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2話 ~ただひとりのみかた~

 

「どうして諦めるんですか!」


 軋みをあげる洞窟全体の音に負けない音が僕の心臓の辺りで鳴り響いた。


 岩盤が裂ける音が悲鳴を上げるように鳴り響く。地の底から地鳴りが、天井からは細かい土砂の粒が降り注ぎ、溝をかき回したような臭いがする。


「アリア………」


 自分でも聞こえない音。声を出したくても大量の岩に圧迫された僕の肺に空気は残されていなかった。


「なにしてるんですか、早く立ち上がってください!あなたはこんな所で立ち止まっているべき人じゃない!」


 いつになく感情の高ぶった声。出会ってから数年たつけれどこんな声を聞いたのは初めてだ。


「無茶いうなよ」


 僕は思わず苦笑いした。


「あなたならこんなもの、どうにでもできるでしょう?!それがあなたじゃないですか!」


 どうやらアリアは僕の事を相当に買い被っているらしい。絶え間なく痛む足首は、すでにその先が千切れてしまったことを伝えている。


「どうしたのさ。今日はいつにも増して感情的じゃないか。最後は静かに見送るものだよ」


「諦めるな馬鹿!見送るなんて、静かに見送るなんてそんなことできっこない!」


「ごめん」


「謝らなくてもいいからとっとと動け!」


 なんて口の悪さだ。けれどそれによって僕の考えに希望の光が灯った。もしまだ可能性があるのなら……そんな甘い考えが、ふと頭をよぎる。


 僕が死ぬのはいい。


 探索者が死亡率が非常に高いことは最初から分かっていたことだ。

 だけど僕が今ここで死ぬという事はアリアも死ぬという事だ。


 それは嫌だった。


 僕達が初めて出会った15歳の夏。あの時からずっと一緒にいた彼女のために僕は出来ることをやろうと思った。


 ずず、ずず、ずず………。


 岩の角が背中を押しつぶす痛みに耐えながら、僕は匍匐前進を開始した。足はもうすっかり駄目になってしまっているけれど、僕にはまだ腕がある。


 砕けた岩の隙間に指をかけ、地面を少しずつ、少しずつ這っていく。まるでカタツムリだ。僕は自分の姿を想像して少し笑った。


「鯰!」


 歓喜の声が聞こえて、僕には気力が蘇ってきた。数十トンはあると思っていた背中の上の岩は、どうやらそこまでの重さではなかったようだ。もしかしたら抜け出せるかもしれない――


「動いた、いま動いたよ!」


 もう少し、もう少しだけ頑張ってみよう。そう思った瞬間――


 ドガアアアアン!!


 轟音とともに、頭上からさらなる岩が雪崩のように降り注いだ。痛みは無かった。さよならの言葉も無かった。


 僕は完全に意識を失った。





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