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228  作者: Nora_
3/10

03

「隣いいかな?」

「おう」


 昨日の男子、高地こうちはあれから何度も俺のところに来ていた。

 でも、俺に興味があるからではなくて俺を経由して吉馴と仲良くしたいからだと考えている。

 だってそうだろ、そうでもなければほとんど一人でいる人間のところには来ない、メリットがなければ近づかないのだ。


「早く春になってほしいねーもうお布団から出るのが辛いんだよ」

「走るといいぞ、走ればなんでも解決だ」

「か、片淵君、目が怖いよ」

「いやでも実際に一回は――」


 やった方がいいぞと言い終える前に「高地ー」と吉馴に似た明るさの女子がやって来た。

 仲良さげに少しだけ会話をしたらすぐに離れていったがわかりやすく俺とは違うところを見せてくれたことになる。


「彼女かなにかか?」

「え? ううん、中学生のときから一緒にいる子だよ」

「でも、もう高校二年生だからな、わかるだろ?」

「ん?」


 ああ、そういうタイプか。

 実際にこういう鈍感な男子っているんだな、作られた世界だけの話かと思っていたが。

 そりゃなにをどうしてもこの程度の反応しかされないなら名前呼びを始めたくても難しいと思う、頑張って踏み込んだ際に「なんで?」と真顔で聞き返されたら消えたくなるからな。


「それより意外だったのは片淵君がちゃんと対応してくれることだよ、実は昨日、話し始めるまでちょっと怖かったんだ」

「よく言われる」


 大体はそのままで終わるがたまにこうして実際は違うことがわかって近づいてきてくれるときもある。

 ただ、誤解しないでくれればそれでよかった、人といられるのが一番ではあるものの、無理はしてほしくないし、上手く合わせるのが大変だから一人でいい。


「あとは恋に興味があることだよっ」

「俺はモテないし、縁がないから他人の話を聞きたいだけだ」

「あの女の子とはどうなのっ?」

「この前から顔を見ていないな」

「そっか、だけど焦るとよく見えなくなってしまうからね」


 まあそれは恋愛事だけに当てはまるわけではないから気を付けておいた方がいいのは確かだ。

 あとは大丈夫そうだからって距離を簡単に伸ばさないことだ、一回だけいけるからと距離を伸ばしていたら真夜中に帰ることになったこともある。

 別にそれで母を泣かせてしまったとかそういうことではないが一ヵ月禁止にされたことがあったから渡さんの家に住んでいるなら尚更意識をしておかなければならないという話だった。


「片淵君といれば仲良くしているところを見られるかもしれないから一緒にいるね」

「俺は走りにいくぞ」

「な、なら今日だけは頑張るよ」


 よし、焦らずに上手く仲間にしてみせる。

 自分が前に出るとなにも意味がないから少し後ろを走っていることにした。

 おお、苦手というわけではないみたいだな、どんどんと前に進んでいく。

 少し横に移動して顔を見てみても辛そうではない、今度こそこれはいけるかもしれない。


「いたっ」

「わあ!?」

「あれ? なんか石みたいに固まっちゃった」


 そりゃ横から急に飛び出てきて急に大声を出されれば固まる。

 とりあえず高地を復活させてから吉馴に意識を向けると彼女もこちらを見た。


「友達が急になにも問題はなかったって言ってきて驚いたよ」

「渡さんが動いてくれたんだ、あとは吉馴の友達が協力してくれたのもある」

「友達の方は片淵君が誘ってくれたんでしょ? ありがとう」


 誘った? というか家に上がってもらっただけだが。

 彼女と同じで少し心配になる子ではある、知らない人間の家にほいほい上がるなんて男でも危険な行為だから気を付けた方がいい。

 とはいえ、なんかここで認めるのも違う気がしたから、


「なんの話だ? 最近は走る時間を増やしているから渡さんにも呆れられたぐらいだぞ」


 と、無駄な嘘をついておいた。

 まあ、自宅だろうと渡さんの家だろうとそれなりに走っているからその点についてだけは嘘ではない。

 彼女も俺が学校から帰ればすぐに出ていくことを知っているため、疑われてしまうことはないと思う。


「あ、あれ……? 渡さんの家にいったら男の子がいたって言っていたんだけどな」

「ん? ああ、それは彼のことだな」


 不思議だったのは彼がそうなの? と彼女から聞かれた際に「そうなんだ」と乗っかってくれたことだ。


「そっか、ありがとう!」

「う、うん」

「うん? どうしたの?」

「な、なんでもないよ、ちょっと片淵君を借りていくね」


 なんだなんだと気になっている内に「片淵君と仲良くなりたかったから嘘をついたけどあの子の笑顔を見たら胸が痛くなったんだ」と教えてくれた。

 無駄に嘘をつかせたことになるから悪かったと謝っておく、それでも責めてくることはなかったが俺といるとこうなるとわかればまあ、どうするのかなんてわかりきっていることだ。


「あ、ごめん、今日はこれで帰るね」

「おう、付き合ってくれてありがとな」

「ううん、こっちこそありがとう」


 吉馴の方はまだちゃんといたから一緒に家まで歩くことにした。

 いつも通り――いや、友達から疑われずに済むようになって嬉しいのかテンションが高かった。




「いい天気だ、今日は長く走る――」

「片淵君お出かけをしよう!」


 少し開けた扉をいきなり引っ張られて転びそうになった。

 いまので自分の筋力が残念だとわかったから走るだけではなくて鍛えようと思う――はともかくとして、休日でも元気なのはいいんだがコントロールをしてもらいたいところだった。

 何故なら勢いでなんとかしようとしなくても誘ってきたら受け入れるからだ、別に俺を連れていくのは難しいことではない。


「ん-名字で呼ぶとあの子と被っちゃうから名前で呼ぼうかな、いい?」

「別にいいけど気にする必要はないと思う」

「大丈夫なんだね、じゃあ今日からたかし君だっ」


 あまり経過しない内に移動を始めて、すぐに目的地である商業施設に着いた。

 そのときの反応でわかったことだが、彼女からすれば服よりも甘い匂いが漂っている入口近くが一番好きらしい。

 でも、例えそれが本命であっても短い距離だけで終わりにはしたくない性格らしく、一階から三階まで歩き回っていた。

 こういうときのためにではないものの、走ることでそれなりに体力がついていてよかったと思える一件だったね。


「お腹減ったー」

「飲食店にでもいくか、吉馴はなにが食べたい?」


 俺も腹が減った、毎回きっちり昼ご飯を食べるというわけではないがどうせならなにか食べたい。


「んーハンバーグ……かな?」

「ならあそこだな、違う場所じゃなくていいよな?」

「うん、移動したくないよ」


 よし、なら食べて午後も付き合って帰るか。

 解散になった後は走ればいい、渡さんと自分の分のご飯を作らなければならないから最初に決めていた五時間とかは無理になったものの、走れればそれでよかった。

 受け入れる、優先すると言ったのは俺だからな。


「やっぱりステーキよりはハンバーグだなー」

「肉ならどっちでも美味しい」

「そうだけど、なんかステーキって男の子の食べ物って感じがしない?」

「しないぞ」

「でも、やっぱりハンバーグ派です」


 この前の件もそうだが自由なんだから堂々としていればいい、食べたい物を食べればいいんだ。


「ね、なんでこの前嘘をついたの?」

「嘘?」


 あの場では合わせておいていまになって言うとか彼女も攻撃力が高い、動いたのに嘘をついたパターンではなくて本当に役に立たなかった結果でしかないんだが……。


「たかし君はいいことをしてくれたんだから別に嘘をつかなくてもよかったのに」

「いいことをしたのは渡さんだろ?」

「そうだけど、君が友達を家に上がらせていなかったらまだ続いていたんだよ?」

「そのまま続けられていたら吉馴は渡さんを頼っていたよ、だから後でも先でも助けてくれたのは渡さんなんだ」


 メリットもないのに、若くて魅力的な異性というわけでもないのにあの人は俺にも優しくしてくれる人だ。

 でも、ご飯のこととたまに酒を飲んだときにジュースを飲めと頼んでくるぐらいでそれ以外のことでは求めてくれない、最初のときに家事に自信がないような発言をしたのが悪かったんだろうか?


「そっか」

「ああ。冷める前に食べちゃえよ、午後も付き合うからゆっくりでいいけどな」


 っと、これだと俺が過ごしたがっているように見えるし、仮に解散にしようとしていたら言いづらくなってしまうか。

 他人とあまり一緒にいられなかったからこそ出てきた問題だった、いまは吉馴がいるから学んでいけるがそれはつまり彼女が被害者になるということだからな。


「たかし君がいきたいところはないの?」

「んー無理やり挙げるとすれば走るとき用の服を買える場所だな」

「それならそこにいこう、合わせてもらってばかりなのは申し訳ないから」

「いや、吉馴が誘ってきて俺が受け入れたんだ、吉馴がいきたいところにいこう」


 申し訳ないのはこちらだよ、なにかをすることで返していかないとあっという間にものすごい量になってしまいそうだ。

 ちなみに彼女は受け入れてくれなかった、「駄目、食べるから待ってて」と再開したから邪魔をすることもできずに黙る羽目になった。


「よし、お会計を済ませていこう」

「俺が払ってくるから先に出ていてくれ」


 だから無理やりここでの代金を払わせてもらうことでなんとかする。

 ごちゃごちゃ言われないためにスポーツ用品店にはいって適当に服を見ていた、が、やはりこういう場所は金がなければ楽しめない場所だ。


「うーん……高いね? じゃなくてっ、お金をちゃんと払うよ」

「駄目だ、色々と世話になっているからな」

「後でも先でも助けてくれたのは渡さんなんだ」

「ま、真似をするなよ、確かに渡さんが主なのはそうだけどさ」

「ううん、そういうのはちゃんとしたい」


 こういうときに限っていつもの笑みを引っ込める質の悪さがもうね……。


「わかったよ、でも、飲み物ぐらいは受け取ってくれ」

「こ、これを貰っちゃったら矛盾……しているよね?」


 ちゃんとしたいと言った後にすぐに受け取るのは難しいか。

 でも、受け取ってもらえないと困るからキャラが壊れてもやり抜かなければならない。


「多く買ってしまったなー誰かが飲んでくれないかなー」

「あははっ、なにそれっ」

「頼む」

  

 それこそ真顔で「なにをしているの?」とか言われなくてよかった。

 逃げ足だけ速いところは見せたくないから彼女は俺を救ってくれた形になった。




「いまからバーベキューをやるぞ」

「なら食材を買いにいかないとな」

「食材なら未来の家にある、未来が言い出したことなんだ」

「だったら取りにいかないと」

「向こうの庭でやるから問題ない、いくぞ」


 バーベキューはいいが兄のことはいいんだろうか? 酒があれば気にならないとか?

 というか、吉馴は本当に肉が好きなんだな、一週間前に食べたばかりなのにこれはまた豪快にやりたいみたいだ。


「あ。あのときの子だ」

「誘われたのか」

「そっちもね」


 焼いたりするのは全部渡さんがやってくれるらしい、どうやら兄はいないみたいだし、手伝おうとしたら断られてしまった。

 彼女の父の代わりに母がいたからかもしれない、二人でせっせと動いて子どもの俺らに色々と食べさせてくれた。

 大好きではないと言っていた渡さんもこういうときはやっぱり酒を飲んでいたね。


「食べすぎた……二つの意味でお肉がやばい」

「あ、麻希まき上手い」

「そんなことを言っている場合ではないでしょ、私達のお腹は特に蓄えようとするんだから」

「い、いや、怖いことを言わないでよ」


 流石に高地を誘うわけにはいかないか、なんともバランスが悪いからどうにかしたかったが。


「吉馴には他に友達がいるのか?」

「いるいる、休み時間なんか私を放置して他と盛り上がっていますよ」

「そうか」


 容易に想像できるのがなんとも、同じ学校だったらいまみたいには話せていなかった。


「逆に君は一人でいそうだね」

「最近は男子の友達ができた、これぐらいの大きさだから運んで移動したくなる」

「可愛い?」

「顔は少し幼い感じだな、悪い雰囲気になることはないから落ち着けるよ」

「ちょっと興味が出てきた、あそこにいけば会えるかな?」


 彼女の友達は積極的――そうではなくて彼女の友達だからこそ積極的なのか。

 自分一人で動いた場合よりも知り合いを作るのにはこういう形の方が楽だ、事実俺も吉馴が渡さんといてくれたからこうして関われているわけだし。


「なら今度頼んでみるよ」

「じゃあはい、連絡先を交換しよう」

「ああ」


 吉馴に頼んで話してもらえばよかったがもう遅かった。


「おーい肉を食え肉を」

「あ、はーい。未来いこ」

「うん」


 当たり前のように存在していて誰よりも食べようとしていることがすごかった。

 ただ、これだけ普通に行動をしていて何故疑ってしまったのか、凄く仲良さそうに見えてまだまだこれからというところなのか? それとも、なにか他のことも関係しているんだろうか。

 なんにも知らない人間が年上と歩いているところを見て気になった、ならなにもおかしくはないんだが。


「おい、男のお前が一番食っていないのはどうなんだよ」

「食べてるけど」

「もっと食え、そうすれば走る量も減るだろ」

「仮に太るぐらい食べたらもっと走るぞ、これぐらいがベストなんだ」

「「「うっ」」」


 まさか彼女の母も乗っかるとは思わなかった……。


「いや、あくまで俺にとってはだから、食べたいなら食べればいいんだよ」

「じゃああんまり食いたくないってことか? それでも男かよ」

「だって俺が沢山食べれば俺以外の人間が被害に遭うからな」

「お前はいちいち大袈裟すぎる……」


 メインより食べるわけがないし、そこまで食べられるわけでもない。

 普通にこちらも食べているんだから気にしないで楽しんでくれればよかった。

 一人だけ非協力的というわけでもないんだからいちいち気にする方がおかしかった。

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