アクマ召喚
召喚陣が光った。
その場にいた者たちは、固唾をのんで見守る。
瘴気がひどく、魔獣も大量に発生するこの国は、最後の手段として聖女召喚を行った。
それは、この国の魔術師たちが総力をあげて呼び寄せたものだった。
そのはずだった。
まぶしい光が収まり、召喚陣の中にいたのは、さえない中年男。
「なんてことだ! 聖女召喚は失敗したのか?」
そこで王冠を頭にのせた人物――この国の国王であろう男が叫ぶ。
「いえ、完全に失敗ではないのでは?そこに人がいますし。」
「しかし我々が呼んだのは、聖女であって、こんな貧相な男ではない!」
「ずいぶん失礼な言い草ですな。久しぶりに呼び出されたと思えば、人違いだとは。」
貧相な男はしゃべった。
「私は、安心グループの営業課長、アクマと申します。
この召喚陣には、聖女ではなく、セールスを呼び出すと書いてありますよ。
『せ』しか合っていませんね。誰が書いたんですか、この召喚陣。」
おそるおそる手を挙げた魔術師がいた。
「忙しかったので、ついうっかり。」
「うっかりじゃないだろう!それでも王宮魔術師か!」
内輪もめだ。
筆頭魔術師らしい老人が唾を飛ばして、怒っている。
「あんな悪筆の奴に召喚陣をかかせるから......。」
「誰も確認しなかったのか。」
そんな声も聞こえてくる。
「せっかく呼び出されたのですから、何かお困りでしたら、お役に立てますよ。
どんなことにお困りですか?」
セールスマンがセールスを始めた。
「実は、瘴気がひどくて......。」
「それでは、こちらのパンフレットをご覧ください。
瘴気浄化装置です。空気清浄機能も付いております。
電源がない?でしたら屋外用電源もお付けしましょう。
リース契約で、今ならひと月お試し価格です。」
パンフレットを見せてくる。
皆興味があるようで、覗き込んでくる。
「魔獣も大量に出るんですよ。」
「それなら安心警備サービス(株)の害獣駆除部門がお手伝いいたします。
魔獣一体につき、こちらの金額で処理いたします。
サービスパックにご加入いただくと、何体でも上限数まで同じお値段でお得ですよ。」
「魔獣と闘わなくて済むのか!」
嬉しそうな声が上がった。
「ついでに、結界も何とか......。」
「そちらは、安心警備サービスの結界セッティング部門にお任せください。
結界の広さによりますが、24時間対応のアフターサービスまで含めてこのお値段です。」
アクマを呼び出した連中は、目を白黒させている。
聖女を呼び出したはずが、様々な商品のセールスをされている。
「聖女の召喚には失敗しましたが、これで目的は果たせるのでは?」
「契約書をよく読んでみないと。」
などとこそこそ相談している。
「ご心配なく。当社は、誠実、迅速、がモットーの安心グループです。
必ずお客様に安心をお届けいたします。」
アクマはまた新しい顧客を開拓できて、ホクホクである。
安心100年パック契約が結べれば、特別報奨金が出るかもしれない。
久しぶりの召喚に戸惑ったが、悪魔はころんでもただでは起きないのだ。




