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アシアト  作者: 角田秀左
2/5

シーダの復讐

 アマテラスはいつの間にか眠っていた。目を覚ますと面前には明るい太陽が照らされていた。

 アマテラスはそのまぶしさに再び目を伏せると、頭のほうから声がした。

 「……おい、起きたのか?」

 声のほうに視線を向けるとそこにはめんどくさそうに顔をゆがめてこちらを見つめているシーダの姿があった。

 アマテラスは目をこすり見開く。

「……私は、寝ていたのですか」

 アマテラスは立ち上がって街を見渡した。街はたくさんの人が集まりにぎわっていた。

 アマテラスは座っているシーダを見つめた。

 「シーダ、行きましょう。楽しそうですよ」

 シーダは立ち上がりため息をついた。

 「遊びに行くんじゃないんだからな。お前は俺の代わりに剣術大会と魔法技術大会に出て優勝しなきゃいけないだろ」

 「わかっていますよ」

 アマテラスの微笑みにシーダはため息をつくしかなかった。


 少し道を歩くとあっという間に城についた。城は白と金のシンプルな外装で、それは御姫様の童話を連想させるものだった。

 あたりにはたくさん人がいて食べ物を食べていたり出店で遊んでいた。

 その見慣れない景色にアマテラスは少し戸惑いながらも楽しんでいた。

 「あの人たちはなぜ身体に物を取り込んでいるのですか?」

 アマテラスは食べ物を食べている人たちを見ながらシーダに尋ねた。シーダの顔は一気に青ざめた。

 「お前、何言ってんだ?あれは食事だ」

 「食事とはなんですか?」

「人間は生命維持のために物を食うんだ。お前のこと、てっきり人間だと思ってたがエルフかなんかなのか?」

「えっと……私は人間ですよ?」

 アマテラスが適当に誤魔化すと、シーダは探るようにアマテラスを見つめた。

 それから少し見つめあってシーダは「はぁ」とため息をついた。

 「なにか訳ありなのか?」

 シーダはあたりを見回しながら歩きだす。

 アマテラスはほっと胸をなでおろすとシーダの横を歩いた。

「はい。私は人間ではないし、エルフでもありません。私は……」

 アマテラスが言葉を言いかけるとあたりが急に騒がしくなった。

 アマテラスが顔を上げると、城の前には美しい一人の女性が立っていた。

 白い肌、桃色の長い髪、白のドレスを着て、民に笑顔を向けていた。

 シーダは驚いたように身を乗り出す。

 「あれがセレスティナ様か。綺麗だな」

  アマテラスが無言でセレスティナを見つめるとセレスティナは視線に気づいたのかアマテラスを見て手を振った。

 アマテラスはうつむいた。

 その様子にシーダは疑問を抱く。

「手、振り返さないのか?」

 アマテラスは思い出した。

 昨日、カリスタに教えられたカルッサ国の生贄の話。

 もしかしたら、あの優しく華麗なセレスティナ女王も生贄に選ばれるかもしれない。

 もし選ばれてしまったら、ここに集まっている国民や他のセレスティナ女王を慕っている人達が悲しんでしまう。

 そしてカルッサ国の国民が生贄になることをセレスティナ女王はどう思っているのだろうか。

 きっと、苦しんでいるのだろう。

 だったら、生贄は負の連鎖なのかもしれない。

 アマテラスはシーダを見つめる。

 シーダから見たアマテラスの瞳は細かく揺れていた。

その様子にシーダは違和感を覚える。

「どうした?」

 アマテラスは口を開こうとするが、喉につっかって言葉が出てこない。

 間違っているかもしれない。

 だって、カリスタは自分が生贄になることを望んでいた。

『神と同じになれる』とカリスタは言っていた。

 もしかしたらカリスタ以外にも生贄になることを望んでいる者もいるかもしれない。

 でも、本当にそうなのだろうか。

 神であるアマテラスに人間の思うことは分からない。

 理解できない。いや、知らない。

 ならどうすればいい。

 どうすれば……。

 初めてだ。こんなに心が揺れるのは。

 アマテラスは金色の瞳を揺らした。

 すると、シーダがアマテラスの肩に触れた。

「苦しいか?」

 シーダの声にアマテラスは顔を上げる。

 シーダは険しい顔でアマテラスを見つめている。

「……いいえ」

 アマテラスは視線をセレスティナに移す。セレスティナは差し伸べられた民の手をそっと包み込むように触れていた。

「優しい手つき。民を大切に思っているのですね」

 シーダは心配そうにアマテラスを見つめる。

「言いたいことがあるなら言えよ」

 シーダの言葉にアマテラスは目を見開く。それから微笑んだ。

「そろそろ行きましょう。剣術大会が始まってしまいますよ」

  アマテラスはそう言ってシーダを置いて歩き出した。シーダは心配しながらもアマテラスの後をついて行った。


 城の上の方へ進むと剣を持った男性達がたくさんいた。

 アマテラスは貸し出しの剣をふるってみる。

「意外と軽いのですね」

 アマテラスの発言に近くにいた護衛がアマテラスに近づいた。

「貴方、剣を使ったことがないのですか?だったらこの剣術大会は出ない方がいいですよ。毎年この大会は死人が出ていますから」

 アマテラスの隣にいたシーダが護衛を見つめる。

「どうして死人が出るんだよ」

 護衛は思い出すように語り出した。

「毎年剣を振るう前に倒れてしまう人がいるんです。死んだ人たちは全員顔に不気味な模様が浮かび上がるんです。赤い紋章のようなものが浮かび上がって……」

 シーダが驚いたように顔を上げる。

「それはヴァンパイアの仕業だ…!」

 「ヴァンパイアですか?それは違うと思います。カルッサ国とヴァンパイアの住むヴィネール帝国がつながる道は二百年前に封鎖されています。ですから……」

 護衛は額に汗をかき身体が震えている。

 アマテラスは震える護衛の肩にそっと手を置いた。

 「急にヴァンパイアの話をしてごめんなさい」

 護衛は少し安心したのか胸をなでおろす。

 「いえ……。もしヴァンパイアの仕業だったら二百年前の出来事が再び起こってしまうと思って……」

 「二百年前の出来事、ですか?」

 アマテラスは首をかしげる。その様子にシーダはあり得ないといわんばかり言わんばかりの顔をする。

 「お前知らないのか!?カルッサ国は二百年前、俺の住んでたユピロと同時にヴァンパイアに奇襲を受けてるんだ!」

 アマテラスは驚いたように眉を上げた。

「そんな……ヴァンパイアはシーダの故郷、ユピロだけでなくカルッサ国の人間も多く殺しているのですね……」

 アマテラスは視線を落とした。

 天空にいた彼女にとってそれがどれほど残酷なものなのか理解していた。そして二百年前、アマテラスはただ天空で有意義な時間を過ごしているだけだった。悔やんでも遅いが、もし自分が地上へ降りていたならば、死んだ人たちを救えたのかもしれないと心が傷んだ。

 そんなアマテラスをシーダは心配そうに見つめる。

「ヴァンパイアは悪い奴らだ。絶対に殺さなきゃいけない。もしこの会場にヴァンパイアが現れたら俺は理性を失って暴れてしまうかもしれない。その時、止めてくれないか?」

 シーダは瞳の奥を揺らしていた。その様子から、覚悟と少しの不安を感じる。

 アマテラスはなんのためらいもなく頷いた。

「分かりました」

 シーダはアマテラスの回答に安心したのか胸を撫で下ろした。

「ありがとう。あと、お前も一緒に闘ってくれないか?出来れば誰も死んで欲しくないんだ。ひとりでヴァンパイアを倒す力は俺にないんだ……」

 自信なさげにうつむくシーダはただ小さな少年に思えた。彼は人間では無いが、見た目はすごく人間の子と似ている。

 アマテラスはシーダの手を握った。シーダの手は氷のように冷たく小さく震えていた。

 シーダは顔をあげる。

 アマテラスはシーダを見つめて微笑んだ。

「貴方は優しいですね」

 アマテラスの言葉にシーダは頬を赤らめた。

「は、はぁ?そんな、人が死んで欲しくないなんて当然のことだろ?それに二百年前の出来事が繰り返されてほしくないんだよ...」

「分かってますよ」

 アマテラスはシーダの手を安心させるようにとんとんと優しく叩いた。

 シーダは顔を赤くして手を離した。

話を聞いていた宦官がふたりの前で礼をした。

「大丈夫です。ヴァンパイアが出た場合、国の兵がすぐに突撃しますので」

 それだけ言って護衛は去っていった。

 アマテラスは剣を再び振るった。


 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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