどこういう事って結構あるのか」

「前は主に俺が呼び出されてた。あれだろ『大事な話が~』みたいな感じの理由で呼び出されたんだろ? 」

「じゃあ大事な話っていうのは……」

「単なる呼び出す口実だ」

「じゃあ、別になにか目的が? 」

 だとすればそれは一体、何なのだろうか。わざわざ呼び出し、本人がベロンベロンに酔う事で達成される目的……分からないな。

「いや、それが特にないんだ」

「はぁ!? 」

 思わず変な声を上げてしまった。

「強いて挙げるならこうやってお前と食事する事自体が目的と言えるかもな」

「いまいち意味が分からないのだが食事する事、自体に意味があると?」

「いや、なんかお前、無理矢理深く、意味ががあると考えようとしてるけど単に先輩は極度の寂しがりやでひとりで飯が食えないというだけだ」

 よし、帰ろう。

 今、俺の心は清々しくも馬鹿らしいそんな気分の中、俺は帰宅を決意した。

「おい! 冬馬!いつまで喋ってんだ。さっさっと仕事としろ」

 厨房らしき奥からおそらく親父さんだろう、ドスのきいた声が聞こえてきた。

「うぃーす。悪いな。なん用があったらまた呼んでくれ。じゃ」

 気のない返事と共に声の発信元へと戻っていく。

「じゃあ俺、これ食ったら帰ろうと思うんですけどいいっすか?。特に用事もなかったみたいたですし」

「えーもう少しくらい付き合ってくれてもいいじゃない」

 アイスクリームを食べ終え、空の器をとスプーンを弄びながら、焦点の定まらない視線をこちらに向ける。

「大事な話っていうのも嘘だったわけですし、ここにいる理由、ありませんから」

 アイスクリームを食べ終え、俺は席を立とうとする。嘘をつかれたせいだろうか少しイライラしているようだ。

「え~。じゃあすごく大事な話するからもうちゃっと付き合ってよ~」

 いきなり腕をつかまれる。

 面倒臭いなぁ、この酔っぱらい。

「じゃあどうぞ、さわりだけ聞いてどうでもよさそうだったらマジで帰りますよ」

「んーじゃあ日本におけるー侵略的外来種についてー」

「帰ります」

「なんでー、地球規模の大事な話だよ」

「規模でかすぎますし、今しなきゃダメ話でもないですよ。明日で充分です。

 それ、今思いついただけでしょうが」

「んー確かにそうだけど……仕方がない帰るか」

 とても残念そうな表情と共にしぶしぶ一緒に立ち上がると同時に大きくふらつく。大丈夫かよ。

 ふと無意識にふらつく先輩の後ろのテーブルにいる客に視界の焦点が合った。おそらく女性であろうか。背中まで届く長い黒髪。しかし、その髪には艶というものが全くなく、肌の色もどことなく生気的なものを感じない気がした。何か食べているのだろうか小刻みに動くその口から見え隠れする乱杭

歯との組み合わせは嫌なものを見てしまったと思わず後悔した。

 とりあえず視線を戻し、おぼつかない足取りの先輩と会計を済まし、一緒に外に出る。

「ねぇ、家まで送ってくれる? 」

 それって女性の口から言うセリフだったけか。面倒臭いがよく考えてみればこの状態の先輩を放っておいてトラブルに巻き込まれたり、警察に補導されたりする方が後々、厄介だ。あーもう。でもそれほど悪い気がしない自分はやっぱりなんていうかダメだな。

「いいっすよ。近いんっすか? 」

「うん、歩いて十分くらいかな」

 まぁそれくらいなら……

 そう考えながら、千鳥足の先輩の後ろについていく。



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