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第77話 【大蟻戦争】戦いの終わりに一悶着

 「大丈夫か、リリ?」


 アルフレッドがそう言いながら駆け寄ってくる。

 1人ではなくエルをはじめとした偵察班のメンバーも一緒だ。

 異変に気付いて村を出た彼等は、少し前に戦場に到着してリリヴィアとギオウの戦いを離れたところから見ていたのだ。


 「大丈夫よ。かなりギリギリだけど、助太刀してくれたおかげで勝てたわ。ありがとうアル」


 リリヴィアはすぐ側まで来たアルフレッドにそう返すと、前を向いてギオウの方へ歩き出す。


 「貴方は間違いなく最強の敵だったわ。全力尽くしてどんな手使ってもギリギリで、結局自力じゃ勝てなかった相手なんて、初めてよ……」


 そして地面に落ちたギオウの頭を見て、リリヴィアはそう呟く。

 どんな形であれ勝ったことへの安堵、しかし実力では及ばなかったという悔しさ、もしも何かが違っていたらという思いや、強敵への敬意が入り混じった複雑な表情で。


 『朕モ同ジ思イダ……今マデ強敵トノ戦イハ数アレド、最後ニハ必ズ勝ッテキタ。マサカ、〖サクリファイス〗デ兵ヲ犠牲ニシテ、ソレデモ及バヌトハ……アノ世デ兵達ニ合ワセル顔ガ無イナ……』

 「生きてた!?」

 「呆れた……首だけになっても死なないのね貴方」


 ギオウの頭から〖念話〗が発せられる。

 首を切り飛ばされても即死しないギオウに驚くアルフレッドとリリヴィア。

 ついでに少し後ろにいるエル達もびっくりだ。

 「何で生きてるんだ!?」とか「本物のバケモノだよコイツ!」という声が上がっている。


 『心配セズトモ、朕ハスグニ死ヌ。サスガニ、コウナッテハ助カル術ハナイ』

 「そうなっても即死しねえどころか、話まで出来る時点で十分やべえよ。てめえが特別なのか……Aランクだからか……それとも蟻の魔物ってのは、実はとんでもねえ猛者なのか……」


 リオーネが呆れ顔でそんなことを言いながらリリヴィア達に合流する。


 「おい、感傷に浸っているところ悪いんだが、援軍の到着だぞ。全員、死にたくなかったら構えろ!」


 合流すると、彼は表情を引き締めて剣を構え、その場にいる全員に警告を発する。


 「「「ギチギチギチ……」」」

 「「「クチャ! クチャ!」」」


 その直後にその援軍が山の木々の奥から姿を現す。

 先頭には体長約8メートルのBランクモンスター、クインオーガアントがおり、その後ろに体長約3メートルのオーガアントが30体ほど続いている。

 敵はそれだけではなく〖気配察知〗を発動すると少し離れたところにも後続の部隊がいて、それらももう間もなくここに到着することが分かる。


 それを見てアルフレッドもリリヴィアも、他の者達も皆無言で武器を構える。


 『オ、オ、オノレェーーー! ギオウ様ノ窮地ニ間ニ合ワヌトハ、コノギサン、一生ノ不覚! コノウエハ———』

 『ギサン、聞ケ!』

 『———例エコノ身朽チヨウト、……ハ!? ハハ!!』


 激昂して突撃しようとするクインオーガアントのギサンをギオウが止める。

 ギサンはひとまず、感情を抑えてギオウの言葉を待つ。


 『撤退セヨ。現状ハ、見テノ通リデアル。今、貴様ガスベキハ、ギノ帝国ニ戻リ、彼ノ地ヲ守ルコト。コノ場ハ退ケ。朕ノコトモ捨テ置ケ。復讐モ許サヌ。ギノ帝国ヲ守ルコトニノミ、全力ヲ尽クセ』

 『……!』

 『良イナ……』

 『……ハ、仰セノママニ……』

 『良シ、デハ、行ケ……』

 『御意……』


 ギサンは連れてきた兵をまとめて引き返した。

 部下達に撤退命令を下した以外は一言も話さず、また体はかすかに震えている。

 仇を討ちたい衝動を抑えているのだということが背中からありありと伝わってくる。


 「「「……」」」


 アルフレッド達はそんなギサン達の退却を無言で見送ったのだった。


  ・

  ・

  ・


 ……約20分後


 その後、ギオウの死亡を見届けたアルフレッド達はリオーネの部下とも合流し、負傷者の治療を行い、それが済むとその場で休憩しながら話し合っていた。


 「……しっかし、あんたらに助けられるとは……まあでも、礼は言っとくよ」

 「バカ野郎、すべきは礼じゃなくて詫びだ、詫び!」


 つい3日前に襲ってきた相手が今日は味方になっていたことについて、複雑な思いを抱きつつも一応は礼を言うアルフレッド。


 しかしリオーネはそのお礼の言葉を拒否。

 このまま仲良くなってハッピーエンド、という気はないようだ。

 腕を組み、見るからに不機嫌そうな顔で言葉を続ける。


 「いいか、よく聞け。そこのクソ女が、どんなにひでえ奴なのかってことを! 今回、俺達はただここらで休んでいたってだけで、何にも悪いことはしていないにもかかわらずだな~」


 リオーネは語る。

 敗けそうになったリリヴィアが自分達を強引に巻き込んだこと。

 しかも捨て駒扱いされたこと。

 こんなことが許されていいのか、いやよくない!


 それはそれはもう、リリヴィアがどんなに身勝手で理不尽で非道な人間なのかということを、ネチネチと、恨みがましく、そしてしつこく語る。


 「あー、もう! しつこいわね! 終わったことをいつまでも引きずるなんて。だいたい、脱走した盗賊が被害者面してんじゃないわよ!」


 そんな不都合な真実を語り続けるリオーネをたまりかねたリリヴィアが遮る。

 リリヴィアの理不尽な強さと性格を思い知らされた盗賊達は一斉に怯え出した。

 しかしリオーネは止まらない。


 「今回に限っては、俺達は完っ全に被害者だからな! それにお前、『善人悪人も老若男女も関係なく巻き込んでた』なんて言ってなかったか? 言っとくが、魔物をわざと押し付けるのはれっきとした犯罪だぞ! そのことしっかり自覚しとけ!」

 「く……面倒ね。いっそのこと皆殺しにして……」

 「待て待て待てぇーい!」


 不穏なことを口走るリリヴィアをアルフレッドが慌てて止める。

 周りでは盗賊達が「やっぱ悪魔だ」とか「殺されるー」などと悲鳴を上げている。


 「リリ、ここはきちんと謝ろうぜ」

 「なあっ!? 貴方こいつらの味方するっていうの?」

 「命がかかった戦いで、きれいごとだけじゃ生き残れない時もそりゃあるんだろうが、それはそれだ。例え勝つためだろうと、生き延びるためだろうと、迷惑かけたことに変わりはないだろ。文句言われるのは当然だよ。俺も一緒に謝るからさ」

 「うぅー……分かったわよ」

 「ああ、もちろん言葉だけじゃなく慰謝料も要るぞ。示談金でもいいが。しっかり払えよ! はっはっはー!」


 アルフレッドの説得で大人しくなったリリヴィアだが、今度はリオーネが挑発的な態度で金を要求してくる。


 「ええい! あんまり調子に乗るんじゃない! ……ほら、慰謝料! すみませんでした!!!」


 リリヴィアはそんなリオーネに苛立ちながら小金貨を5枚(500セント)渡し、思いっきり不満な表情で謝る。


 「俺からも謝ります。申し訳ありませんでした」


 リリヴィアのことを「しょうがないなコイツ」という目で見ながら、アルフレッドもリオーネに謝って頭を下げ、慰謝料として500セントを渡す。


 「よーし。謝罪は、受け入れてやらんでもない。ただ、金がちょっと少なくねえか?」

 「開拓村で取り上げられていた装備を全部返してあげたでしょ! 怪我も治したし、騎士団にも通報しないで見逃してあげるんだから、十分すぎるくらいよ!」

 「まあまあお頭、ここはこのくらいで勘弁してやりましょうよ」


 わざとらしいくらい尊大な態度で、出された慰謝料にケチをつけるリオーネ。

 「あんまり舐めてると殺すぞ!」という顔で反論するリリヴィア。

 リオーネの副官ロイがそんな2人の間に入って、リオーネを宥める。


 形だけでも謝罪はあった。

 酷い目に遭わされたものの、仲間に死者は出ておらず怪我や欠損も治療されたため、現在は負傷者もいない。

 それでいて武器や防具を取り戻して、ついでに慰謝料として多少の金も手に入れたのだから、落としどころとしては悪くない。


 むしろリリヴィアはその気になればリオーネ達を皆殺しにできる力があるため、これ以上言い争ってさらに怒らせてしまうのは危険である。


 「まあ、しょうがねえな。寛大な俺様が、特別に許してやるよ。しっかり反省するんだぞ。おい、行くぞお前ら!」

 「「「へい!」」」

 「さすがお頭っ!」

 「あんな怪物をとっちめるなんてすごすぎっす!」

 「少年、味方になってくれてありがとう!」


 ロイに促されてリオーネも矛を収め、手下達を率いて出発。

 手下達は口々にリオーネを褒め称え、満面の笑みで彼に従っていくのだった。


 「……次会ったら覚えてなさい! 絶対、捕まえてやるから!」

 「ちょっといいか? リリ」


 剣を掴んだまま地団太を踏むリリヴィアにアルフレッドが声をかける。


 「あのリオーネって奴、強さじゃ全然お前に敵わねえのに、最後にきっちりやり返していったな。 ……そもそも、ギオウって奴を倒し切る実力があれば、あいつらを巻き込むことも、そのことで文句を言われることもなかったはずだ」

 「……なにが言いたいのよ!」

 「要するに、それが今の俺達の実力ってことだ。レベルを限界まで上げたとしても無敵ってわけにはいかねえし、数値とかスキルとか以外にも色々な強さがある。旅に出て数日で、俺はそのことが良く分かった」


 思い浮かぶのは旅に出てから出会った人々。

 例えばイーラのギルド長エルガーやレイドクエストで活躍していた先輩の冒険者達。

 彼らは間違いなく歴戦の猛者だ。


 領主のカルネル男爵、開拓村のオットーも十分な実力と風格を持った頼れるリーダーだ。

 護衛対象のメノアも戦闘能力はともかく芯の強さは相当なものだし、他にもカノーラ村のエルも、なんなら村長のピピンにもアルフレッドやリリヴィアにはないタイプの強さがあるように思える。

 たったいま去っていったリオーネも悪人ではあるが、強者には違いない。


 リリヴィアは戦闘能力という点においては今挙げた誰よりも強い。

 だが経験や指導力、判断力や人望などあらゆる点を踏まえたうえで一番かと問われると……必ずしもそうだとは言いきれない気がする。


 「ふん……」

 「……だからさ、もっと強くなろうぜ。今の俺らの実力はまだまだだ。言い換えればもっと強くなれる」

 「当然よ! このままで満足する気なんかないわ! 私はもっと強くなる!」


 アルフレッドの言葉を聞いて闘志を燃やすリリヴィア。

 未だに顔を歪めているが、気持ちの切り替えはできたらしい。


 元々前世で生粋のゲーマーだった彼女は、やり込み要素のあるゲームや高難易度のゲームを好んでいた。

 ただレベルを上げて殴るだけでクリアできるゲームより、情報を集めて対策や戦術を練るといった相応の労力を注いでようやくクリアできるゲームの方が好きなのだ。

 情報集め、レベル上げ、アイテム収集その他もろもろの勝つために必要な努力も、彼女にとってはそのゲームをより深く味わうためのスパイスともいうべきもの。


 今回の戦いについては、他者の助けを借りたり、最後に謝る羽目になったりと、リリヴィアにとっては不満が残る結果になった。


 しかしこの戦いを「最後の結果」として見るのではなく、ゲームクリアに至る途中の「通過点」として見るのなら……

 彼女にとって、「まだ上がある」ということはつまりそれだけ「楽しみがある」ということなのだ。


 「……2人共、そろそろ引き上げようか」


 様子を見守っていたエルがアルフレッド達に話しかける。


 「エルさん、軽々しく攻撃するなって言われてたのに、勝手に参戦してすみませんでした」

 「いやいや、むしろいい判断だったぞ、アル君。あそこでギオウという敵を逃がしていたらどうなっていたか分からんからな。リリさんも本当に良く戦ってくれた。君じゃなければあの敵は倒せなかっただろう。村を救ってくれたのは間違いなく君達だ。ありがとう」

 「ふふふ。そう? そうよね! よし、それじゃ帰りましょう。あ、でもギオウとか他の蟻の死骸も回収するから、ちょっと待っててね」


 エルから惜しみない賛辞を受けたリリヴィアは一転して上機嫌になる。

 そして回収を終えて帰路につき、村で待っていた村長達の前で自分の挙げた戦果をとっても誇らしい様子で報告するのだった。


 物語世界の小ネタ:


 リリヴィアは自分に正直な、素直な性格なのです。


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