第15話 浜名湖育ちの四つ子兄弟
地味なサラリーマンの恵は、新幹線で着替えて女装して恵となるのが趣味。もう一つの趣味は信長と狩野永徳推しの「戦国オタク」。東京発の新幹線が名古屋に着く直前、桶狭間古戦場を通過したときにセーラー服女装のまま、1560年の今川義元の本陣に転生してしまう。義元を史実とは逆方向の大高城へ脱出させ、恵と6人の護衛は義元を追いかけるが、信長の追跡が迫る中、恵は馬上で居眠りしてしまい道に迷う。恵は2028年のスマートチョーカーの無駄機能「プロジェクションマッピング」を演出のためだけに無駄に起動してから、一度見たグーグルマップを思い出せるチートスキル「鳥の目」を発動。無事に老木の迷路からの脱出に成功する。
霧が薄れ、桶狭間の戦場が徐々に明るみを帯びる。恵の「鳥の目」スキルで巨木迷路を抜け出した6人5騎の足取りも軽い。
護衛の輪の中心の馬に横乗りするセーラー服の恵は、4人の騎馬武者の顔を見比べる。青年武将は兜を捨てイケメン顔が露わだが、兜をかぶったままの4人は顔が半分影に隠れている。恵は4人に目を凝らし、「ねえ、4人って顔そっくりじゃない?」と質問する。
青年武将は美少年顔をほころばし、「えぇ、こいつらは四つ子なんすよ」と不良っぽく答える。
恵は「やっぱり! 全然違いが分からないや」と言うと、青年武将が笑いながら「そうすっか? 姫の大きな黒い荷物を持ってるのが四郎。これが一郎、これは二郎、あれが三郎」と順に指差す。
一郎が「我らは遠江の井伊谷から馳せ参じた鈴木4兄弟。拙者は鈴木一郎!」、二郎が「鈴木二郎!」、三郎が「鈴木三郎!」と名乗りを続けるが、四郎はゴルティクス製のキャリーバッグをヒョイと掲げて無言で頭を少し下げる。青年武将は「四郎は無口なんすよ」と代わって紹介する。
恵は「へぇ、やっぱり違いが全然分からないや! 井伊谷って浜名湖が風光明媚だよね? いいなー!」
青年武将が「さすが、俺たちのメグミ姫だぜ。浜名の海も、井伊谷のことも知ってるんだな!」と目を細める。「俺はこいつらと子供のころからの連れ、腐れ縁なんすよ。浜名湖沿岸の隣村同士で」と続ける。
二郎が話したくてしょうがない様子で、「拙者たちがまだ餓鬼のころ、川を挟んだ印地打ちで毎日のように戦ってたんです!」と懐かしそうに言う。
恵の戦国オタク脳がビビッと反応。「印地打ち?! 子供たちが川を挟んで石を投げ合って戦争ゴッコする石合戦! 徳川家康も竹千代時代に石合戦の勝敗を当てたって逸話があったわね」と盛り上がる。
二郎はキョトンとして「トクガワイエヤス?」と言って、視線を送られた青年武将も「やれやれ、また姫は」と言う感じで首を横に振る。恵は心の中で「あっ、そうか。まだ徳川家康じゃなくて松平元康か! そういえば、元康も今川方で参戦して大高城の救援役だったよね」と、天下統一後のたぬき親父のイメージを想像する。
一郎が「メグミ姫は色々おかしなことを知ってますな」と皮肉か本音か分からない口調で、話を思い出に戻す。
「我ら4兄弟がいっぺんに掛かっても、この方にはまるで敵いませんでした」と明るくなってきた霧を背にした青年武将を眩しそうに見つめる。
恵は目を丸くし、「へぇ、強いんだ、このイケメン! 伊達にヤンキー言葉じゃないね!」と背中をパシッと叩くと、青年武将が照れ笑いし、「コイツラも相当な腕利きなんすよ。特に三郎の印地打ちは、井伊谷、いや遠江随一っす。おい、見せてやれ! さっき枝拾ったとき、石も拾っただろ?」 と言う。
三郎が待ってましたとばかりに「へへ、お見通しで!」と右手を開いて平たい石を見せる。
三郎は馬に乗ったまま、左手で手綱を握り、馬体に隠れるほどグイッと右に体を倒す。右腕を後ろに引き、下から滑るように石を横投げする。
ヒュン!と石が霧の中に飛んでいき、「カンカンカン!」と地面を弾きながら跳ねる音が響き、やがて小さな音になって消える。
恵は「すごい、すごい! プロ野球の下手投げピッチャーみたい! 球速120キロは出てるんじゃない!?」と拍手する。
三郎が「ヘヘン!」と鼻を指でこすり、「この投擲術を『佐武真隣』と名付け、槍にも応用してます!」と胸を張る。
恵が「サブマリン? どういう意味?」と聞くと、三郎は青年武将をチラッと見て頬を赤らめ、口ごもる。二郎が代わって説明する。
「真の隣人を武で佐けるーって意味です」
恵は意味を察して青年武将を見やり、「へぇ、慕われてるねぇ」と茶化して、肘で脇腹をえいえいっと押す。青年武将は三郎以上に顔を真っ赤にして「お前ら、俺のことは良い! 今は姫を護ることに全力を尽くせ!」とムキになって命じる。
一郎が甲冑の胸をバンと叩き、「もちろんです! 今も昔も、俺たちは姫を護ります!」と言うと、二郎と三郎も「オゥ!」と答え、四郎は無言でコクリとうなずく。
恵は「今も昔も?」と首を傾げるが、三叉路に到着したことに気づく。
「あっ、ここが分かれ道だよ!」
霧が急速に薄れ、太陽の光が戦場を照らし出す。恵は「この道を行けば大高城まで一本道よ!」 と西の下り坂を指差す。
青年武将が「さすが姫の『鳥の目』、半端ねぇぜ!」と拳を握る。四郎を除く四つ子が「姫! 姫! 姫!」と声を揃えてたたえる。
5頭が西に向きを変えたその瞬間、周囲の霧がサーッと完全に晴れる。恵たちから50メートルも離れていない東の道に、黒尽くめの3騎が現れる。
中央の馬が興奮した様子で「ブフォン」と高くいななく。その音にはっと驚いた6人は一斉に振り返る。
恵は直感、いや確信する。
「織田信長だ! だって『信長の野心』のゲームのパッケージそのまんまじゃん!」
次回、信長vs恵の騎士のバトルが開幕!4月30日夜公開します!




