第18話 信長の2発目と青年武将の宙返り
信長と鉢合わせとなった恵。恵の護衛の遠江4兄弟(4つ子)は、一人、また一人と倒されていく。
少し前の雷雨が嘘のように晴れた桶狭間の戦場。4人3騎が大高城へ急ぐ。鈴木四郎が先頭でゴルティクス製のキャリーバッグを抱え、青年武将の操る馬には横座りする恵がしっかりと腕を腰に回す。少し離れて一郎の馬が追う。
わずか数分のうちに、手練の二郎と三郎が討ち取られた。一郎は覚悟を決めると、馬のスピードを少し落とし、あえて標的になることを選ぶ。
「パン!」と乾いた2発目の銃声が鳴り響き、一郎の鎧が「パスン」と音を立てる。一郎はうめき声も上げず、淡々と自分の兜を外し右手に持つと、「姫様!」と声をかける。
恵と青年武将が一斉に振り返る。一郎は「振り向くなと言ったばかりですが、姫様は兜をかぶっていません。こいつをお使いください」とブンと前に投げる。
青年武将はハシっと兜を掴むとそれをかぶり、キュキュッと顎紐を締める。
一郎の鎧の胸当てが日の丸のように真っ赤になっている。恵は「背中から撃たれて…」と言葉を継げない。
一郎は意識を失いかけ、「姫…もう振り返ってはなりません…印地打ち…次は我ら4兄弟が…勝ちます…」と言葉を絞り出すと、手綱を握る腕がだらんとなり、身体が左に倒れ、「ドサッ!」と落馬する。
青年武将は「くっ、一郎」と涙声で呟き、「あぁ、もう振り返らねぇ。姫は俺が護る。だがもう1回だけ」と言うと、恵に「姫! 腕を離してください」と丁寧に告げる。
恵は「は、はい」と腰に回していた腕を外す。
信長は銃口を2人乗りの馬に向け、「次は白き妖女」とボソリと呟き、2連発銃の引き金に指を添える。
青年武将は右手に持っていた槍をポイッと捨て、腰を1回浮かせ、膝を曲げて力を溜めると、振り上げた両腕を一気に鞍の前部に叩きつけ、同時に膝を伸ばす。
「ギュン!」と青年武将の身体が宙に舞い、陽光を浴びながら宙返りする。ピンと伸びた身体が優雅に1回転する動作に、恵は「綺麗…」と思わず口に出す。
青年武将は回転した身体を馬の背中の後ろぎりぎりに着地させ、「姫、失礼します」と横座りの恵の脇に手を差し込み持ち上げ、鞍の前方に大股開きで座らせる。自分の身体を前にずらし、恵を後ろから抱きかかえるように手綱を握る。
「しっかり捕まってろよ。振り落とされるな。ハイヤーッ!」と不良口調で馬の腹をくるぶしで蹴る。
信長は前後が入れ替わったのを見て、照準を合わせたまま、「サル」と問う。
阿吽の呼吸で主の質問を理解した藤吉郎は「サルめが作った特製火縄銃は鎧一つは簡単に貫通できます。まして白き妖女は鎧を着てないようですので、一発で仕留められましょう!」と答える。信長は「で、あるか」と言い、引き金を引く。
恵の耳に「ズガーン!」と爆発音が聞こえる。直後に「グシャン!」という鈍い金属音と、後ろから金属バットで殴られたような衝撃を感じる。
「撃たれた?」
しかし、馬は走り続け、青年武将も手綱をしっかり握っている。恵は振り返り、青年武将の顔を見ると、「いってっ!」と少し眉をしかめている。青年武将は恵の心配そうな視線に気づき、「大丈夫です。背中の隙間を塞ぐ背板がずれていたみたいで、ちょうどずれたところに弾が当たって曲がったようです」と説明し、恵を安心させようと笑顔を作る。
信長は2発目の発射を終えた火縄拳銃をポイッと藤吉郎に投げる。受け取った藤吉郎は長い手を眉の上に当て目を凝らし、「ほぉ、外れかけた背板が弾をはじくとは、白き妖女は悪運が強いですな」と感心したように言う。「これも信長様の正確無比な射撃ゆえ」と続ける。信長は「それは、嫌味か?」と尋くと、藤吉郎は「めっそうもございません」と慌てて首を振る。
そこに槍を構えた前田利家がパカパカと馬を操り、信長と藤吉郎の前に立つ。あたふたと追いかける狩野永徳はあやめ色の狩衣になっている。槍を三郎の身体から抜くときに、重い甲冑を脱ぎ捨てたらしい。
利家は「藤吉郎曰く、信長様の失敗を、この槍の又左が帳消しにして差し上げよう」と大げさに言うと「ハイヤーッ!」と馬の腹を蹴り、恵たちの馬を追いかける。
藤吉郎が「お、お前! そんなこと言ってないぞ!」と言ったときには、すでに利家はいない。信長は片眉を上げ、藤吉郎、続いて永徳の困惑した顔を見て、「で、ある、ぶほっ! ガハハ!」と笑い出す。
次回、恵!絶対絶命!迫る槍の又左!の巻。5月2日朝公開!いよいよクライマックス!絶対見てね!




