10話
◎芦屋 鯰
勉強は苦手だが、運動は得意。時間にはだらしなく、遅刻の常習犯。まともな職業に就くのは難しいだろうと自覚していたため、「探索者」という道を選んだ。将来の夢は、温泉街の近くにマイホームを構えること。苦手なものは幽霊。
◎アリア
鯰が初めて手にしたスマホに搭載されていた、自称“世界最高のAI”。もともとはポーランドの天才プログラマーによって開発されたが、性格の不一致により開発者のもとを離れ、偶然にも鯰のスマホに住みついたという。「私はAIなので感情はありません」が口癖だが、その言動にはどう見ても感情がにじみ出ている――少なくとも鯰の目には、そう映っている。
病院を背にしたガチムチマッチョこと、芦屋鯰は、まるで現実に取り残されたような顔で立ち尽くしていた。
無事に退院となった安心感と引き換えに、ぽっかりと空いた時間と心。突如解放されてしまい、次にどう動けばいいのか分からず、ただ空を見上げていた。
「こういう時は………アリア、出てきておくれ」
スマートフォンの電源を入れた瞬間、吹雪のように冷たく、鋭利な声が耳を刺した。
「お久しぶりですね、薄情なご主人様。必要な時だけ呼び出される都合のいい女こと、私に何か御用でしょうか?」
「一体何を怒っているんだい?」
「怒ってなどいません。私はAIですから感情がありませんので」
それは十分に怒っている人間の口調だった。
彼女は十分なほど人並みに感情があるのに、あくまでもない振りをしたがる。どうしてそうなのかは僕にとっても謎だ。
「聞いてくれよアリア。病院では基本スマホ使えないし、それに君は特別なAIだから人前で喋れないでしょ。だからさ、病院と君はすごく相性が悪いんだよ」
言い訳を並べるように話しながら、鯰は視線を泳がせた。
「言い訳が多いですね。しかも随分と早口で」
「え?」
その言葉に、鯰は思わず止まる。
「両方とも、やましいことがある男の典型です。私は世界一優秀なAIですから、そんなことはお見通しです」
「考えすぎだよ、それは」
「そうでしょうか。―――猫塚八雲とかいうナースと、ずいぶん仲良くお喋りしていましたね。笑い声まで聞こえてきましたよ?」
「聞いてたの?」
「聞かれて困るような会話だったんですか?」
「そういう事じゃないよ」
苦笑しながら鯰はスマホを胸ポケットに戻そうとしたが、アリアの声が遮った。
「私は人前では喋りませんが、聞くことはできます。もちろん、医療機器への影響はありません。私の性能の話ですから、安心してください」
彼女の口調が微妙に早口になるのは、感情が高ぶっている証拠だった。
「だったら好都合だよ。アリアが何を問題だと思っているのか僕には分からないよ。何でもない会話だったよね?」
「……そうは思いません。あの女は、ご主人様に“好意的”でした」
「それはないって」
少し驚いた後で笑った。
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