25話
「どうか成仏してください……」
両手を合わせ、壁に向かって真剣に祈る大男。声は震え、どこか哀しみに満ちていた。
「え、ちょ、ちょっと待ってください……!」
壁の向こうから慌てた声が返ってくる。
「あなたはもう亡くなったんです……ダンジョン探索中、シャークに襲われて……どうか、未練を捨てて、安らかに……」
「だから違いますって! 僕、生きてます! 生きてるんです!」
「え? ……いやでも、そんなはずは……」
「僕の名前は高村友斗です!」
鯰は一瞬きょとんとした顔をし、それから眉をひそめた。
「……ん? どこかで聞いたような……」
「さっきからずっと僕の名前呼んでくれていたじゃないですか!」
「あっ! もしかして……あの、生徒の中で唯一生き残ったっていう……?」
「そうです! その高村です!」
ようやく話が通じたらしく、鯰は顔をあげ、壁面をまじまじと見つめた。
「それにしても、なんで壁から声が……?」
「隠し部屋です。今、その中に閉じ込められてます」
「隠し部屋?……ダンジョンにそんなのがあるなんて聞いたことない」
鯰は壁をコンコンとノックしてみた。が、特に異常は感じられない。
「本当なんです、信じてください!」
「一応確認だけど、君……生きてるんだよな?」
「はい!」
その明快な返答に、鯰はほっと息をついた。
――助かった。幽霊じゃなくてよかった……!
心の中で密かに安堵する鯰。実は昔から幽霊とかオバケとかが大の苦手なのである。
「それならさっさと出てきてくれ! みんな君のために大騒ぎしてるんだから」
「それが………出来ないんです……」
「どういうこと?」
「……色々な方にご心配をおかけしてるのは重々承知ですし、申し訳ないとは思ってます。でも、ここから出ることは出来ないんです」
「もしかして………」
「え!」
期待に胸を弾ませたような声が聞こえた。
「秘密部屋が気に入ったから出たくないとか、そういう理由?」
「それは違います」
ガッカリした声が聞こえた。もしかしたら自分が説明しなくても分かってくれているのかもしれない、という期待が裏切られた声だった。
「今から説明をさせてください。そうすれば理解してもらえると思います!」
「……よし、じゃあ聞かせてもらおうか」
「ありがとうございます!」
壁の向こうから、ほっとした声が響いた。
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