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第75話 【大蟻戦争】〖サクリファイス〗(sideリリヴィア)

——キーツ山の山中にて—————————————————————


 「……うぅ」

 「あ、あぐ……」

 「し、しっかりしろ……」


 傷ついた男達が呻いている。

 戦いが続くキーツ山ではギオウが猛威を振るっていた。


 『残リハ貴様等2人ダケダ。コレマデノヨウニハ逃ゲラレヌゾ!』


 ギオウがリリヴィアとリオーネに対して言い放つ。

 その言葉通り、リオーネ以外の盗賊達は全員重傷を負って戦線離脱していた。

 そのうえ既に【煙玉】も使い果たしているため、もう煙に紛れて隠れることもできない。

 おまけに、リリヴィアもリオーネもまだ戦える、とはいっても全身傷だらけだ。


 「だってよ。どうなんだクソ女?」


 しかし、2人には追い詰められた様子はない。

 リリヴィアにいたっては獲物を見つけた肉食獣を思わせる獰猛な笑みさえ浮かべている。


 「時間稼ぎはもう十分! 後は私がギオウを仕留めてこの戦いに勝つだけ!」

 「なら、俺は引っ込んでおくぜ。そろそろ朝飯が食いたいしな」

 『フン! 随分ト威勢ガ良イナ。先程マデハ只々逃ゲ回ッテイタトイウノニ!』


 ギオウが再び突進。

 200メートルくらいあった距離が一瞬で詰められるが、リリヴィアはギオウの左側に回り込むようにして回避。


 『結局逃ゲ回ルノカ? 土魔法〖クレイガン〗』


 ギオウは流れるように追撃に入る。

 土の弾丸を飛ばし、それを大剣で弾いたリリヴィアを脚で攻撃。

 しかしリリヴィアはそれをも最小限の動きで躱す。


 少し前であれば直撃とまではいかずとも完全には避け切れずにダメージを負っていたところだが、今では余裕で対処できている。

 〖勇者〗のバフ効果が最大限に発揮されたことで、彼女の<素早さ>がギオウを上回っているのだ。


 「そろそろ私の反撃よ! 〖オーラブレード〗!」

 『グゥッ!?』


 下から切り上げるように飛ばした斬撃がギオウの巨体に大きな傷をつける。

 胸部から腹部にかけて甲殻を切り裂かれたギオウはすぐに〖自己再生〗で傷を塞ぐが、その隙にリリヴィアは魔法を唱える。


 「光輝魔法〖セイントストレインセニング〗! ふふふ、迂闊に唱えるとその瞬間攻撃されるから発動できなかったけど、これでもう怖いものなしだわ! 覚悟しなさい!」


 〖セイントストレインセニング〗は全ステータスを1.5倍に引き上げる魔法。

 〖勇者〗によるリリヴィアの強化と併せて、現在の彼女の<ステータス>は以下の通り。


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :リリヴィア・ファーレンハイト

<種族> :人間

<ジョブ>:勇者Lv100/100

<状態> :全ステータス上昇(極大)

<HP> : 415/1000

<MP> : 121/ 800

<攻撃力>:3825(850)+110

<防御力>:2250(500)+130

<魔法力>:3600(800)+100

<素早さ>:3150(700)

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 一方でギオウは……


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :ギオウ

<種族> :タイラントエンペラーアント

<ジョブ>:皇帝蟻Lv70/135

<状態> :全ステータス上昇(極大)、HP減少(中)

<HP> :1057/2250

<MP> : 322/ 750

<攻撃力>:2700(1350)

<防御力>:2400(1200)

<魔法力>:1400( 700)

<素早さ>:1800( 900)

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 <HP>と<MP>についてはこれまでの戦いの経緯やバフ効果の対象外だということもあってギオウの方が優勢だが、火力と機動力についてはリリヴィアの圧勝だ。


 「〖衝撃波〗ぁ! さあ! どんどん行くわよ!」

 『……』


 ギオウの周りを高速移動しながら何度も〖衝撃波〗を放つリリヴィア。

 パワーとスピードの両方で優位に立ったことで、彼女は一方的に攻め立てる。

 ギオウはあらゆる方向から猛スピードで襲ってくる〖衝撃波〗を上手く避けているものの、反撃する余裕はない。


 今のリリヴィアの攻撃は下手に直撃すればギオウでさえも一撃で倒されかねないのだ。

 ゆえに今襲ってくる攻撃が牽制や誘導目的であっても全て避けねばならない。

 そのためギオウは全ての攻撃を全力で避ける……のだがそれはギオウの動きがリリヴィアにコントロールされていることを意味した。


 (……誘導サレテイル……奴ノ攻撃ハ朕ノ動キヲ誘導シ、逃ゲ場ヲ潰シ、確実ニ仕留メルタメノモノ……モウスグ朕ヲ確実ニ討チ取ル本命ノ攻撃ガ来ル! ソノ時ガ勝負!!)

 「ふふんっ! そろそろ終わりよ!」


 十数発の〖衝撃波〗はギオウに当たることこそなかったものの、しかし打倒のチャンスを作り出すことに成功していた。

 続けざまに放たれた攻撃を無理に避けたため態勢が崩れ、そのうえ最後の攻撃を避けるために跳んだため、彼の身体は空中に浮いてしまったのだ。

 そしてリリヴィアはそのギオウに対し、万全の態勢で確実に攻撃を当てられる位置にいる。


 「〖月閃〗!」

 『……ッ!』


 リリヴィアが大剣に魔力を込めて突き出すと、大剣の切っ先から強力な破壊力を秘めた光が放たれる。


 〖月閃〗は〖オーラブレード〗と同じ剣神術スキルの1つだ。

 剣から斬撃を飛ばす点も同じ。

 発動時に若干の溜めが必要なうえに剣にかなりの負担をかけるために多用し辛い反面、その分破壊力と貫通力が非常に高く射程距離も長い。

 ここぞというときの切り札には持って来いのスキルである。


 リリヴィアの放った〖月閃〗は見事にギオウの胸部の真ん中、人間であれば心臓があるところに寸分違わず命中。


 (仕留めた!)


 〖鑑定〗で彼我の<ステータス>は把握済。

 そして自分の中で最も威力のある攻撃がクリティカルヒット。

 その手応えにリリヴィアは勝利を確信する。


 ……だがしかし———


 『〖魔牙撃〗!』

 「なっ!?」

 『〖三連噛みつき〗!』

 「くっ……」


 ———ギオウは何事もなかったかのように即座に反撃。

 顎と牙に魔力を込めた噛みつきがリリヴィアを襲う。

 リリヴィアは咄嗟に退くが、反応が遅れ大剣を持っていた右腕の肘から先を喰いちぎられた。


 さらに追撃してくるギオウから急いで距離を取るリリヴィア。

 右腕の傷口を左手で抑えてギオウを睨むが、その顔は困惑の色が隠せない。


 (確かに当たったのに! 確実に倒せていた一撃だったのに! でも実際にはダメージゼロってどういうこと!?)


 混乱するリリヴィアに横からその答えが飛んできた。


 「身代わりだ! さっき、お前の攻撃が当たった瞬間に手下の蟻が1体死んだ! 恐らくそいつはスキルか何かで味方にダメージを肩代わりさせやがったんだ!」

 「ここまで来てさらに隠し玉!? 何よそれ!」


 リオーネは離れたところから見ていたことで全体を見渡すことが出来ていた。

 そのためいち早く気付くことが出来たのだった。


 『蟻極意スキルノ1ツデ〖サクリファイス〗トイウ。ソヤツノ言ウ通リ、朕ニ忠誠ヲ誓ウ配下ヲ犠牲ニスルコトデ如何ナル攻撃カラモ身ヲ守ルコトガ出来ルスキルダ。貴様ノ反撃ニ備エ、少シ前カラ発動シテイタ……正直アマリ使イタクハナイノダガナ……』

 『例エ一兵卒デアッテモ犠牲ヲ良シトセヌ、慈悲深イギオウ様。ナレドモ今コノ場ニオイテ、ソノオ気遣イハ無用デアリマス。ギノ帝国ハ貴方様アッテコソ! 我等、最後ノ1体ニ至ルマデ命ヲ捧ゲル所存! ドウカ迷ウコトナク勝利ヲ!!』


 リオーネの言葉が正しいことをギオウもあっさり認めた。

 〖サクリファイス〗の使用はギオウとしても不本意だったらしいが、犠牲になる立場のギアンの方は既に覚悟が決まっており、あくまで勝利を目指すようにと進言する。


 『……今ハソノ言葉ニ甘エテオク』


 ギオウはそういうと口の中から何かをペッと吐き出して、それを思いっきり踏みつける。

 ズンッと音がしたその場所を見るとリリヴィアの大剣が折れ曲がった状態で落ちていた。

 先ほど噛みつかれた際に右手ごとギオウに喰われていたのである。


 (武器が壊された……おまけに<MP>切れで右手が再生できない……)


 勝ちが確定したはずの戦況が、また分からなくなってきた。

 それを感じながらもリリヴィアは再び勝利を手繰り寄せるために動き出す。


 「リオーネ! 雑魚を減らして! ギオウの残機を削って!」

 「おう!」


 リオーネに指示を出すとリリヴィアは〖気鋼闘衣〗を発動。

 全身を薄くて透明な保護膜で覆った状態でギオウに向かっていく。

 右腕は欠損したまま、出血だけ止まっている。


 「<ステータス>なら今も私が上! 押し切ってやるわ!!」

 『フッ、焦リデ動キガ大振リニナッテイルノデハナイカ? 強化スキルノ持続時間ガ気ニナルト見エル!』


 前に出るリリヴィアに対し、ギオウは土魔法で牽制しつつ後ろに下がる。


 (〖セイントストレインセニング〗のバフが切れるまで逃げ回る気か……手堅いわね、全く! それでもスピードは私が上! 逃がさないわ!)


 リリヴィアは苛立ちを抑え、繰り出される土魔法を掻い潜りつつギオウに迫る。

 一方リオーネの方は———


 「全く! 自信満々だった癖に、ざまあねえったらありゃしねえ!」


 ———最も近くにいたキルアントの元へ走り、そのまま斬り捨てようと剣を振りかぶる。


 『土魔法〖ピットフォール〗!』

 「うおおおっ!?」


 しかし間合いに入る直前で彼の足元に深さ8メートル、直径4メートル程の穴が開き、リオーネは驚きの声を上げながら落ちていった。


 『フハハハハ! 油断シタナ! 〖サクリファイス〗ニ気付イタ後、貴様等ガ妾達ヲ狙ウノハ当然ノ流レ! 故ニ対策ハ万全ヨ!』


 落とし穴が成功したのを見て、ギアンが勝ち誇ったように言う。

 彼女はギオウの指示で手下と共に後退した後、襲撃に備えていたのだ。


 土魔法でこっそり仕込んでいた落とし穴以外にも、蟻の配置を分散させたり木々や草むらの陰に隠れさせたりと、簡単に全滅しない工夫をしていたのだった。


 『兵ヲアエテ分散サセ、攻撃ヲ捨テテ防御ト回避ニ徹スル【霧雲の陣】ヲ敷イテオル! 妾達ヲ討チ取ルノハソウ簡単デハナイゾ!』


 ギアンは落とし穴の側に移動して穴を覗き込みながら勝ち誇る。

 ちなみにリオーネが狙っていたキルアントはギアンと入れ替わりに退避済だ。


 「土魔法で予め地面の中に空洞を作っておいて、いつでも穴を空けられるようにしてたってわけか……くそ、虫のくせに小癪な真似しやがって!」

 『フハハハ! 少々上手クイッタクライデアッサリ気ヲ抜クノハ愚カ者ノ証ヨ! 思イ知レ! 土魔法〖ストーンスピア』!』

 「死んでたまるか、くそがあーー!!!」

 『ナ、ナニ!? 作リ出サレタ槍ヲ足場ニシテ駆ケ上ガッテクルダト!?』


 落とし穴の壁一面に土の槍を生成してリオーネを串刺しにしようとしたギアン。

 しかしリオーネは〖ストーンスピア〗が発動する直前に上にジャンプし、突き出されてくる槍を蹴って一気に地上に駆け上がる。


 「〖大切断〗!」

 『ギァッ!?』


 ギアンのところまで上ってきたリオーネは勢いのまま大上段に構えた剣を全力で振り下ろす。

 すっかり勝ちが確定したと思っていたギアンは、反応が遅れて頭部を唐竹割りにされる。


 「はあっ、はあっ……まさかこの状況で逆転できるとは、自分でやっといて信じられねえな……」


 ちらっと自分が落ちていた穴を見て独り言ちる。

 彼もできると思ってやったわけではなかった。

 ただ我武者羅に足掻いた結果、生き延びたというだけである。


 「ギギ……ギ……」


 そんなリオーネの目の前では、頭を割られたギアンが体液にまみれながら痙攣している。


 「……」


 リオーネは無言で剣を振るい、ギアンの首を斬り飛ばした。


 「てめえも、まあまあ強かった。生まれ変わったら今度は邪魔が入らねえところで戦おうぜ。」


 そして彼なりの別れの言葉を口にすると、一拍置いて思考を切り替える。


 「他の蟻共は……どんどん減っていってるな……」


 〖気配察知〗で周りの様子を探ると、辺りに散らばっていたキルアントの気配が次々に消えていくのが分かった。

 気配が消えているのは、別に〖隠密〗スキルが発動しているためではない。

 リリヴィアとギオウとの戦いで〖サクリファイス〗が何度も発動し、その度に配下の蟻達が身代わりとして死んでいっているのだ。


 「そろそろ決着か」


 とりあえずはまだ生き残っている蟻達を倒そうと走り出しながら、彼はそう呟いた。


 物語世界の小ネタ:


 〖サクリファイス〗はダメージだけでなく状態異常も肩代わりさせることができます。


 少し前にリリヴィアに【デビルブラックトリカブト】を食べさせられた時も、ギオウは〖サクリファイス〗を発動して猛毒や即死効果から身を守っていたりします。

 なお、その時に悲鳴を上げたのは毒を受けたからではなく、味がとにかく不味かったからです。


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