第25話 目覚めは姫のキス?
意識を失った恵は、夢の中で、白いドレスを着た美しい直虎と、女装をした狩野永徳と、手をつなぎ、洋風の邸宅へダージリンティーを飲みに向かうが…
井伊直虎は「姫ー!姫ー!」と叫びながら、意識を失った恵の肩をゆする。恵の頭がカクンカクンと上下する。
今川義元は口元を扇で押さえながら「クックックッ」と楽しくてしょうがない様子で近づいてくる。老参謀の朝比奈と直虎の父直盛はさすがに心配そうに取り囲む。
その囲いを、無言の鈴木四郎が押し分けるように入ってきて、叫び続ける直虎に対して、人差し指を口元に置き「しーっ」というジェスチャーをする。うなずいた直虎はそっと地面に恵を寝かせる。
恵の脇に膝をついた四郎は無言で恵の口元に耳を近づけ、呼吸音を探るが、反応が弱いことに顔をしかめる。首元に指を当て、頸動脈の脈拍を確かめたあと、セーラー服の胸に耳を押し当て、心拍音を聞く。かすかな鼓動を感じた四郎は、希望があることを直虎に目で伝える。
四郎は無言のまま、セーラー服の襟のリボンが結ばれてるあたりに両手を重ねると、「フンフンフン」と鼻で息を吐きながら、力強くリズミカルに2度、3度、4度、5度と押していく。
四郎は人差し指を口に当て、周りに「シーッ」とジェスチャーすると、再びセーラー服の胸に耳を当てる。
四郎は顔を上げて少し緊張した顔を緩め、人差し指で直虎の唇を指差してから、その指をスーッと恵の唇へ動かす。
無言でも幼馴染ゆえに四郎の意図が伝わる直虎は「俺が姫に接吻して、息を吹き込め、と言うのか?」と口に出すと、四郎は無言で大きくうなずく。
直虎は「俺の、初めての…」と顔を真っ赤にする。ニヤニヤする義元の視線を感じて、両手で頬を叩くと、「是非もない!」と空に向かって吠え、仰向けの恵にまたがって、両手で左右の手のひらをガシッと握ると、顔を近づける。
◇
夢の中で、恵は両手を、白いドレスの女と、ワンピースの女装に繋がれて、「ランララランラン」と歌いながら、3人で白亜の洋館にスキップしながら向かっていく。
その時、遠くから「姫ー!姫ー!」と直虎の呼ぶ声が聞こえる。恵は「あれ?この女の人が直虎じゃ?」と右の女を見ると、その顔はキャンバスの上で絵具が混ざり合ったようにドロリと溶け、やがて真っ白なのっぺらぼうに変わっていた。左の女装した少年の顔を見ると、それもまたのっぺらぼうーー。恵は「直虎!助けて!」と叫ぶ。画面に広がっていた鮮やかな光と色彩は濁り、美しい浜名湖の湖畔は地面から崩れていく。
◇
仰向けになった恵が目を閉じている。空は夕焼けに染まりだしている。セーラー服の胸が微かに上下し、呼応するように喉のスマートチョーカーも細かく震えだす。恵は涙の塩っぽい匂いと手のひらに確かな温かさを感じ取る。
「うーん」と恵が目を開けると、整った顔を涙と鼻水でくしゃくしゃにして目を閉じた井伊直虎の顔が近づいてきて、視界のすべてを埋めようとしている。
恵は「えっ、壁ドン? 違う、キス?」と目をぱちくりして、反射的に「な、なにしてんのよ?!」と言って上半身を起こす。
「ゴチン!」
唇と唇が触れる直前に、恵と直虎のおでこがぶつかって大きな音を立てる。
「ぶほっ」と義元が吹き出す。恵は「いったーい。なになに?どうしたの?」とキョロキョロと首を回す。
隣で甲冑を着た直虎が身体をこれでもかというくらい小さくして、顔を真っ赤にしている。四郎が黙って後ろからその肩をポンポンと叩く。
次回、遠江軍団に激震!「夜伽命令と男の娘大告白」。5月7日夜公開!
目覚めのシーンは第1話の転生時と、第6話の壁ドンのリフレインです。よかったらぜひそちらも読んでください!




