第11話 狩野永徳とオーパーツ火縄銃
義元陣営に転生してしまった恵は夢の中で、一年前の京都の美術館で見た狩野永徳の作品に魅力されて推しになったことを思い出していた。一方、義元本陣跡では、信長、木下藤吉郎、前田利家が、恵のリュックを囲む。その時、信長の親衛隊の黒甲冑を着た少年兵が現れる。彼の名は狩野永徳!
霧が立ち込める今川義元本陣跡。雷は鳴り止み、雨足は弱まってきたが、戦場の緊張は、白い霧の陰影をより深める。
ヨタヨタと近づく馬上の少年兵・狩野永徳を、藤吉郎が「永徳どの、大事ないですか?」と駆け寄って迎える。
信長と利家は並んで立ってそれを見ている。横目で主の顔を盗み見した利家は、腕を組み無表情な信長の顔に「嬉しそうな」微かな感情を読み取り、苦虫を潰したように顔を歪める。
利家は1年前、信長の芸能面のアドバイザーである同朋衆の拾阿弥を斬殺した「笄斬り」事件で織田家から追放されたが、それまでは赤母衣衆の筆頭として信長の側近の一人だった。
利家は信長に、六角隊との戦闘で見た永徳の情けない様子を伝える。
曰くーー馬上で「来るなー! 来るなー!」と叫び、届かない太刀をブンブン振り回す、印地打ちの戦闘ゴッコで泣きじゃくる餓鬼のようだったと。
利家は「あの絵師、戦場でただ叫んで太刀を振り回してただけでしたぜ。役立たずもいいとこだ」と信長の顔の変化を確かめるように言う。
しかし、信長は「で、あるか」とだけ発する。
永徳と藤吉郎がやってくる。永徳は馬を降り、ハァハァと息を切らし、信長の前にひざまずく。
今は足軽であるはずの利家がなぜか信長の横に立って永徳を見下ろし、「藤吉郎、こいつ、戦場で震えてた役立たずの餓鬼だぞ」と重ねてチクる。
永徳は利家の顔を見て「ひっ! 同朋衆殺しの前田利家!」と怯え、尻もちをつく。
藤吉郎は利家の腕を掴むと信長の横から引き離し、「永徳どのには重要な役目があるのだ」とたしなめる。
利家は鼻で笑い、「役目? 絵師のこいつが? まさか戦場を絵に描くとか?」と嘲る。
信長は利家の煽りを無視し、「永徳、ご苦労であった。持ってきたか?」と尋ねる。
永徳は慌てて馬に一度戻り、一抱えある漆塗りの箱を持ってきて開く。中には油紙に何重にも包まれた「火縄拳銃」が現れる。
藤吉郎が鼻高々に解説する。
「サルは針売りだったゆえ金物に詳しい! 信長様のために、片手で持てる2連の火縄銃を開発したのじゃ! 堺から取り寄せた何十丁もの火縄銃を潰して、できたのはこの一丁、世界でただ一つの秘密兵器じゃ!名付けて銘『王発次』」
永徳はホッとした様子で藤吉郎の口上を聞き、「はい、その通りです。信長様は雨の奇襲を想定し、緒戦では使わないけど、雨が止んだ後の掃討戦で使えるかもと僕に運ばせたのです」と補足する。
利家は「へぇ、ボクちゃんがそんな大役をねぇ?」と唇をひくつかせて嫌味を言う。
信長は「そういうことだ。永徳は又左よりずっと戦場で役立つ」と言い放つ。利家は「ぐぬぬ」と歯ぎしりする。
まぁまぁと藤吉郎が2人を取りなし、「ただ、永徳どのの馬の扱いが拙いのは想像以上ですな」と言う。
永徳はカーっと顔を赤くして、「甲冑を着て、重い漆の箱を乗せると、馬の扱いがこんなに難しくなるなんて…」とうつむく。
信長は「ちょうどいい。その箱はここに捨て置け。そしてこの入れ物に銃を入れろ。雨をいくらか防ぐらしい」と、永徳にユノロクのリュックを渡す。
永徳は目を丸くして、リュックを手に取ると、上から下から横からと見て、最後にユノロクのロゴを凝視して唸る。
「読めませんが、なんとも洗練された字です。一体、これは?」
藤吉郎が「南蛮のものかもしれぬ」と言うが、永徳は首を振る。
「いえ、南蛮人にはこれほど真だけを削ぎ落とした文字は書けません。弘法大師空海以来の筆法の延長にあります!」
信長は片眉を上げて「ほぅ、これが日ノ本で作られたと目立てるのか?」と問う。永徳は油紙を外し、2連発拳銃をリュックに入れながらうなずく。
「製造は中国かもしれませんが、書いたのは間違いなく日本人です」と言い切る。永徳は藤吉郎に教わる前にジッパーの仕組みを理解し、シュシュッと締めると、肩紐に腕を通しリュックを背負う。
信長は「ほぉ」と永徳の一連の動きに感嘆の声をあげる。一方、藤吉郎は「やはり、義元め、底が知れぬやつじゃ」と勘違いの警戒心を強める。
利家は「だ・か・ら、早く『白き妖女』を追いかけましょうよ!」と急かす。永徳が「白き幼女?」と聞き間違え、首を傾げる。
信長は「そうだな。白き妖女はなんとしてもこの目で見んといかん。3人とも行くぞ」と命令を発する。
利家が「あの、俺の馬は?」と訴えると、信長は「永徳と又左は2人乗りだ。又左は馬の扱いに長けてる。馬を運転するためだけの手じゃ。安全に永徳を運べ」と冷たく言う。
利家は永徳をこれまで以上に睨みつけながら、怯える永徳の正面にツカツカと歩み、立ちはだかる。
腕が永徳に伸びると「ひぃ」と言って永徳は目をつぶる。その瞬間、両脇に腕が差し込まれ、グイッと持ち上げられ、宙に浮く感覚になる。
「わっわっわっ?」と喚く永徳。
永徳がそっと目を開けると、鞍の後ろにチョンと横座りさせられている自分に気づく。
利家は鐙に足をかけ、ヒラリと鞍にまたがる。颯爽とした武者ぶりに、すでに馬上の信長も「ほぉ」と顎髭を撫で、「行くぞ」と言って馬の腹を蹴る。藤吉郎の馬が続く。
利家は「しっかり捕まってろ。信長様の大事な銃を落とすなよ」と言うと「ハイヤーッ!」と叫び、馬の腹を蹴って一気に加速する。永徳は「ひゃー!」と叫び、利家の腰にひしっと両腕を回す。
次回、恵の推しがまさかの敵に?!恵、早く起きろー!
28日夜公開




