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旅の終わり、再びの旅路

作者: 柴野独楽
掲載日:2026/01/01

そのちっぽけな陽子は、長い長い時間、長い長い距離を旅してきた。

他の陽子とぶつかり、相互作用して量子もつれを起こしては、相手の持つ全情報を、自身

の中に小さく折りたたまれた七つの次元の中にしまい込み、また他のものと相互作用して

はしまい込みしながら、光速に近い速度で、ずっと時空を飛び続けてきた。

もはや、どこにも恒星や惑星は存在しない。もちろん、生命などそのかけらすら残ってる

いない。

ブラックホールさえも全て蒸発し、その作用で吐き出された粒子もーその陽子自身も、そ

もそもの出自は遥か彼方の時空の穴だったがーほとんどが寿命を迎え、消滅していきつつ

ある。

そんな中、運よく反陽子にぶつかって対消滅することもなく、陽子はずっと、孤独な旅を

続けていた。

粒子が消滅していくせいで、宇宙はどんどん平坦化し、何もない、無すらも存在しない時

空と化していく。

数え切れないほど存在した素粒子が、やがて劫の位へ、兆の位へ、万の位へとどんどん減

少し、数えられるほどまばらにー本当にまばらになった頃。陽子もそろそろ寿命を迎えよ

うとしていた。

相互作用した皆が消滅し、消滅し、消滅して、残りほんのわずかとなった。この宇宙に存

在する同胞も、もはやほとんどいない。もはや、ここに存在し続ける意味などない…など

と思ったのか思わなかったのかは分からない。が、それでもなお、陽子は存在し続け…消

滅の間際、とうとう宇宙で唯一の存在となった。

と、ここで不思議なことが起こる。

速度、距離、時間といったあらゆる尺度は、他者の存在によってはじめて生じる。

単一の、たったひとつの存在にとなった陽子にとって、もはや宇宙の時空は無意味。無限

大に広いとも、自らと同じ極小のサイズであるともいえる、きわめて不確定なものと化す

。

唯一はっきりしているのは、完全にゼロである周囲のエネルギー値に対し、自らが無限に

大きいエネルギーを保持していること。そして、次元のひだにたくし込んだ、ありとあら

ゆる銀河の、恒星の、ダークマターの、ブラックホールの、衛星の、惑星の、そしてその

上でうごめいていた全生命の情報を保持していることのみ。

そのことを不意に悟ると同時に、寿命を迎えた陽子は、大いなる喜びとともに、その全情

報、全エネルギーを開放した。

その瞬間、宇宙は時空を取り戻し、その中を、すさまじい閃光が走る。

こうして宇宙は再び誕生し、陽子の長い旅も始まったのである。

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

どうか皆様の新しい旅が、平穏かつ充実したものでありますように。



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