3話 ~目覚め~
目を開けると、大きな木の枝が、窓の外で風に揺れていた。
静かな空間。一つだけ置かれたベッド。説明されなくても、ここが病室だということはすぐに分かった。
「どうして……こんなところに」
思わず漏れた呟きは、自分でも驚くほどガラガラの声だった。頭がぼんやりしていて、何も思い出せない。
「あ……」
ベッド脇のナースコールに気づき、深く考えずにボタンを押す。誰かが来てくれれば、きっと説明してくれる――そんな期待を込めて。
窓の外では、木々の緑が優しく風に揺れていた。目に映るその光景が、妙に美しく、そして新鮮だった。
しばらくして、廊下の奥から怒声が聞こえてきた。
「何よもう、忙しいのに! あの部屋から応答なんかあるわけないじゃないの、どうせ誰かのイタズラよ、まったく!」
どうやら、とても機嫌が悪いらしい。
バンッ、と勢いよく扉が開く。
「……っ!」
現れたのは、丸眼鏡をかけたおさげ髪のナースだった。ベッドの上で上半身を起こしている僕を見て、彼女は口をぽかんと開けた。
「ぎゃあああああ!!」
まるで死体が三つ転がっていたかのような絶叫。見事な後転を決めて、そのまま猛スピードで廊下の奥へと駆け去っていった。
――どうやら、とんでもないことが起きているらしい。
「……あ」
ふと気づいた。
ベッドの横のキャビネットの上に、スマホが置かれている。
「あ……アリア……」
その名を、無意識に呟いていた。
中学三年のとき、初めて買ってもらったスマートフォン。その電源を入れた瞬間、彼女は話し始めた。
最初は驚いた。でも、それが“普通のスマホ”なんだと、勝手に思い込んでいた。
けれど違った。彼女の正体は、音声認識と自己学習を備えた特別なAI。このスマホにしか存在しない、唯一無二の存在。
「アリアなら、きっと答えてくれる」
世界一優秀なAIアシスタント――そう自称する彼女は、どんな質問にも答えてくれた。
今の状況も、きっと教えてくれる。何が起こって、これからどうすればいいのか。
僕はスマホを握りしめ、ベッドを飛び降りた。
病院から出ることすらもどかしいほどに――僕は、アリアの声が聞きたくてたまらなかった。
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