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12話

芦屋あしや なまず

勉強は苦手だが、運動は得意。時間にはだらしなく、遅刻の常習犯。まともな職業に就くのは難しいだろうと自覚していたため、「探索者」という道を選んだ。将来の夢は、温泉街の近くにマイホームを構えること。苦手なものは幽霊。


◎アリア

鯰が初めて手にしたスマホに搭載されていた、自称“世界最高のAI”。もともとはポーランドの天才プログラマーによって開発されたが、性格の不一致により開発者のもとを離れ、偶然にも鯰のスマホに住みついたという。「私はAIなので感情はありません」が口癖だが、その言動にはどう見ても感情がにじみ出ている――少なくとも鯰の目には、そう映っている。


 

 夢を見ている。


 子供の頃から何度も見ている夢。燃え盛る街、逃げ惑う人々、声をあげながらそれを追いかける異形の化物。


 僕は屋根の上に立ち、手を合わせて………。


 ーーー


 ーー


「終わりましたよお客さん………」


 そう言って肩をゆすられた鯰が目を覚ました時、明るい光を受け止めている大きな鏡が映しだしたのは、金髪の短髪になっている自分の姿だった。


「………」


「どうですか?すごく似合っていると思いますよ」


「KAHO」と書かれたネームプレートを付けた若い女性の美容師さんが煌めくような笑顔で聞いてきた。季節は春。もしかしたらKAHOさんは今年から美容師になったばかりなのかもしれない。


「いいですね」


 僕は答えた。


「そうですよね!ありがとうございます!私、お客さんから「おまかせで」って言われたの初めてなんです。だからすんごく気合入っちゃいました」


「思った通り、いやそれ以上の出来栄えです。本当に満足ですよありがとうございます」


 僕は笑顔をキープしたままでなんとか会話を繋いだ。しかしこの美容師さんは中々の強心臓だ。もし自分だったこんな巨漢をいきなり丸坊主には出来ない。


「ありがとうございましたー!」


 僕はKAHOさんの明るい笑顔に少し恐怖を感じながら、なかなかの金額を支払って美容室を出た。


「どうかしましたか?」


「ねえアリア、本当に似合ってるかな?」


「似合ってはいます」


「本当?」


「不安ですか?」


 スマホから嬉しそうなアリアの声がする。


「なんか調子に乗ってる頭の悪いチンピラみたいじゃない?」


「私には、腕力だけが取り柄で周りから嫌われている頭の悪いボス猿のように見えますね」


「やっぱりそうじゃん!」


「ですけど似合っているかと聞かれれば似合っていると思いますよ」


「たしかに「おまかせ」って言ったのは僕だけど、まさか金髪にされるとは思ってなかった。髪を染められたのなんか生まれて初めてだよ」


「そんなにご不満ならあの美容師に直接言えばよかったじゃないか」


「そんなこと言えるわけないよ。アリアも見たでしょ、あの純粋無垢な笑顔を」


「飼い主に褒めてもらえると思っているゴールデンレトリーバーみたいな顔をしていましたね」


「この髪型って僕の巨体をさらに狂暴に見せる髪型だよな………」


 スマホに反射している自分をしげしげと見つめながら呟いた。


「名刺、貰っていましたね。」


「そうだね」


「もしご主人様がもう二度とこのお店に来なかったら、彼女は悲しむかもしれませんよ。やっぱりあの髪型は嫌だったんじゃないかって」


 僕は笑った。


「それは考えすぎでしょ」


「いえいえ、女性というのはそれくらい繊細な心を持っているものなのです」


「そうかなぁ………」


「そうですよ」


「けど次もまたあの店に行ったら、またこれにされちゃうよ」


 僕は自分の頭を撫でた。今までと全く違うしゃりしゃりする髪型には違和感しかない。


「いいじゃないですか、私は嫌いじゃないですよ」


「そうかなぁ………」


 お洒落な格好をした人々が行きかう、ここ青山の街でスマホに向かって喋りかけている巨体の男、彼の名前は芦屋鯰。


 この世界で日本にしか存在しないダンジョンと呼ばれる魔境に挑む探索者だ。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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