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第91話 【ヤクザ潰し】対策会議

 「ぶっ潰すって簡単に言うけど、具体的にはどうするんだよ? 単純に相手を殴ってどうにかなる問題でもないだろ?」


 【ワールム商会】をぶっ潰すと言ったリリヴィアをその場にいる皆が注目する。

 そして皆の心の声を代弁するかのようにアルフレッドが問いかけた。


 アルフレッドは【ワールム商会】を潰すのはかなり難しいと見ている。

 話を聞く限りかなり大きな商会だ。

 相応の組織力と資金力があるとみなければならず、これを壊滅させるのは簡単にはいかないだろう。


 そして借金問題も厄介だ。

 詐欺師に騙されたとはいえ、だからと言って支払いを拒めるかというと微妙だ。

 少なくともその詐欺師を捕まえて、騙したことやその背景について洗いざらい白状させるくらいのことは必要だろう。

 しかし期限が迫っている中で、果たして捕まえられるかどうか……


 さらに悪いことにアルフレッドもリリヴィアも昨日初めてアルタにやってきたばかり。

 この街のことをほとんど何も知らない状態である。


 この場にいる者達は頼んだなら協力してくれるかもしれないが、だとしてもよほど上手く立ち回るか幸運に恵まれるかしないとどうにもならないだろう。

 考えなしに暴れて解決する問題ではない。


 「そうでもないわよ。あくまでいくつかある方法のうちの1つでしかないけど、皆殺しって方法もあるわ」

 「「「え!?」」」


 ……暴力で解決する問題ではないはずなのだが、リリヴィアからは超暴力的な提案が出てきた。

 皆、彼女の言っていることが理解できずにキョトンとなる。


 「痛めつけるなんて中途半端なことせずに息の根を止めてしまえば何もできなくなるでしょ? 【ワールム商会】とその傘下の【アズル組】の人間を皆殺しにしてしまえば取り立てる人はいなくなるから解決よ」

 「全然、解決じゃねぇーーーっ! むしろさらなる大事件が勃発してるじゃねえか!」

 「ダメよ! 人の命というのは尊いものなの! 殺そうなんて思っちゃダメ!」

 「皆殺しって、物の例えじゃなくてほんとに? いやさすがにダメっすよ! あんたも捕まっちゃうから!」

 「あの、【ワールム商会】にも一般人はいますから! 全員悪人ってわけじゃなくて普通に従業員として雇われて働いているだけの人もいますから!」

 「さすがに皆殺しはマズいと思うよお姉ちゃん……」


 これぞ名案、という感じに皆殺しを提案するリリヴィア。

 彼女はイベントクリア、もとい目的を達成するためなら手段を選ばないのだ。


 一瞬遅れて理解が追いついたアルフレッド、リリアン、グスロー、ツァコフ、アンリが口々に止める。

 他の子供達も「この姉ちゃんヤベー……」という顔でドン引きしている。


 「落ち着きなさいよ、これはあくまでそういう方法もあるってだけのことよ……みんながそこまで言うなら、これは後回しにするわ。他の作戦が失敗した時の最終手段としましょう」


 しょうがないわね、という感じで慌てる周囲を宥めるリリヴィア。


 「俺としては最終手段からも外してほしいんだが……」

 「別の! もっと別の作戦にしましょ! 人殺しなんてしない方法があるはずだから!」

 「もしも他の作戦とやらが失敗したら、大量殺人事件が起こるわけか……」

 「いやいや、せめて法律は守りましょうよ」


 しかしその周囲のアルフレッド達はものすごく不安な様子。

 下手をすると地上げ騒動なんて比較にならない大事件が起きるのだからみんな必死だ。


 「とにかく! 話を進めるわよ! 他の方法として、最初に考え付くのはリリアンさんを騙した詐欺師を捕まえること。リリアンさんはあくまでも保証人よね? それなら詐欺師を捕まえれば借金の請求は詐欺師の方に行ったりしないかしら?」


 リリヴィアは強引に話を進めて、新たな解決策を検討する。


 「詐欺師を捕まえるのは順当な方法だと思います。ですが、捕まえただけではちょっと足りねえです」


 リリヴィアの案に対してグスローが答える。


 「借金の保証人ってのは、借金した奴が逃げた時だけじゃなく、支払えない時にも肩代わりしないといけないんです。なので身柄だけ捕まえても奴が払えねえって言い張ったら、結局シスターが借金を払わされるんです」

 「なるほど」

 「それとそれ以前にもう1つ問題がありまして、その詐欺師は既にこの街から離れて姿を晦ましていてですね、居場所が分からねえんです」


 事態を打開するために詐欺師を捕らえようとするのは【ワールム商会】も予測済だったらしい。

 詐欺師は既に雲隠れしており、それを期日までに見つけて捕らえるのは現実的ではないとのことだ。


 「やっぱり捕まらないように潜伏しているわけか。あ、でもグスローさん達はそいつが街から離れたっていう動きは知っているんですね」

 「ええ。実をいえば、サッギシーノって奴は【アズル組】の幹部なんです。本名は俺らも知らねえんですが、奴も【ワールム商会】が【アズル組】を乗っ取ったときに送られてきた奴でして。奴はシスターを騙した後、組の親分にそのことを報告してまして、それを俺達も聞いてたわけです」


 ふっと思ったアルフレッドの疑問にもグスローは答える。


 【アズル組】は言うなれば【ワールム商会】の実働部隊なのだ。

 後ろ暗い仕事は【アズル組】にやらせる。

 ゆえにそのための人員も【ワールム商会】ではなく【アズル組】に所属させている。


 グスロー達は下っ端といえどもその【アズル組】に所属しているため、【ワールム商会】のそうした動きは伝わりやすいのだ。


 「ふむふむ。ちなみに【アズル組】は【ワールム商会】の汚れ仕事を請け負うって言ってたけど、悪事は全部【アズル組】にやらせているのかしら?」

 「うーん……基本的にはそうだと思いますよ。そもそも【ワールム商会】が【アズル組】を乗っ取ったのは、自分達が行う犯罪を押し付けるためですから」

 「奴らは金儲けのためにいろいろ悪いことを企んでいるわけですが、自分達の手を汚しちまうとそれがバレた時に捕まっちまう。自分達が捕まらないために別組織を用意して犯罪の実行役にしているわけです。そうしておけば、いざというとき『自分達は関係ない』って言って【アズル組】だけを切り捨てられますからね」


 続くリリヴィアの質問にグスローとツァコフが答える。


 「さんざん好き勝手やっといて、自分達だけは安全なところにいるわけか。でもそれ、関係ないって言って本当に通用するんですか? もし捕まった奴が『【ワールム商会】に命令されました』って言えば……」

 「それについては……【ワールム商会】は自分たちの言い分を通用させるために役人に賄賂を贈って、ところどころ丸め込んでいるみたいで。これは半年前のことなんですが、あの商会が役人や衛兵のお偉いさんに賄賂を贈っていたことをギルドから告発されるっていう事件が起きてます」

 「へぇー、でもそれで摘発されたのなら、今は誤魔化せないんじゃないの?」

 「そうだと良いんですがね……賄賂の件は、秘書が商会に内緒で勝手にやっていたってことになって、肝心の会頭や他の商会幹部達は追及を逃れちまっていまして。そのことを思うと『今なら賄賂が出回っていない』と言えるのかは微妙なところです」


 【ワールム商会】は賄賂を告発された件についてはトカゲの尻尾切りで乗り切ったらしい。

 一部の人間が捕まったのは間違いないのだが、元凶である【ワールム商会】の会頭は無事なのだ。

 であれば賄賂を受け取って犯罪を見逃していた者達の中にも、逮捕を免れた者がいる可能性は否定できない。


 「仮にいまも役人への賄賂が生きているなら、その商会の悪事を告発しても握りつぶされる可能性があるわけね。やっぱり正攻法で摘発するより全員亡き者にする方が簡単ね……」

 「待って! 他に方法があるはずだから!」

 「それに握りつぶされるとは限らないから! 賄賂の件で摘発されたことがダメージになってることは間違いないから!」

 「リリ、殺しは無しの方向で考えよう。俺は犯罪の片棒担ぐなんて嫌だから」


 再び大量殺人に傾きかけたリリヴィアをリリアン、ガスロー、アルフレッドが引き止める。


 「あ、そうだ。突破口になるかは分からねえですが、ギルド長のラルクって人は【ワールム商会】と敵対してます。もしも事情を話すことが出来たら、ひょっとしたら味方になってもらえるかも」

 「そうなんですか? ツァコフさん」

 「ええ。さっき話した賄賂の件、告発したのギルド長なんですよ。そのせいでギルド長は【ワールム商会】会頭のドノバンから恨みを買ってまして。商会ではいまギルド長への仕返しを画策しています。こいつは地上げとは別件なんですが、商会を潰すっていうんならこっちから攻めてみるのもアリなんじゃないかと」

 「面白そうね。詳しく話して!」

 「えっと、俺もそこまで詳しくはないんですが———」


 リリヴィアに促されてツァコフは半年前に起きたという賄賂摘発とその後の動きを語り出す。


 要約すると以下の通り。


 ・半年前、【ワールム商会】が街の役人や衛兵に賄賂を贈っていたことでギルドから告発される。

 ・【ワールム商会】は秘書に罪を押し付けて責任逃れするも、悪評が広がって大打撃を受ける。

 ・会頭ドノバンをはじめ商会幹部達は逮捕を免れたものの、ギルド長のラルクを逆恨みする。

 ・現在、会頭ドノバンはラルクをギルド長の座から引きずり下ろすためにいろいろと画策中。


 「———ってな感じです」

 「ふむふむ。質問だけど、ギルド長の座から引きずり下ろすって言っても【ワールム商会】の会頭にギルド長を更迭することなんてできるのかしら?」


 説明を終えたツァコフにリリヴィアが質問する。

 ドノバンがラルクを逆恨みしていることは分かったが、ギルド長の座から引きずり下ろすというのは簡単なことではない。


 一般的に言えば一商会の会頭よりもギルド長の方がずっと偉いし立場も強いのだ。

 あるいはドノバンは例外でギルド長よりも強い権力を握っているのかもしれないと思っての質問だったが、それは杞憂だった。


 「もちろんそんな権限はありませんよ。【ワールム商会】は大きな商会ですが、ギルドの人事権があるわけじゃないですからね。ただ、まったく介入できないのかっていうとそうでもなくてですね、ギルド長が何か大失敗をしたらそれを叩いて責任追及で追い込めるわけです」

 「大失敗ってそんな都合良く起きるものじゃないと思うんですが」


 アルフレッドも質問する。


 「それが、北の街道のドラゴン討伐失敗で……」

 「あー、それで攻撃材料を与えちゃったわけか……」

 「そういうことです。もともと何かないかと嗅ぎまわっていたところに格好のネタが出てきて、これはいけると思って今は大急ぎでいろいろ企んでいる感じですね」

 「その件に関しては【アズル組】にも『次の討伐を妨害しろ』って命令が来てます。【ワールム商会】自体も街の有力者に根回ししたり、物資の買い占めで物価をつり上げておいて『討伐失敗のせいだ』とギルド長に責任をなすりつけようとしてるって話です」


 その質問にツァコフ、グスローの順で答える。


 「うわあ……ドラゴンを討伐できなかったら商会だって損害受けるだろうに」


 その答えを聞いたアルフレッドはうんざりした様子で感想を言う。


 エルトルギドラ出現で主要な街道の1つが封鎖される事態ともなれば商会にとってもかなり深刻な事態のはず。

 しかしそんな状況でも【ワールム商会】はギルド長への仕返しを優先しているらしい。


 「ふんふん。悪くないわね。ドラゴン討伐を成功させたうえで【ワールム商会】が妨害していたことを暴露すれば……うまくやればその商会を潰せるし教会の地上げの件もうやむやにできそうね」

 「まあ、そうだけれど……」

 「できるの? お姉ちゃん」


 心配そうに言うリリアン。

 その横でアンリがリリヴィアに問う。


 「任せなさい! グスロー、ツァコフ! 私の言う通りに動きなさい! いいわね?」


 そんな彼女たちに対してリリヴィアは自信満々で胸を張る。

 そして流れるように2人に指示を出そうとする。


 「えっ、でも俺達一応は【アズル組】……」

 「ちょっと本格的に逆らうのは覚悟がいるって言うか……」

 「へぇー……私に逆らうんだ? ちょっと殴り足りなかったみたいね。告げ口されると困るし、しょうがないからここで始末しようかしら」

 「「協力させていただきます! なんでも言ってください!」」


 クソザココンビは「組や商会に逆らうの怖いし、ちょっと遠慮できないかな」という顔だった。

 だが殺害を仄めかされた瞬間、ジャンピング土下座を決めて協力を申し出た。


 彼らは悟ったのだ。

 「一番恐ろしいのは今目の前にいるリリヴィアだ」と。


 「よしよし。まあいいでしょう。分かっていると思うけど、少しでも逆らったりしたら殺すから。よろしく」

 「リリ、お前どこのヤクザだよ……」


 そんなアルフレッドの呟きを無視してリリヴィアは2人に命令を出すのだった。


 物語世界の小ネタ:


 いろいろな組織が出てきたので以下に状況を整理してみました。

 簡潔に書くと下記のような感じになります。


 アルフレッド達:

  ・冒険者ランクを上げたい。

   → ドラゴン(エルトルギドラ)討伐。


  ・教会を地上げから救いたい。

   → 【ワールム商会】を潰そう。


 教会:

  ・土地を取り上げられそう。

   → なんとか土地を守りたい。


 【ワールム商会】(【アズル組】含む):

  ・教会の土地が欲しい。

   → 騙して地上げ。


  ・ギルド長のラルクに仕返ししたい。

   → いろいろ画策中。


 ギルド:

  ・深刻な人手不足。

  ・ドラゴン(エルトルギドラ)討伐が急務。

  ・【ワールム商会】から狙われている。


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