第8話 信長大爆発 カムチャッカファイア!
地味なサラリーマンの恵は、新幹線で着替えて女装して恵となるのが趣味。もう一つの趣味は「戦国オタク」。東京発の新幹線が名古屋に着く直前、桶狭間古戦場を通過したときにセーラー服女装のまま、1560年の今川義元の本陣に転生してしまう。恵のアドバイスで義元は輿を囮に逆方向の大高城に向けて脱出。信長は義元本陣にやってきて恵が置き忘れたユノロクのリュックを見つける。そこにサルこと木下藤吉郎(豊臣秀吉)、そして織田家から追放されていた前田利家も現れる。
信長はペッと唾を吐き捨てると「貴様の帰参なぞ、認めとらんわ!」といきなり鋭い蹴りを利家の腹に炸裂する。
「ぐはっ!」と情けない声を上げ、利家は地面に転がる。鼻から血を滴らせながら、這うようにして顔を上げる。
「確かに…帰参は認められてませんが、俺はただ、信長様の危機に…」
言葉を終える間もなく、信長の2撃目の蹴りが飛んでくる。利家は「ゲボッ」と口から漏らし、蛙のようにひっくり返る。信長の怒りは火薬庫に火をつけたようにエスカレートする。
「危機だと? 貴様は何もわかっておらん! これは危機ではない、僥倖じゃ!」
信長の手が怒りで震えながら腰の刀の柄に伸びる。すかさず藤吉郎が割って入る。
「お、落ち着いてください、信長様! こいつ、幼馴染ゆえ、サルが後できっちり躾けますんで!」と必死に取りなす。
チッと舌を鳴らし信長は刀を抜くことは躊躇いながらも、苛立ちを抑えきれず「この…デクの棒が!」と吐き捨てる。
すると、利家はむきになって反論する。
「俺はただデカいだけじゃありません! この背、ちゃんと役に立つんです!」
「おい、又左! やめろ、本気で斬られるぞ!」
藤吉郎が慌てて止めに入るが、利家の口は止まらない。
「さっき、俺たち槍部隊が六角隊を蹴散らした後、ちょっと小高い丘に登って物見したんです。俺、背が高いだけじゃなく、目もいいんで!」
そのドヤ顔に、信長だけでなく藤吉郎もこめかみをピクピクさせる。
重くなる空気を利家はまるで気にせずに高らかに続ける。
「東の方角、霧の切れ目から見えたんです。義元の輿を囲んだ今川の大軍、700人余りが田楽狭間へ撤退してるのが!」
信長はついに我慢の限界を超え、逆に冷静な口調で言う。
「…貴様、本当に使えん… 斬り捨てるしかない…」
太刀が抜かれ、振り上げられる。キラリと刃が光る瞬間、利家はようやく事態のヤバさに気づき、慌てて叫ぶ。
「お、お待ちを! それだけじゃないんです! 西の方を見たら、250騎ほどが大高城へ向かって走ってたんです!」
信長は太刀を頭上に振り上げたまま、冷たく返す。
「だから何だ? 奇襲を受けたんだ、散り散りになるのは当たり前だろう」
藤吉郎がハッと何かに気づき、地面に落ちた黒いスーツのジャケットを拾い上げる。
「信長様、ちょっと待ってください。義元の裏の裏を…!」と言いながら、ジャケットの襟と裏地をパタパタとめくって示す。
それを見て信長は大きく息を吸ってから、ふーっと長く吐き、怒りを抑えるように太刀を鞘に収める。
「…詰まらんものを斬って、刃こぼれさせて、義元の首を取り損ねてもな…」
少しだけ空気が和らぐと、利家はまた調子にのる。
「まぁ、ぶっちゃけ大勢に影響ない話ですけどね。250騎から少し離れたとこで、5人の騎馬武者に囲まれた白い幽霊みたいな女が歩いてたっけ。なんか、藤吉郎が持ってるその衣装と雰囲気が似てたような…」
信長の目が鋭く光ると、利家の首根っこをグイッと掴み、「なぜそれを早く言わんのか!」と一喝する。
利家は目を白黒させ、藤吉郎は呆れ顔でつぶやく。
「…又左、ほんと、お前ってやつは…」
次回第9話「夢に誘う百合の香り」義元を追いかけるメグミに異変が?