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22話

 

 目を見てみたいと思ったが、元百戦錬磨の探索者である探索者専門学校の教員は顔を伏せていて見ることが出来なかった。


「二階層は、今は探索者協会の職員の方が探してくれています。私は……交代しました」


「どうして交代を?」


「……『勘』ですね。もちろん彼が二階層にいる可能性が高いことは分かっています。しかしそこは私が時間をかけてかなり探しました。ですのでそこにはもういない可能性もあると思っています」


「いない可能性?」


「シャークの襲撃を受けたことで気が動転して、他の階層に転移してしまったのではないかと」


 確かにあり得そうなことだ。逃げている最中に魔方陣を見つけ、とっさに別の階層に転移してしまう。


「それなら全員で一階層を探した方が良いんじゃないですか?ダンジョンで一番広いのがこの一階層です。話によれば東京ドーム3個分くらいはあるそうじゃないですか。探すのには時間がかかりますよ」


 初心者講習会で習った知識だ。


「………根拠はあくまでもただの勘ですから、普通に考えれば事件があった二階層にいるはずです」


「それじゃあ僕もこの階層で高村君を探します」


「いえ、芦屋さんは三階層をお願いします」


「三階層?!」


 鯰は驚きの声をあげた。


「先ほども言いましたが、高村君は魔方陣を使ってすでに他の階層に転移している可能性があります」


 溜息こそつかなかったが、まるで頭の悪い生徒に説明するような口調だった。


「気が動転した高村くんは、シャークから逃れるために上の階層に逃げたかもしれません。………ですので芦屋さんには三階層での捜索をお願いしたいんです。人手が足りなくてまだ誰も捜索していませんから」


「それはどうでしょうか?三階層に高村君はいないんじゃないですかね」


「………どうしてそう思うんでしょうか?」


 気のせいだろうか、声に若干の苛立ちを感じた。


「受付のお姉さんが言っていましたけど、今は事件発生からもう二時間程度が過ぎている。ですよね?」


 だからこそ探索者協会は修羅場と化していた。時間が経てばたつほど高村君の安否が厳しいものになるから。


「………その通りです」


「それなら高村君は今頃は冷静さを取り戻していて、ダンジョンからの脱出を目指していると思います。上の階層よりも下の階層を探すべきだと思います」


「ダンジョンでは、私のほうが遥かに経験があります。指示に従ってください」


(どうしてだろう)


 その一方的な言いぶりに、鯰は違和感を感じた。


「すいませんが、僕も自分の勘に従います」


 そして次の瞬間――


「分からず屋の糞野郎が!」


 怒声が、ダンジョンの空間に裂けるように響いた。


 それは明らかに、悲しみに明け暮れつつも残った生徒を探し出そうとする教師とは別の顔だった。


「重松先生、急にどうしたんですか?」


「あなたが……っ、分からず屋だから、私の言うことに従わないからでしょうが!」


 声は荒れ、顔は赤く染まり、肩が怒っている。間欠泉のように突然爆発した。


「勝手にすればいいわ。ただし、生徒を見つけたら真っ先に私に報告しなさい。いいですね?」


 鯰を見つめる重松信子の目は、血に興奮した猛獣のようなそれだった。





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