黄昏に憑かれる 其の一
以前、投稿していた奴をそのまま写したものです。久々に続き投稿してみようと思ったら使っていたメールアドレス忘れてしまって再度、アカウントを取得しました。この冬休みを利用して続編も投稿していこうと思うのでよろしくお願いします。
人生とは平凡で起伏がない方が楽だし、結果的それが一番、幸せのはずだ。しかし今、私はこの状況を幸せに感じない。不思議だ。学校生活も私生活も平和そのものだ。順風満帆を絵に描いたよな……。いや、分かっている分かっていても分からないフリしているだけだ。そう、『彼女』だ。学校生活における重要な要素『彼女』。そうだこの何をしても満たされない、ぽっかりと開いた穴埋めるにはそれしかない。妄想かも知れない、幻想かもしれないけど『彼女』がいれば、きっとこのしょうもない人生にも艶みたいなものが出てくるはずだ。そうだやっぱりそうなんだ。
とは言っても、欲しいって言ってもらえるならとっくに俺も整理券貰っていますって。まず自分の状況を見ろっつー話だよな。女友達は男友達だってほとんどいない。放課後はなんの部活もせずただ図書室の片隅で本を読むそんな男に『彼女』……我ながら寝言だな。
そんなしょうもない事を考えながら、今日も俺は一人、図書室で読書に勤しんでいる。
ここは図書室の一番、奥のさらに本棚と壁の袋小路になっている言ってみれば図書室の辺境であり、置いてある本も古典文学の全集やその他諸々のわけの分からない本が押し込められている。
ほとんど誰も来ないためため勝手に俺専用の聖域として使わせていただいている。そして今日も放課後、部活をするでもなく、帰宅するでもなくここに来てダラダラと本を読んでいるわけだ。
辺りが暗くなってきたのを感じ、腕時計で六時をちょっとまわっているのを確認する。本を閉じ、溜息をつきつつ立ち上がる。
さて、そろそろ帰るか。本当、俺なにやってんだろうな。
そんな事を考えながら鞄を手に取ろうとした時だ、こちらに向かってくる足音に気が付いた。
この場所に人が来るなんて珍しいな。まぁ別に全く人が来ないってわけではないからさほど驚く事でもないが、他人に特に同学年の人間にここに俺がいつもいるという事がバレるのは避けたかった。ただでさえあまりよくない俺のイメージがさらに悪くなるような気がする。まぁちょうど帰るところだったし、なんとかさりげなくやり過ごそう。
俺は鞄を肩にかけ、足音のする方向に歩を進める。足音の大きさから考えて曲がり角でちょうど鉢合わせになりそうだ。
曲がり角で予想通り足音の人物とちょうどすれ違う。その人物は眼鏡をかけ、髪は背中ぐらいまでの長さのどこか涼しげ雰囲気を持つ女子だった。本を数冊、胸の前で両手に抱えている。なんか図書室のよく似合う容姿に思えた。どうでもいいことだけどな。
俺はそのまま、とっとと消えるつもりだったが予想外の事が起きた。そう、すれ違った後ろの女子から声をかけられたのだ。
「こんな所に人がいるなんて珍しいですね」
しかし、俺は特にリアクションは起こさずただ歩く。もしかしたら独り言かもしれないし、それで振り向いて何もなかったらなんか自意識過剰みたいで赤っ恥だしな。とりあえず次の一手を待ってみる。
「よくここには来るんですか? 」
よし、その一言を待っていたぜ。
俺は振り向き、わざとらしく辺りを見回し、自分を指さす。
「あっもしかして俺? 」
我ながら白々しい。結果的になんか恥ずかしいな。
「他に誰かいますか? 」
その子はあきれ顔で軽くため息をつく。
「まぁ確かに。ここに来たのはたまたまだけど?ちょっと探している本があってね」
「ここいら一帯は古典文学とか英文学の原書しかないよ? 君の姿はこの図書室で何回か見たことあるけれどそんな本を読んでいるところはおろか持っているところも見たことないわよ」
そう言われればここいらには今時の学生が読むわけなさそうな本しかな
かったな、確か。そしてその理由こそがこの場所を聖域たらしめている理由でもある。
「ああっ……そうだっけ? なんか急に読みたくなったんだよ。古典文学が無性に」
「苦しい言い訳ね。安心して別にあなたがそこを自分用の場所として使っている事についてどうこう言う気はないから」
彼女はこちらに微笑みかけながら言う。
ちっやっぱりバレてたか。しかし考えてみたら注意する以外でこんな所に籠もっている人間に話しかける理由などあるのだろうか。という事は俺は今からこいつになにか注意されるのか?
「じゃあ何か俺に用でも? 」
「用は特にないんだけどね。去年まで私のいた場所に住みだした新しい住人は一体、どんな人かな? と思ってね」
別に住んでいるわけじゃないけどね。
「あんたもここに?」
少し、意外かな。見た感じや物腰からクラスで居場所をなくすようなタイプには見えないけど。
「そう。ここ、いいよね。なんかこの狭さ、特にさっき君がいた行き止まり。なんか妙に落ち着くのよね。で、最近めっきり来なくなってたんだけど急に恋しくなってね」
彼女はどこか嬉しそうに喋っている。もしかしたら思わぬ同類の発見を喜んでいるのだろうか。じゃなければ話しかけてくるはずがない。だとすればこれはうまくすれば彼女にお近づきになれる神がくれたチャンスではないだろうか。それが俺の脳内コンピューターが出した愚かなる結論だった。
とにかく落ち着け! 落ち着くんだ。ここは冷静に対応するんだ。ここは恋の入り口としてはかなり入りやすい雰囲気だ。ここで気の利いたセリフのひとつでも言えばこのチャンスボール、ホームランに出来るはずだ。
「確かに、ここはなんか周囲の世界から隔絶されたような感じがありますよね」
なんだその中二病、発言はぁ!! 冷静に考えて紡ぎ出されたセリフがそれか。我ながらどういう思考回路をしてるんだ。