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第95話 【ヤクザ潰し】捜索の行方

——教会の前にて————————————————————————


 「ああ、皆さんどうでしたでしょうか?」

 「リリアンさん、警備責任者のロックさんに当たってみたんですが、特に迷子の話は聞いてないそうです。一応、警備のメンバーの方でも捜してもらえることになったんですが……」

 「こっちも成果なしよ。広場や周りの道を回ったり出店を覗いたりして見たけど、どこにもいないわ。一応全部の出店を回ったと思うのだけど」

 「私もリリちゃんと同じで成果なし。一応知り合いを何人か見つけたから協力を頼んだけれど、これといった情報はないわね」


 時刻は4時半ごろ。

 教会の前の道端でリリアン、アルフレッド、リリヴィア、マッスルさんの4人が集まって行方不明になっているアンリについて情報の共有を行っていた。


 「そう、ですか……」


 リリアンはがっくりと肩を落とす。


 「そう気を落とさないでよリリアンさん。まだ見つからないと決まったわけじゃないでしょう」

 「そうですよ。それにこの辺は街中。危険な野山と違って魔物なんかいないんですから」


 リリヴィアとアルフレッドがそういってリリアンを慰める。


 「でも、おかしいわねぇ。祭りの会場はそこまで広くないし、この人数で捜して見つからないなんて……会場の外に出たのかしら?」


 なぜかボディビルの「ダブルバイセップス」のポージングを決めて考え込むマッスルさん。

 なんでもポージングを決めると頭の回転が速くなるらしい。


 「うーん……リリアンさん。アンリが会場の外に出ることってあると思う?」

 「いえ、アンリは出店を回るとはっきり言っていましたし、特に他の場所に用事もないはず……何の理由もなしにリリさんの言うようなことはないかと」

 「言い換えると、何か理由が出来たりしたら会場の外に出ることもあり得ると」

 「もしくは、何か身の危険が迫って逃げないといけなかったり、あるいは隠れないといけない場合とかかしらねぇ……」

 「そ、そんな!?」


 マッスルさんの言葉を聞いてリリアンは動揺する。


 アンリが見つからない理由を考えると「やっぱり事件に巻き込まれたのでは」という発想に行き着く。


 そもそも【シイメ桜祭り】の会場はご神木やステージのある広場を中心に、その周囲の通りを含めた街のごく一部分のみ。

 ただの迷子ならば数人で手分けして捜せば難なく見つかるはずなのである。


 それなのに見つからないということは、そういうことなのだ。


 「うーん……いったんマッスルさんの言うような状況を仮定して考えてみましょう。いまのところはただの想像ですが、何の手掛かりもなしにやみくもに捜して見つかるとも思えませんし」


 ここにいたって事件の可能性を本格的に考えるアルフレッド達。


 「街中であの子を狙う敵がいるとしたら……」

 「まず身代金目的の誘拐犯かしら?」

 「無差別の通り魔……だったらさすがに騒ぎになってるから違うか」


 リリヴィアの言葉に続いてマッスルさんとアルフレッドが真っ先にありそうな可能性を挙げてみる。


 「教会の土地を狙っている【アズル組】なんかはどうかしら?」


 リリヴィアが踏み込んだことを聞いてみる。


 「あら? ここってそんなに大変な状況なの?」

 「え、ええ。まあ……でも借金返済の期日まではまだ日があるのに、そんなことをしでかすとは」


 教会の状況について初耳のマッスルさんがリリアンに聞いて、聞かれたリリアンは言いにくそうに返す。


 「ま、ヤクザに襲われたっていうのはちょっと発想が飛躍し過ぎてますね。それはあくまで可能性の1つってことにして、この周辺で隠れられるところとか、人目につかない路地裏なんかを捜してみるのはどうでしょう?」

 「そうねぇ。あれこれ言っていても埒が明かないし、まず可能性を1つずつ当たってみるとしましょう。」


 何かは分からないもののアンリがトラブルに巻き込まれたのは間違いない。

 アルフレッドの言葉にマッスルさんが賛同。

 リリヴィアとリリアンもそれを了承して再び4人は捜索を再開した。


——とある空き家にて——————————————————————


 「ど、どうにか逃げ切ったか……」

 「でもどうする? 組の奴らがみんな俺らを捜しているぞ」


 その頃、グスロー、ツァコフ、アンリの3人は倉庫から少し離れた空き家に隠れていた。


 取引を終えて帰っていったはずの【アズル組】の1人が戻ってきて、運悪くグスロー達と鉢合わせした際、グスロー達はなんとか誤魔化そうとしたのだが失敗。


 組長のギルトッドにも報告され、彼らは大勢の組員達に追い掛け回される羽目になってしまった。

 そしてやっとのことで追っ手を撒いて空き家に逃げ込んだのだ。


 「どうするって、どうしよう……見つかったら間違いなく殺されるし、この街から逃げるしかないけど、どこにも行く当てないぞ俺達……」

 「今の状況で旅の準備なんて無理だしな。仮に逃げても野垂れ死にか……」


 恐ろしいヤクザ達に捕まってなぶり殺しになるか、それとも当てのない旅の中で野垂れ死ぬか。

 自分達が辿るであろう末路を想像して項垂れるグスローとツァコフ。


 「なに勝手に諦めてるのよ! まだ終わってないわ! シャキッとしなさい」


 そんな中でもアンリだけは意気軒高としている。


 「終わってないって言ってもだな、ここからどうするって言うんだよ」

 「とりあえず、最低でもお前だけは教会に送り届けないとだな。俺らは顔も名前も知られてるからダメだけど、お前1人だけなら誤魔化せるかも……痛っ!? なにすんだよ」


 完全に諦めムードの2人にアンリのキックがさく裂。


 「そういう所がクソザコなのよ! いい? 【アズル組】をやっつけるの! ここでヤクザ達をみんなやっつけちゃえば全部解決でしょ!」

 「簡単に言うけどなアンリ、組員全部で何十人いると思ってんだよ!? 下っ端の半分は俺らと同じで無理やり言うこと聞かされているだけだけど、幹部連中は凶悪な奴らばっかりなんだぞ!」

 「グスローの言う通りだよ。俺達武術の心得なんかねえし、たった2人じゃどうしようも……」


 【アズル組】の打倒を掲げて大人2人を鼓舞するアンリ。

 だが精神論だけでなんとかなるほど甘い状況ではない。

 グスローもツァコフも暗い表情のままである。


 「もう! 2人じゃないでしょうが!」

 「アンリを入れても何も変わらんだろうが」

 「ふっ。あたしだけでもないわよグスロー。仲間は今ここにいる人以外にもいるでしょ」

 「あ! リリヴィアさん達のことか!」


 アンリの言葉でまだ希望があることに気付いたツァコフ。

 リリヴィア達であれば組のヤクザ達を返り討ちにすることもできるだろう。

 問題はどうやって彼女達にこの状況を知らせるかであるが、彼らはそのための道具を持っていた。


 「そうよツァコフ。あんた達危なくなった時のためにアイテム持たされていたでしょ? それ使っちゃいなさいよ」

 「よーし! ……ちょっと待て、確かコレ使うと大きな音が鳴っちまうんだよな。その音で組の奴らに見つかっちゃう可能性は……」


 希望に満ちた顔でそのアイテム、【防犯ブザー】を手に持って紐を引っ張ろうとしたところで、ツァコフは1つの懸念に思い当たった。


 【防犯ブザー】は紐を引っ張って起動するわけだが、起動するとリリヴィア達に救援信号が届くと同時にとっても大きな音が出る。


 もしここで紐を引っ張ってその音を出した場合、リリヴィア達が駆けつけるより先に【アズル組】のヤクザ達がその音を聞きつけてやってくる可能性が無きにしも非ず。


 「ちょっと、外の様子見てみようか」


 グスローの提案で、アイテム起動の前に空き家の窓から外の様子を覗いてみることにした3人。

 それぞれが見つからないように注意しながらコッソリ覗いてみると……


——空き家の前の道端にて————————————————————


 「おう、てめえら! 奴らがこの辺りにいるのは間違いねえだろうな」

 「は、はい。姿は見失っちまいましたが、周辺の道はもう固めてありますし、この区画から外には出てないハズです」


 空き家の前の道では【アズル組】の組長、ギルトッドが手下達に向かってドスの効いた声を張り上げていた。


 「ふん! 次に奴らを逃がしたら容赦しねえぞ! 死ぬ気で捕まえろよてめえら」

 「「「へ、へい!」」」


 親分の言葉に子分達は蒼褪める。

 彼らは大事な取引の際、忍び込んでいたグスロー達に気付けず、後になって発見した時にも逃げられてしまった。


 親分の目の前で重ねて失態を演じてしまっており、これ以上失敗が続けばどんな制裁が下されるか分かったものではない。

 それこそ本当に殺される可能性すらあり得るのだ。


 必ずグスロー達を捕まえ、可能な限り親分からの信用を取り戻さなければならない。

 子分達は道を見張る班、区画内の建物を順に調べる班、組長の近くで待機する班と3つの班に分かれ、必死の形相でグスロー達を捜している。


 「それにしてもグスロー達はなんで急に裏切るような真似を?」


 手下の1人が疑問を口にする。

 彼らの多くはグスロー達がなぜ取引現場に忍び込んでいたのか、その理由を知らなかった。


 グスロー達は【アズル組】が地上げをしようとしている教会を救うためにいろいろと嗅ぎまわっていた。

 しかし彼らが教会の孤児院出身だということを知っているのは土建屋だったころの【アズル組】にいた、元々は一般人だった者達のみ。


 ギルトッドを含めて【ワールム商会】が【アズル組】を乗っ取って以降にやってきた者達に対してグスロー達はわざわざ教えてなどいないし、ただの下っ端に過ぎない彼らのことを調べようという者もいなかった。


 グスロー達に教会の地上げをやらせていたことも、そこが彼らの古巣だと知らずにやらせたことだったりする。

 そんなわけでギルトッド達からすると突然裏切られたという感覚なのだ。


 「その辺は、本人達を捕まえてきっちり吐かせなきゃな。バックに何か付いているのか、誰の命令で動いてんのか……それと組を裏切った奴がどうなるのかってのもしっかり思い知らせる必要があるな。くくく、楽には死なせねえぞー」


 裏切りの理由は分からないが、しかし裏切ったことは間違いない。

 裏切り者にはしかるべき制裁を。

 ギルトッドは残酷な笑みを浮かべつつ、捕まえた後の彼らの処遇を考えていた。


——再び空き家にて———————————————————————


 グスロー達3人は窓からそっと離れた。


 「おおーい! なんでよりによって、この家の前に組長がいるんだよぉーーー!」

 「絶対鳴らせねえよ! こんな状況で大きな音なんか出したら一発アウトだよ!」


 グスローとツァコフは窓から十分距離を取って、あくまで家の外に聞こえない程度の声量で悲鳴を上げる。


 「まさかこの家のすぐ側にいたなんて……」


 アンリも困った表情で俯く。


 「でも……」

 「え?」

 「ちょっと、【防犯ブザー】をどうすんだよ?」


 しかし一拍置いてアンリはゆっくり顔を上げる。

 手にはいつの間にかグスローが持っていたはずの【防犯ブザー】が握られている。


 「あたしの勘が言っている! いまこそ勝負の時だと!」


 ビーーーーッ! ビーーーーッ! ビーーーーッ!


 アンリは【防犯ブザー】の紐を思いっきり引っ張った。

 その瞬間けたたましい音が鳴り響く。


 「「なにすんのーっ!」」


 グスローとツァコフの悲鳴も響き渡る。

 外では突然鳴り出した音を聞きつけたヤクザ達がこの家を睨みつけている。


 「組長が言っていたでしょ! 私達を捕まえたらいろいろ吐かせるって! つまりいきなり殺されることはないってことよ。殺される前に助けてもらえばいいだけの話!」

 「そうだけど! 助けが来る保証なんてないだろ!?」

 「もっと奴らに気付かれずに助けを求める方法考えよう!? そんな危ない賭けに出る前に!」


 リリヴィア達の救援が間に合うと信じて仁王立ちするアンリ。

 そのアンリから慌てて【防犯ブザー】を取り上げ、喚き散らすグスロー達。


 「いたぞ! 捕まえろー!」

 「「「うおーーー!」」」


 そこにヤクザ達が乱入して発見したグスロー達に襲い掛かる。


 「「ぎゃーーーっ!?」」

 「頼んだわよ。リリねーちゃん」


 そして悲鳴を上げるグスローとツァコフ、覚悟を決めたアンリをあっという間に取り押さえて家の外に出て行った。


——空き家の前の道端にて————————————————————


 「おう、随分近くに隠れてたんだな。なんだ? おちょくってんのかぁ?」


 引き出されてきたグスロー達にギルトッドが話しかける。

 顔はにこやかなのだが、目は全然笑っていない。


 「いや、俺達もできたらもっと遠くにいたかったんですけど……へぶっ!?」


 顔を引きつらせながら答えるグスローの顔を殴りつけ、胸倉をつかむギルトッド。


 「とりあえず、組の事務所に行こうか。てめえらには喋ってもらわなきゃいけねえことがいーっぱいあるからなあ……せいぜい、今のうちに覚悟決めとくこった」

 「「終わった……ぐすん……」」

 「……」


 非情な宣告に絶望して涙目になるグスローとツァコフ。

 しかしそんな中でもアンリだけは希望を捨てておらず、ひたすら祭りの会場の方を見つめている。


 「連れていけ!」

 「「「へい!」」」


 そうしてギルトッド達が組の事務所に向かおうとしたとき———


 「見つけたぁ! っていうか、やっぱり犯人は【アズル組】じゃない! よし、全員覚悟しなさい」


 ———リリヴィアがそこに駆け付けたのだった。


 物語世界の小ネタ:


 グスロー達が隠れていた空き家は、実は祭りの会場からそんなに離れていない場所だったりします。


 アンリはリリヴィアとアルフレッドが祭りの警備をしていることを知っていたので、自分の危機を知らせることさえできれば、すぐに駆け付けてくれると踏んでいました。


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