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14話

芦屋あしや なまず

勉強は苦手だが、運動は得意。時間にはだらしなく、遅刻の常習犯。まともな職業に就くのは難しいだろうと自覚していたため、「探索者」という道を選んだ。将来の夢は、温泉街の近くにマイホームを構えること。苦手なものは幽霊。


◎アリア

鯰が初めて手にしたスマホに搭載されていた、自称“世界最高のAI”。もともとはポーランドの天才プログラマーによって開発されたが、性格の不一致により開発者のもとを離れ、偶然にも鯰のスマホに住みついたという。「私はAIなので感情はありません」が口癖だが、その言動にはどう見ても感情がにじみ出ている――少なくとも鯰の目には、そう映っている。


 



「すいません遅れました、芦屋鯰です」


 僕は教壇に立つウサギ耳のカチューシャを付けた女性に頭を下げた。ほっとしたような表情の中に目が少し潤んでいるように見えた。


「え、あ、空いている席に座ってください」


 僕が遅刻したせいでこんな目に合わせてしまって申し訳ないなと思っていたら、舌打ちが響いた。


 ──ああ、多分さっき怒鳴ってたのはこの男だな。


 一番前から室内を見渡すと、一番奥の席。その男の隣だけが、ぽっかりと空いていた。他の誰も座りたくなかったのだろう。


 僕は歩いて行って重たい荷物を床にどさっと下ろし、躊躇い無くその男の隣に座った。


「おい、なんだよ。他の席に行けよ」


 座った瞬間、低く唸るような声が耳に届く。だが僕は何も答えず、無言のままジャケットを脱いだ。


 その瞬間、教室全体がざわめいた。


「……っおぉ」


「なにあれ……でっけぇ」


「マジで人間かよ……」


 ひそひそとした声が空気の底で波打ち、ざわめきがうねりとなって広がっていく。


 三年間の昏睡状態から復活した僕の体は、大きく変わっていた。身長198㎝、体重113㎏。肩幅は隣の席にまで食い込み、椅子のフレームが悲鳴を上げる。


「ぐ……っ」


 隣の男が明らかにひるんだのが分かった。僕の顔を睨もうとしても、極太の腕がその視線を遮っている。服がぴちぴちなのは僕の体格に会う大きさのサイズがなかなか無いからだ。


「何か?」


 静かに、低く問いかけた。相手の反応を見るまでもなく、脅しとしては十分だった。


「………」


「何か?」


 僕は男顔を見下しながら言った。


 もう一度。同じトーンで。だが今度は空気を肺一杯に吸い込んでより体を大きく見せるようにしてから言った。体の大きさが圧倒的に違うから視線は自然と上からだ。


「………」


 僕は暴力をちらつかせて他人を威圧する奴が嫌いだ。


 こいつだって探索者である以上は戦闘能力に自信があるのだろう。日焼けした顔は引き締まっているし、頬には傷もあってなかなかの迫力。普通の人なら恐れるだろう。


 だが今の僕ならば負けはしない。探索者を再開するにあたって多少のトレーニングは積んできた。今すぐ戦えと言われても困らないだけのものは作って来た。


 やる気なら今すぐやってやるぞ、意思を込めて男を睨む。


「な、なんでもねぇよ……」


 男は目を逸らし、声を低くしてそう言った。


 ──勝利。


「それではこれから初心者講習会を開始します。講師を務めます菅野愛理と申します、よろしくお願いいたします」


 教壇のウサギお姉さんが、今度は少しだけ笑みを浮かべてそう言った。ちらりと僕の方を見て、片目をつむる。


 ウインク──まさかのご褒美付き。


 女性には好かれないと思っていたガチムチマッチョだけど、思ったよりも悪くないじゃないか。僕はちょっとだけ自信を取り戻しながら、お姉さんの講義に耳を傾けた。





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