第79話 アルタ到着
拙作を読んでいただいてありがとうございます。
物語のストックの関係で、更新の頻度を週に1回に変更させていただきます。
次話更新は2025/3/31となります。
ご理解のほどよろしくお願いします。
——国境の街アルタへ続く街道にて————————————————
「ガアアアー!」
「よっ、と……よし、これで終わりだな」
灰色の体毛に覆われた狼の魔物が飛び掛かってきたのをアルフレッドが難なく斬り殺して返り討ちにする。
彼の足元には他にも2体、同種の魔物が死体になって転がっている。
魔物はグレーウルフというEランクモンスターだ。
街道を群れでうろついていたため、それに気付いたアルフレッドが討伐したのだった。
「お疲れ様。アル、3体のグレーウルフは全部私の〖ディメンション〗に収納するわね」
「ああ、頼むよリリ。それにしても随分魔物が多いよな……カノーラ村を出てまだ1時間くらいなのに、魔物との戦闘はこれで3度目だ。普通なら、街道は騎士団が定期的に巡回しているからそんなに頻繁に出くわすなんてないと思うんだが」
剣に着いた血を拭いて鞘に納めながら疑問を口にするアルフレッド。
彼が言う通り、彼らは何度も魔物に出くわしていた。
1度目はカノーラ村を出た後、アルタへと通じる街道に入った直後にゴブリン4体。
2度目はその10分後くらいに遭遇した蜥蜴のEランクモンスター、ファイアリザードが1体。
そして今回の狼のEランクモンスター、グレーウルフ3体である。
「たぶんだけど、今朝の戦いのせいじゃないかしら? たしかあのギオウとの戦いで近くにいた魔物が一斉に逃げていたのでしょ? その時に逃げた魔物達がいまこの辺りにいるのだとすれば、魔物がたくさんいるのも納得できるわ」
「ああ、なるほど。あの戦いのせいか……」
メノアが馬車の御者台の上から推測を言うと、アルフレッドも納得して頷いた。
今日の朝早く、キーツ山で起きたリリヴィアとギオウの戦いの影響で、近くにいたたくさんの魔物が逃げ出していた。
逃げた魔物はそこからいなくなっただけで、別に死んだわけではない。
逃げ出した魔物がその近隣に潜んでいるのは考えてみれば当然だった。
「これ、アルタに着いたらギルドに報告しないとだな」
「まあそのうち落ち着くでしょうし、そこまで深刻に考えることないわよ。それよりアル、新しく取得した〖気配精査〗のスキルはどんな感じかしら?」
グレーウルフを収納したリリヴィアが馬車に戻りながらアルフレッドに質問する。
アルフレッドは馬車での道中、新しく手に入れたスキルを旅の邪魔にならない程度に使って検証していたのだ。
「そうだな、なんと言うか……〖気配察知〗で拾った内容をさらに深く探って、より詳しい情報を引き出す感じ、かな。有効範囲は〖気配察知〗とそんなに変わらないみたいなんだが、対象の種族やら状態やらが気配と一緒に伝わってくるんだ」
アルフレッドもリリヴィアに続いて馬車に乗りながら質問に答える。
「ふんふん。ちなみにここからじゃ見えないけど、そこの林の奥にも魔物の群れがいるのは〖気配察知〗で分かるわね? これを〖気配精査〗で探ったらどう感じるの?」
「まず、種族はコボルトが7体とコボルト・リーダーが1体。周辺を警戒しつつ木の実やらキノコやらを食べてる。特に怪我をしたり状態異常にかかったりしている奴はいない。あと、先を尖らせた木の棒とか石斧なんかを持っている。とまあこんな感じだ。ちなみにだが、〖気配精査〗に魔力を乗せて発動すると、<MP>を消費する代わりにより詳しい情報を感じ取れるみたい」
「ふむふむ。それじゃちょっと確認してくるわ」
リリヴィアは乗ったばかりの馬車から飛び降りて林の奥に駆けていった。
そしてほんの数秒で戻ってくる。
「アルの言った通りだったわ。持ってる武器まで見事に正解。……この〖気配精査〗、探索や特定の魔物を狙った狩りなんかに使えるわね。……なんでアルに取得出来て私に取得できないのかしら……<ジョブ>? それとも他にトリガーがあるのかしら……メノアさん、この手の話って何か聞いたことある?」
進み始めた馬車に乗って考察を始めるリリヴィア。
強くなることに貪欲な彼女にとって、こういったことは自分の強化につながる重要な手掛かりなのだ。
なので彼女は簡単に流したりはせず、まずは情報を集める。
「たぶんだけど、<ジョブ>の関係なんじゃないかしら? それによって取得できるスキルに差があるっていう話はよく聞くし……例えば、私の<ジョブ>は【交易商】なのだけど、商人系統の<ジョブ>には品物の値段を判断する〖値踏み〗のように商売に関わるスキルがある代わりに、戦闘系のスキルが限られていたりするのよ」
カノーラ村での戦いの際、アルフレッドはかなり追い詰められていたわけだが、取り立てて特殊な行動をとったわけではない。
また冒険者を目指して修行を始めてから今まで、アルフレッドとリリヴィアは同じ人間から学んでおり、個人の才能に合わせて修行内容に若干の差異はあるものの、そこまで大きな違いはないはずだ。
となれば、アルフレッドが何かのトリガーを引いたと見るよりも<ジョブ>の違いによる差異だと考えるのが自然だ。
「そうなの?」
「そうよ。商人系統の場合、〖格闘術〗くらいだったら護身用に取得している人も多いけど、それを上限まで鍛えてもそのうえの〖拳聖術〗は派生しないらしいの。それに<ステータス>の数値自体も戦闘職ほどには伸びないから、基本的に鍛えてもそこまで強くなれないわ」
「へえー……初めて知ったわ」
「それじゃあやっぱり、〖気配精査〗は俺の【斥候】みたいに情報収集に長けた<ジョブ>だけが取得するスキルなんですかね?」
「私も詳しくないから、はっきりとしたことは言えないけれど、その可能性が高いと思うわ」
「くっ、私の【勇者】は万能だと思っていたのに、取れないスキルがあるっていうの!?」
「なんて言うか、リリの【勇者】は戦闘自体に特化したタイプなのかな? まあそれでも物理と魔法の両方を極められるのは十分すごいと思うぞ」
ゆとりをもって進む馬車で話を続ける3人。
一見無防備に見えるが、アルフレッドとリリヴィアは話しながらも周囲をしっかり警戒しており、周辺の魔物の位置も分かっているので安全面に問題はない。
「ねえアル、もう一つ取得したっていう〖危険予知〗の方はどんな感じなの?」
「〖危険予知〗は〖危険察知〗の強化版って感じだった。〖危険察知〗よりもいくらか早いタイミングで敵の攻撃を察知できるみたいで、いままでよりも余裕をもって戦えたな」
「ふーん……じゃあ、<特性スキル>の〖格上殺し〗は?」
「〖格上殺し〗についてはまだよく分からないな。相手が格上じゃないと発動しないから、まだ試せていないし……ギオウに最後不意打ちした時には発動してたはずなんだけど、あれは相手が格上過ぎて全然効果が実感できなかったな」
<特性スキル>は基本的に任意で発動できるものではないため、検証が難しいのだ。
「なあリリ、俺からも聞きたいんだけど、お前も新しく<特性スキル>を手に入れたんだろ。それってどんなスキルなんだ?」
「ああ、〖破壊王〗のスキルね」
実はリリヴィアもまたギオウとの激戦を経て新たなスキルを手に入れていたのだった。
そのスキル〖破壊王〗の詳細は以下の通り。
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<名称>:破壊王
<説明>:破壊の限りを尽くす暴威の化身が持つ特性。
自身が繰り出すあらゆる攻撃に貫通効果が付与される。
貫通効果が付与された攻撃は敵の<耐性スキル>をある程度無視したダメージを与える。
また攻撃によってダメージを与えた敵の耐性を一時的に低下させる。
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リリヴィアは上記の内容をかいつまんで話す。
「しれっととんでもないスキルを手に入れてるな。お前……」
「私も初めて聞くスキルだわ。一体何をどうしたらそんなのが取得できるのかしら」
「ふっ、まあギオウとの戦いはそれだけの激戦だったからね。さすがの私も久々に死ぬかと思ったくらいだし、<称号>も変化したし。その分だけ強力なスキルが発現したんじゃないかしら」
「<称号>か……確か〖暴走特急〗が〖災害人間〗に変化したんだったな。字面はともかく、やっぱり<特性スキル>の取得には<称号>が関わっているんだろうな」
「まず間違いないでしょうね。アルの〖格上殺し〗も称号に関係してそうなスキルだし」
それからもしばらくスキル関連の話を続けていたが、目的地が近づいてきたことで話題は今後の予定へと切り替わる。
「私はこれから数日かけてギルドやアルタの商会を回って商売を行う予定だけど、2人はどうするの?」
「俺達も当分はアルタに留まって依頼を熟す予定です」
「やがてはアルタも旅立ってもっと西に向かうつもりだけど、別に急ぐわけでもないし、ここらで冒険者のランクも上げておきたいもの。具体的にどのくらい留まるかはまだ決めていないけど、すぐにアルタを出ることにはならないと思うわ」
アルタに到着した後の予定についてはカノーラ村を出る前にアルフレッドとリリヴィアで話し合っており、既に大まかな方針は決めてある。
すぐに次の目的地を目指すよりもランク上げを優先するのだ。
魔王退治を目的として旅をしているアルフレッド達は、最終的にはずっと西で行われているという人類と魔王軍の戦いに参戦する予定だ。
だがアルフレッドもリリヴィアも冒険者ランクが低く、このまま戦場に行っても参戦させてもらえない可能性がある。
そのため途中のどこかでランクを上げておく必要があるのだ。
「分かったわ。それなら後でお互いの連絡先を交換しましょう。木材のお金の件もあるし」
「分かりました」
「分かったわ」
それからさほど時間も掛からず一行はアルタに到着するのだった。
——国境の街アルタにて—————————————————————
「さあ2人とも、アルタに着いたわよ」
それなりに高い城壁に、はためくツヴァイレーン帝国の旗。
家々はほとんどが石造りで、まっすぐ伸びる石畳の道を多くの人々が行き交っている。
「ここがアルタかあ……なんて言うか、あんまり外国に来たっていう感じがしないな……」
「立っている旗と来るときに通った関所以外はイーラにそっくりね……」
2人にとって初めての外国なのだが、思っていたのと違っていたらしい。
「ふふふ。王国から帝国に初めて来た人は大体皆そう思うらしいわよ」
そんな2人の様子を見てメノアは苦笑する。
アルフレッド達が今まで住んでいたアインダルク王国と今いるツヴァイレーン帝国はもともと1つの国だった。
その国が内乱で滅び、戦乱の世を経て2つの国に分かれたのだ。
言うなればアインダルク王国とツヴァイレーン帝国は兄弟国とも言うべき間柄であり、両国は民族も言語も文化も同じで、さらには流通している通貨も同じという、極めて近い関係なのだ。
そしてそのこともあって国境の行き来も簡単だった。
街道の国境地点にお互いの関所が作られており、身元確認や荷物検査も行われてはいるのだが……
身元は冒険者証などのような身分証を見せたら終わり。
荷物検査も軽く確認するだけで【魔法の袋】の中身などは自己申告するだけで終わりという、その程度のものだった。
「あれ? これ、その気になればいくらでも誤魔化せるんじゃ……」というのが国境を越えた時に抱いたアルフレッドの感想だったという。
「まあ王国と帝国はそれだけ関係が深いということよ。法律や風習なんかもかなり似通っているから、国の違いで戸惑うということはあまりないと思うわ」
「ま、それなら生活面についてはそこまで心配しなくて良さそうね」
「あ、ギルドの看板! こういうところも王国と変わらないんだな」
そんな印象を持ちながら、一行はギルドに入っていくのだった。
物語世界の小ネタ:
ギルドはどの街でもだいたい入り口の近くにあります。
理由は外で狩られた魔物などが素材として持ち込まれたりするので、その死体を担いで街中を歩かなくて済むようにするためです。




