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第97話 【ヤクザ潰し】ギルトッド捕縛

 アルフレッドは突進してくるギルトッドを注視する。


 (動きを見るに<素早さ>や〖剣術〗のレベルはそこまで高くない……カウンターで決める)

 「うらあーっ!」

 「そこだっ!」


 アルフレッドは斬りかかってくるギルトッドの動きを冷静に見極め、ここぞというタイミングで彼の顎に右フックを叩きこむ。


 「……ふんっ」

 「っ!」


 アルフレッドの拳が見事にクリーンヒットしたものの、ギルトッドは倒れることなくさらに剣を振るう。

 この一撃でギルトッドの意識を飛ばすつもりだったアルフレッドは、彼の予想以上のタフネスに驚きながらも素早く飛び退いて攻撃を避ける。


 「へっ、効かねえな、そんな拳はよ。腰に差してる剣は抜かねえのか?」

 「一応、殺すんじゃなく捕まえるってのがマッスルさんの指示だからな。素手の方がやりやすいんだよ」

 「人を殺す覚悟がねえだけだろが! 半端な気持ちでヤクザに喧嘩売ってんじゃねえっ!」


 ギルトッドはいきり立って一気に攻める。

 アルフレッドは次々に襲い掛かる剣撃を紙一重で躱しながら拳や蹴りを叩きこむ。


 「ふーん、さすがに組長はザコじゃないか。」

 「【アズル組】の組長ギルトッド・ギルマーはアルタの街では名の知れた武闘派ヤクザよ。強さは冒険者でいえばCランクの一歩手前ってところ。修羅場をくぐったっていうのも嘘やハッタリではないわ。うっふふふ~。その彼を相手に素手で戦えるなんて、アル君もすごいわね~」

 「あ、あの、お二人はアルフレッドさんに加勢しないんで?」


 アルフレッドとギルトッドの戦いを眺めながら感想を言い合うリリヴィアとマッスルさん。

 既に子分達は全員倒しており、この場で戦っているのはアルフレッドとギルトッドのみ。

 リリヴィアとマッスルさんはアルフレッドに加勢する様子もなく、ただアンリ達の側に立って眺めている。

 そんな2人に対して遠慮がちに問いかけるグスロー。


 「必要ないでしょ」

 「しばらく様子見よ~」

 「あ、はい……」


 しかし2人とも加勢は不要と判断しているらしい。

 元よりどうこう言える立場ではないグスローはその回答を聞くとあっさり引き下がる。


 「それより組長の強さが気になってきたわね。〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :ギルトッド・ギルマー

<種族> :人間

<ジョブ>:重戦士Lv30/55

<状態> :通常

<HP> :139/158

<MP> : 42/50

<攻撃力>:100+48

<防御力>: 70+25

<魔法力>: 41+10

<素早さ>: 51


<装備> :雷の中級魔剣、魔法の衣服、癒しの腕輪、障壁のお守り

 ・

 ・

 ・

<称号>   :〖恐闘士〗


---------------------------------------------------------------------------------


 「ふむふむ。殴り合いに強い典型的なパワータイプか。 ……っていうか装備が良いわね」

 「ほほほ。彼、お金持ちなのよねぇ……稼いだお金で装備も充実。素の実力もあるから生け捕りは大変よ~。アル君は果たしてできるかしら?」


 2人ともすっかり観戦モードである。


 一方アルフレッドの方はというと———


 (思ったよりずっとタフだ! 殴るだけじゃ倒せそうにないな……戦い方を変えるか)


 ———作戦の変更を迫られていた。


 彼は今のところ相手の攻撃を避けつつ素手で攻撃して相手を戦闘不能に追い込もうとしているのだが、ギルトッドは思った以上に頑丈で何発殴っても一向に弱る様子が無い。


 「ふんっ!」

 「……」

 「腑抜けが! 剣も抜かずに逃げ回るだけか? ああ!」


 ギルトッドの攻撃を無言で避けながら、アルフレッドは考える。

 耳にはギルトッドの発する挑発が聞こえているが、それについては一切無視だ。


 (もしもリリやマッスルさんが参戦してくれたらすぐ終わるんだろうけど……全然動く気ないな2人とも……まあそれなら俺1人で倒すだけだからいいけど。)


 アルフレッドは握っていた拳を開いて腰を落とす。


 (剣で手足を斬りつけてもいいんだろうけど、この人の言動を見るとそれを誘ってる気がするんだよな。そう見せかけるためのハッタリかもしれないが。だから敢えて素手で行く!)


 アルフレッドは自身に目掛けて振るわれる剣を紙一重で躱し、すかさずギルトッドの腕を掴んで素早く飛びつき腕十字を決める。


 (まずは剣を持ってる右腕を折る!)


 そのまま一気に腕を折ろうとするアルフレッドだが———


 「魔剣能力発動! ……っ!」

 「ぎえっ!?」

 「あ、上手い! アルが組み付いた瞬間に電撃決めたわ! 自分も喰らってるけど」

 「打たれ強さは組長さんの方が上。加えて彼が着ている【魔法の衣服】は装備者に耐性を付与する効果があるみたいね~。ダメージはアル君の方が大きいわ~」


 ———そこをリリヴィアとマッスルさんの言う通り、魔剣の電撃を浴びてしまった。

 アルフレッドと体が密着しているギルトッドも同時に電撃を受けたが、さほど大きなダメージはない。


 「おらあ!」

 「ぐっ!?」


 電撃が終わった瞬間、ギルトッドはアルフレッドを左手で殴る。

 アルフレッドは自分から後ろに転がって避けようとするが、避け切れずに鼻血を流しながら立ち上がる。


 「ちっ、右腕の関節痛めちまったか。だが生憎俺にはこんなもんもあるんだよ」

 「その腕輪、回復効果があるのかよ」

 「おう。【癒しの腕輪】っつーんだがな、傷が治るだけじゃなく毒や麻痺なんかも治せる優れもんだ。腕治すついでに体力も全快だぜ」


 ギルトッドはこれ見よがしに右腕に嵌めている、青い光を放つ腕輪をアルフレッドに見せつける。

 腕だけでなくアルフレッドに殴られてできた顔の怪我も治っている。

 本人が言っている通り全快したらしい。


 「死ねっ!」

 「死ぬかよ!」


 ガンッ!


 そうして繰り出されるギルトッドの剣撃を避けながら、反撃の蹴りを放つアルフレッド。

 しかしその蹴りは突如現れた障壁に遮られた。


 障壁はギルトッドが持っている【障壁のお守り】の効果だ。

 これは魔力を注ぐと一定強度の障壁が展開されて装備者を守る防具なのだ。


 「いままで何回も殴ってくれたからなぁ。タイミングが掴めちまったよ! 魔剣能力発動!」

 「……っ!?」


 これまでの攻防で使われていなかったため、不意を突かれたアルフレッド。

 そこにすかさず電撃を纏ったギルトッドの剣が横薙ぎに振るわれる。


 アルフレッドは咄嗟に飛び退くが、剣の切っ先が彼の鎧をかすめて再び感電してしまう。


 (まずい……どうする?)


 さらに距離を取って立て直しを図るアルフレッド。


 「まったく、なに手こずってるのよ。迷いなんて捨てて、一気にやっちゃえば倒せない相手じゃないでしょ!」

 (…………迷いを捨てる、か。修行中にエリック師匠から何度も言われたな。戦う時は今の状況に集中。勝った後、負けた後のことは考えない。気を緩めない、相手を見くびらない。そしてなにより恐怖や不安あるいは怒りといった感情に呑まれないこと)


 正直言って「勝手な文句言ってないでお前も戦えよ」という言葉が思わず喉から出かけたが、アルフレッドは敢えて素直に受け入れることにする。


 戦いにおいて最も重要なことは集中することだ。

 余計なことは考えない。

 今回の場合はギルトッドとの戦いのみに集中すること。

 リリヴィアやマッスルさんが手を貸さないことへの不満など、今は考える必要のないことなのだ。


 戦いの間は「目前の敵とどう戦うか」ということだけを考えろと、アルフレッドは師匠のエリックからそう教えられている。

 「気合と根性の精神」を掲げるエリックはその信条ゆえに、鍛錬においては精神面をもっとも重要視しているのだ。


 「いま倒すから、そこで見てろ」

 「ふふん」


 アルフレッドはギルトッドを見据えたまま、リリヴィアに返事を返す。

 リリヴィアはそれを聞いて満足げに頷く。


 「この期に及んでも武器は抜かねえか。『相手を殺してでも生き延びる』、その覚悟を決められないチキン野郎はいくら強くても、何もできはしねえぜ」

 「別に相手を殺すことだけが覚悟じゃないだろ。ここまで来たら意地でも殺さずに捕まえてやるさ」


 ギルトッドの言葉にアルフレッドは迷いなく反論する。

 アルフレッドは決してギルトッドのことを見くびってはいない。

 ここまでの戦いで、ギルトッドを生け捕りにすることが容易でないことは良く分かった。


 しかし彼はそれを踏まえたうえで、あえて生け捕りに拘ることにした。

 それにはもちろん人殺しをしたくないという思いもあるのだが、それだけではない。


 (俺の目標はいつかもう一度リリに勝つこと。だったらこの戦いも一つの試練と思うことにする。この敵を殺すことなく捕らえるのが今回の勝利条件だ!)


 彼には昔からずっと胸の奥底で燻ぶっていて、つい数日前に敗北したことで再び火が付いた目標がある。

 そのためには強くならねばならない。

 この戦いでも一切妥協することなく最善の結果を出すことを試練として己に課したのだ。


 「はっ、バカなガキだぜ! 俺が現実ってもんを教えてやるよ」


 そんなアルフレッドの心境を知ってか知らでか、ギルトッドは猛然と突撃する。


 「風魔法〖ワールウィンド〗」

 「こんなもん避けるまでもねえ!」


 アルフレッドは突撃してくるギルトッドに対して〖ワールウィンド〗で人間大の竜巻を作ってぶつける。

 ギルトッドは竜巻を避けずに敢えて正面突破する。

 中途半端に避けて隙を晒すことを嫌ったのだ。


 また彼が身に着けている【魔法の衣服】は装備者に〖魔法耐性〗を付与する防具だ。

 加えて自身の打たれ強さもあって、彼は多少の魔法攻撃を無視して強引に攻めることができるのだ。


 「いまだっ! 〖瞬動〗!」

 「ちっ……」


 しかしその動きはアルフレッドの予想の内である。

 竜巻で視界が悪くなった瞬間にアルフレッドはギルトッドの背後に回り、腕を相手の首に回してバックチョークを決める。


 (エリック師匠から習った絞め技! 対人戦闘で相手を捕らえるときのために習ったけど、間違って相手を殺しそうな気がして今まで使わなかった。だけどもう迷わん! 殺すことなく意識を奪う)

 「……ま、魔剣、能力発動……!」

 「光魔法〖ヒール〗! ……ぐうっ……」


 しかしギルトッドも歴戦の猛者である。

 彼は自分に組み付いたアルフレッドの腕に剣を押し当て、魔剣の電撃で反撃する。

 アルフレッドは電撃を受ける瞬間、回復魔法を唱えてその後ひたすら耐える。


 「……っ!」

 「……この……」


 電撃はアルフレッドの体を容赦なく襲う。

 しかしアルフレッドはギルトッドの首を締め上げたまま両腕を決して緩めない。

 一方でギルトッドもアルフレッドの絞め技と自分の魔剣が放つ電撃にひたすら耐える。


 一般的に絞め技が決まったら普通の人間は10秒くらいで意識を失うものなのだが、ギルトッドはその3倍くらいの時間を耐えた。

 アルフレッドもその間電撃に耐え続けた。


 我慢比べの様相を呈した戦いを制したのは———


 「……俺の、勝ちだ……」


 ———アルフレッドだった。


 物語世界の小ネタ:


 ほとんどの魔剣は魔力を込めることで能力を発動します。

 そのため発動する能力の威力は装備者の<魔法力>に比例します。


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