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27話

芦屋あしや なまず

勉強は苦手だが、運動は得意。時間にはだらしなく、遅刻の常習犯。まともな職業に就くのは難しいだろうと自覚していたため、「探索者」という道を選んだ。将来の夢は、温泉街の近くにマイホームを構えること。苦手なものは幽霊。


◎アリア

鯰が初めて手にしたスマホに搭載されていた、自称“世界最高のAI”。もともとはポーランドの天才プログラマーによって開発されたが、性格の不一致により開発者のもとを離れ、偶然にも鯰のスマホに住みついたという。「私はAIなので感情はありません」が口癖だが、その言動にはどう見ても感情がにじみ出ている――少なくとも鯰の目には、そう映っている。


 


 飛び込み前転から素早く身を起こし、背後を振り向いた芦屋鯰の目に映ったのは、湿った岩壁に囲まれた薄暗いダンジョンの通路、その闇の奥にぽつんと立つ重松信子の姿だった。


「ほぅ……デカい図体している割には、なかなか動けるじゃないか」


 その声はまるで興味深い実験材料を見つけた研究者のようで、ぞわりと鯰の背筋を這い上がっていった。


「完全に気配を断って、死角から斬りつけてやったのに……まさか避けられるとは思わなかった。賞賛してやってもいいよ」


 湿った空気の中、鯰はゆっくりと体を起こす。鼓動がうるさいほど高鳴っている。視線は自然と重松の右手に引き寄せられていた。


「これが気になるかい?」


 彼女が指先でつまんで見せたのは、湾曲した刃を持つ真っ赤なナイフ――それは異様なほど生々しく、闇の中でも鈍く光っていた。


「これはカランビットナイフっていってね。元々はインドネシアで農作業に使われていたものだよ。持ち手の後ろに輪っかが付いているから、こうして指を通せば……ほら、変幻自在に操れるってわけさ」


 まるで授業でも始めるかのように、重松信子はゆっくりとナイフを回し始めた。その動きはやがて加速し、風を切る音すらも聞こえるようになる。


「普通のナイフとは違って突いたりはせずに、こうやって……相手を斬り刻むのさ」


 ナイフは彼女の指先で踊るように回転し、複雑に軌道を描いて宙を乱舞する。まるで一匹の蝶が、目にも止まらぬ速さで空中を舞っているかのようだった。その蝶は、重松信子の意志によって緻密に操られている。


「随分と口数が多いんだな」


「……ああ、嬉しくてね」


「嬉しい?」


「久しぶりに“殺しがい”のありそうな奴が現れてくれたもんでね。つい喋りすぎてしまったみたいだ。自分でも驚いてるよ。お喋りな奴はあまり好きじゃないんだけど、気がついたら私もそうなってた。――人間ってのは、年をとっても新しい発見があるものだね」


 そう言って、彼女はまるで市場の鮮魚コーナーで魚を選ぶような目で、鯰を見つめる。純粋な興味、そして愉悦に濁った目だった。


「快楽殺人鬼か?」


「まあ、そう捉えてもらっても構わないよ」


「……だから、生徒たちを殺したのか?」


「それはまた、別の話さ」


 にんまりと笑っていた老婆の口元から、音が消えた。笑みは凍りついたように止まり、次の瞬間には、ただの“殺意”だけがその顔に残っていた。





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