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38.ID:KokT_6mR 02:23
真夏の深夜。山の中のジメジメとした生温い温度と飛び回るちっちゃい羽虫の音は、俺達を不快な気分にさせる。俺達はスマホのライトを点灯させて、道路のガードレールを乗り越えて生い茂った森へと足を踏み入れた。
もしもスレ通りであれば、この辺りに獣道があるはずだ。各自手分けしてそれらしき道を探し回る。必死に探しているフリをしているけれど、本当はそんな道がないことを心の中では望んでいた。自分で提案してここまで来ておきながら、今になって滅茶苦茶怖くなってきてたんだ。
安全な場所でクーラーで涼みながら見ている恐怖とは全くの別物。心霊スポットに足を踏み入れる事がこれ程ゾワゾワと全身が拒絶するのだと感じた。そして、何処となく心の中では
(どうせ釣りスレに騙されているんだ)
と、勝手に都合の良い方へと思い込み、少しでもこの気持ちを和らげようとした。
でも、そんな淡い期待も一瞬にして消し飛んだ。
39.ID:KokT_6mR 02:26
他の二人が草木を掻き分け必死に探し回っている中、俺だけが一点にライトを向けて硬直してしまっていた。
俺の視線の先には、どこまでも真っ暗な森の中へと招くように続く獣道があったんだ。それっぽく見えるとかじゃなく、人間の管理したようでもなく、幾度と野生が歩き続け草木を切り開いたであろう自然が作り上げた道。正に言葉の通りの獣道である。
あのスレに書いてあったのは本当だったんだと驚き体が動かないのと同時に、俺の頭の中では考えたくないけど一つの好奇心が広がっていく。
(この先に黒低村が?)
40.ID:KokT_6mR 02:29
俺はこの真っ暗で先が見えない道を見つめる。別に幽霊を見たわけでもないのに、体はプルプルと小刻みに震えて、物凄く嫌な予感を感じていた。人間としてではなく、生物の本能として
【この先には踏み入れてはいけない】
という危険を察知していたんだと思う。恐怖は好奇心をも黙らせ、俺はこの道を見なかったことにしようと決めた。さっさとこの場所から離れて、人が行き交う街に帰りたかった。
大きく深呼吸をしてから獣道に背を向ける。その時、俺の後ろにはBが突っ立っていて獣道をじっと目を輝かせて見ていた。Bはこの道に怯える俺とは逆に、【遂に見つけた!】と言わんばかりに嬉しそうな顔をしていた。
41.ID:KokT_6mR 02:31
「おいC!こっちこいよ!本当に道があるぞ!」
「え!?マジ!?」
Bは意気揚々とCの方へと振り返り手招きをする。Cも初めはビビっていたけど、探していた宝が見つかったかのように足早に駆け寄ってきた。
俺達は、まだ黒低村に辿り着いてもないのに、まるで旅の終着点に着いたかような達成感に満たされ、暫くその場で立ち尽くし、ただの獣道をじっと見つめ続けた。真っ暗な森で無言で立つ三人の姿を想像してみてくれよ?コイツらの存在の方が怪異だよなw
42.ID:mJ7hT3rD 02:31
草
43.ID:Qwe1xP9A 02:32
それは確かにヤバいw
44.ID:KokT_6mR 02:32
スレ通りの道を見つけてからずっと黙ってその場に立つ俺達。誰も言葉を発さないので俺は誰よりも先に
「もう遅いし帰らね?」
って、言ってやろうと思った。二人と違って、俺だけはワクワク感よりも恐怖の方が勝っていたから今しかないと思った。
重い口を開き、声を出そうとしたその時
「じゃあ、行こうか」
と、Bが先に喋ってしまい俺を黙らせてしまった。俺とCは隣に立つBの横顔へ振り向き
「コイツまじか」
と、顔に書いているかのような分かりやすい仰天顔をしてしまう。流石にCもここから先に足を踏み入れるのは嫌なのだろう。ここからは俺とCによる説得タイムが始まる。
A
「いや、もういんじゃね?さっきから虫がウゼェし、もう遅いじゃん?」
B
「いやいやwここまで来たなら最後まで行こうよw」
コイツビビってるな?って馬鹿にするような顔でBは返してくる。この際、馬鹿にされようと帰れたらそれでいいと思ってる俺はBの態度に苛つく事はなかった。
C
「いや、Aの言う通りだよ。軽いノリで行くべきじゃないし…もしもスレ通りの内容だったら、ここから10分から20分歩き続けるんだろ?それが片道なら帰りも含めて40分…そんなに長く車も置いていけないって」
俺と違って説得力のある理由で話すCに俺も相槌を打つ。反対派が二人もいるのにも関わらず、Bは引く事を全く知らない。
B
「それならCは車に戻っていてくれ。俺とAで見に行ってくるよ」
おい嘘だろ?何俺も連れて行こうとしてんだと、この時ばかりはBの空気の読めなさに怒りが湧いてきた。だが、Cは首を大きく横に振ってその案を否定する。
C
「無理無理無理!!一人で残される方が怖いって!!それなら俺も一緒に行くよ!!」
B
「じゃあ決まりだな。行こうぜ、足元は気をつけろよ」
Cのビビリの性格を上手く利用して、半ば強引に賛成させてBは遂に獣道へ足を踏み入れた。
45.ID:mJ7hT3rD 02:33
B死ぬやつやんこれ
46.ID:Qwe1xP9A 02:33
Bクズすぎワロタ
47.ID:X2ab-9kTm 02:34
報告レポしてる時点で無事なんじゃないの?
48.ID:KokT_6mR 02:34
良い意味で捉えたらBはかなり恐怖耐性があるんだと思うw
俺達に振り返る事もなくどんどんと足を動かすBに置いていかれないように、俺とCも仕方なくついていく。
獣道の入り口こそ、一目で分かる程草木が避けてくれていたけど、少し歩けば草が生えまくり虫が湧きまくりで最悪としか言いようがない。結構歩いただろうと思って何度もスマホの時計をチェックするんだけど、5分すら経ってないのを見る度、この地獄の様な道の長さに絶望しながら進み続けた。
時々、BとCの様子を見ているとBはまだまだ元気なのに対し、Cはついてきた事を後悔している様に酷く青褪め唇を噛んでいた。俺は今のC心境に同情が出来る。こんな不快な場所に立ち入らず、クーラーが効いて虫も湧かない快適な家で怪談話をする方がよっぽど楽しいに決まっているのだから。
何の風景も変わりがなく面白くもない道を、男三人が歩き続ける。喋るネタもやがて無くなり無言になってきた俺達の額は、どっぷりと汗が流れ息も徐々に乱れてきていた。服も汗でベタついていて最悪。一体どれくらい歩いたかわからないが、確実に体に疲労が蓄積されてきているのが分かる。
終わりがない暗闇を無闇に歩くのも止めて、もう引き返した方がいいだろうと思っていた時だった。
獣道は突如終わりを迎え、木々もない広間へと放り出され、そしてその広間の先には、無数に建物のようなシルエットが見えたんだ。
49.ID:4fQ7xJd8 02:35
遂に…!
50.ID:v0mN7-kr3 02:35
wkwk
51.ID:KokT_6mR 02:37
真っ暗でよく見えなかったが、少しすると目も暗闇に慣れていき徐々にその正体がくっきりと見えてくる。俺は目を細めてそのシルエットを注視してみた。
何十年も経過したであろう塗装が剥がれて朽ちた壁に、蜘蛛の巣の様に広がる無数の蔦。年季があるとオシャレに言うには無理がある、腐ったような古家の数々。
俺達はその建物の数々が【集落】だと理解した瞬間青褪めた。黒低村は存在したんだと分かっても、誰一人喜ぶことなんてなかった。さっきまで好奇心で足を動かしていたBでさえも、今更ヤバいところに来てしまったと絶句した様な表情で村を眺めていた。
52.ID:KokT_6mR 02:39
しかし、そうとなれば肝心の幽霊はどこにいるんだ?【肌が真っ白】で【必ずどこかに黒くて大きなホクロ】がある幽霊はどこに?
村の存在を確認すると、俺達はルールに従い近くの茂みに移動して体を潜める。そして、三人で手分けして遠くの村を見回し幽霊らしきものが見えるかを探すが、誰も「見つけた!」と声をあげない。
もしかして黒低村ではなく、ただの廃村なんじゃないかって思う程進展がない。別に脅威が見えてる訳でもないのに、何もここまで警戒しなくてもいいだろと身を隠している自分達の姿が馬鹿馬鹿しく見えてきた。
「ねぇ」
そんな飽きを一瞬にして吹き飛ばす幼い呼び声が、俺達の後ろから聞こえてきた。
53.ID:KokT_6mR 02:42
自分達以外の声が聞こえる。しかも、こんな深夜の森の中で?
俺は汗が噴き出て、後ろを振り向くのを躊躇う。ルールにも載っていなかった事態に、どう対処すればいいのか分からない。だが、オカ板によく通う俺とBなら直感で分かる。
この呼び声には、絶対に反応してはならない。
俺もBも唾を飲み込み、ダラダラと流す汗は目に入っても拭く事を忘れ、前を見続け固まり続けた。絶対に今反応するのはヤバい。このまま上手く流せる事を祈り続ける。
だが、次の瞬間。
隣にいたCはこの恐怖に耐えられなくなり、俺達に合図なくバッと振り返ってしまったのだ。
54.ID:KokT_6mR 02:45
「バッ…!!」
馬鹿って言おうとするも焦りで上手く声が詰まる。そして、Cの反応に釣られる様に俺達も思わず振り返ってしまった。
俺達の視線の先には、ボロボロの浴衣?を着た少年がこちらを見て突っ立っている。短髪の髪はボサボサに乱れていて、肌の所々の傷跡は浮き出ているように目立っていた。
そして、少年の肌は暗闇でもクッキリと見える程白く、左目の上には顔が変形するぐらいに大きく膨れ上がった黒いホクロのようなものがあった。俺達はその姿を見て、心臓をバクバクと鳴らし、ハァハァと息が荒くなって目を大きく見開いていた。
スレ主が記載していた【幽霊】が
俺達に声をかけてきた。
どうする?
逃げる?
どこに?
助かる?
俺は一秒たりとも無駄にせず、この状況を打破出来る手はないかと必死に脳をフル回転させて考える。何を考えてるか分からない真顔で、ほんの少しも揺れない真っ黒な瞳でじっと見つめてくる少年に、俺達は野生の熊に対峙したぐらい恐怖していた。
「ど、どうしたの?ぼく?」
恐怖で何も出来ない俺達を置いて、Cは子供に話しかけるような声色で話しかける。俺もBも、Cの無謀な行動に口がポカンと開いて、目だけでCの方へ向いてしまう。恐らくだが、Cにとっての【最善の選択】が、これだったのだろう。しかし俺達からすれば【最悪の選択】にしか見えなかった。
そしてその答えは直ぐ分かる事となる。
Cが反応した瞬間、少年の白目の部分はギョロリと黒く染まり左腕を挙げる。
そして、Cに向けて指を指して言ったのだ。
「コイツ、イキテル」