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第11話 もし仮に正解があったとしても多分それを選ぶことはできない

 今夜起こっていることは、誰も知らない。


 田舎の村の小さな宿屋でリアが勇気をふり絞って勝負に出ていることを、家族も友達も、誰も知らない。

知ってるのはルロイだけだ。


 ひんやりと涼しい空気の中、月明かりだけが静かに部屋を照らしていた。





「まあ、とりあえず座れ」


 促されるままルロイと並んでベッドに座る。

昼間走ったときよりずっと激しく心臓が打っている。

この静けさの中ではルロイに聞こえてしまう。


 リアは座ったまま固まっていた。

来たのはいいけど、これから何をしたらいいのかわからない。

ルロイの顔を見ることもできない。


 リアがしたいことは何だ。

ルロイに、伝えたいことは何だ。


「昼間の野盗か?」


「え?」


 そういえばそんなことあったね。


「あれ、やっぱり怖かったんだろ」


 ルロイが心配そうに言う。


「確かに、刃物を見たときは怖かったけど……」


 リアは顔を上げてルロイをまっすぐ見る。


「ルロイがいたから、ルロイが絶対守ってくれると思ってたから大丈夫」


 ルロイは少しうつむき気味に視線を外す。


「そうか、まあ実際なんとかなったしな」


 そこでまた会話が途切れた。

窓の外の虫の声はやけに響く。


 ミスったかもしれない。

「そうなの、怖かったから一緒に寝てもいい?」とか何とか言うのが正解だったのかも。


 まあ、正解なんてないか。


「あの、あのさ」


 リアが口を開くとルロイがこちらを向く。

目が合うと心臓をつかまれたみたいにぎゅっとなって言葉がうまく出てこなくなる。


「ルロイは、魔法のコントロールができるようになったらすぐに旅立つの?」


「すぐ? 卒業前にってことか?」


 リアは頷く。


「そうだな……はじめはそう思ったこともあったけど、ちゃんと卒業はするよ」


 よかった。

リアの心が表情にでていたのかルロイが優しく笑った。


「中途半端なのは嫌だし、それに結構面白いんだ。学園も、あの街もな」


 ルロイもドライツェンを気に入ってるんだ。

なんか意外だな、いつも山にいるのに。


「それから」


 不意にルロイがリアの肩を抱き寄せた。


「お前もいるしな」


 体の右半分にルロイの体温と心臓の音がダイレクトに伝わる。


 これは、これは、これは……やばい。

正解だったの? これでよかったの?

リアはもう何も考えられないし、何も言えなかった。


 心臓が、爆発しそうなくらい鳴っている。


 正解はわからないし、正解を選んだらどうなるのかもわからないし、リアが今夜何をしたかったのかも最早わからない。


 温かい腕の中でリアはただルロイを感じていた。


 ルロイがぽんとリアの頭に手を置く。

リアがビクッと体をふるわせると、ルロイは頭を撫でながら優しい声で言った。


「どうだ、眠れそうか?」


 眠れるわけねえだろ!


 そんなことを言えるはずもなく、リアは小さく頷いた。





 温かい胸と、煙草のにおい。


 ベッドに仰向けになって、リアは天井を見つめていた。


『お前もいるしな』


 ルロイの言葉を思い出すとドキドキして眠れそうにない。


 これでよかったのかな?

いや、きっとこれでよかったんだ。


 卒業まで時間はたっぷりある。

これからじっくり攻めたらいい。


 リアは抱き寄せられたときの体温と腕の感触を忘れないうちに、そっと目を閉じた。





 帰りの馬車でリアは爆睡していた。

昨夜あまり寝てないのもあるけど、ルロイの隣にいることに慣れたせいかもしれない。


 ドライツェンが近づいてきたころ、ふと目を覚ますとルロイがリアに寄りかかって寝ていた。


『起こしてやるから』とか言ってたのに……油断しきっているルロイの寝顔は子どもみたいで可愛かった。


 ずっと見てられるな、これ。

たっぷり寝顔を楽しんでからリアはルロイを揺り起こした。


「ルロイ、もうすぐ着くよ」


「うわあ!」


 ルロイが大声を出したのでリアまでびっくりした。


「俺、寝てた?」


 リアが頷くとルロイは深くため息をついた。


「マジかー」


 その様子が面白くてリアは笑った。





 ドライツェンに帰ってきたのは夕暮れ時だった。

旅立ったのはほんの数日前なのに、もうずっと昔のことのように感じる。


「じゃあ、学園に帰るか」


「うん!」


 山を登っていると涼しい風がリアのみつあみを揺らしていった。


 秋がもうそこまで来ていた。

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