表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/110

第74話 【大蟻戦争】加熱する戦い(sideリリヴィア)

 「距離を取れぇー! 無理に突っ込まなくていい! それよりも走りながら大きな音で攪乱しろ! クソ女の居場所を掴ませるな!」

 「「「了解! うおおおーー!!!」」」


 ガンガンガン!

 カァ―ン!


 盗賊達は常にギオウから一定以上の距離を取りつつ走る。

 そして走りながら大声を出したり、木々に自分の武器を打ち付けたり、あるいは石を投げたりしながら、とにかく音を鳴らす。

 これによって、ただでさえ視界が【煙玉】によってかなり悪くなっているところに、さらに音もうるさく鳴り響くようになった。


 (煩ワシイ。煙ト音デリリヴィアノ居場所ガ探レヌ。 ……ソシテ先ニ騒イデイル者カラ倒ソウトスルト……)

 「〖衝撃波〗!」

 (ヤハリ邪魔サレルカ)


 ギオウが盗賊達を排除するために攻撃魔法を発動しようとすると、潜んでいたリリヴィアから絶妙なタイミングで攻撃が来る。

 するとギオウはその攻撃を避けるために魔法を中断しなければならず、盗賊達への攻撃は不発に終わる。


 『オノレ小賢シイ! 妾ガ打開シテクレル!』


 ギオウの部下のギアンが果敢に突撃するが、


 「おらよっ!」

 『アグ!?』


 今度はリオーネに不意打ちを受ける。

 後頭部を剣で殴られ、ギアンはたたらを踏む。

 反撃のために振り返るギアンだが、その時には既にリオーネは姿を消していた。


 『オノレェー!』

 『ギアンヨ。落チ着ケ』

 『ギオウ様!』

 『1ツ確認ダガ、巣穴ノ兵ハ今ココニ居ル者達デ全テカ?』

 『ハ、ハハ! 仰セノ通リニゴザイマス。申シ訳ゴザイマセヌ。一応、念ノタメニ近隣ノ他ノ巣穴ニモ伝令ヲ送ッテオリマスガ、ソレガ来ルノモモウ暫ラク時間ヲ要スルカト……』

 『フム。ソウカ』


 表情にも念話にもほとんど変化を見せず冷静に頷くギオウ。

 その姿は全く動じていないようにも、落胆しているようにも見える。


 『ア、アノ……』

 『ギアン、貴様ニ命ジル』


 落胆していると受け取ったギアンが何かを口にしようとするが、その前にギオウが命令を出す。


 『今残ッテイル兵達ヲ煙ノ外側ニ下ゲヨ。【霧雲の陣】ヲ敷ク! コレヨリ先、援軍ガ来ルマデハ兵ノ損耗ヲ最小限ニ抑エヨ!』

 『ハ、ハ! 仰セノママニ!』


 その口調には確固たる意志があり、落胆している様子はない。

 命令を受けたギアンは安堵した様子で指示に従い、兵隊達を率いて後ろに下がる。


 『サテ、余裕ガ無クナッタ。少々強引ニ攻メルトシヨウ』


 部下達が退いていくのを見ながらギオウはそう言って再び動き出す。

 一方そのころリリヴィア達はというと


 「「「うおおおー!!!」」」


 ガンガンガン!


 「おいクソ女! 予備の武器無えか? この剣はもう限界なんだが」

 「誰がクソ女よ! 名前で呼びなさいよ全く! でも刃にヒビが入ってるし、確かに限界ね。ほらこれ使いなさい!」


 手下達が騒ぎ立てる中リオーネがリリヴィアに話しかけていた。

 彼が持つ剣は本人が言う通り、いつ折れてもおかしくないほどボロボロだ。

 その剣はもともとオットーの村で捕らえられたときに護送していた兵士から奪った物。


 特別業物というわけでもないその剣で、Cランクのギアンや途中からやってきたDランクのバレットアントを抑えるために多少無理な使い方をした結果、あっという間に使い物にならなくなってしまったわけである。

 ちなみにギアンはまだ健在だが、バレットアントの方は既に倒していたりする。


 「ふん! ……ってこれ、あの村で取り上げられた俺の剣じゃねえか!」

 「ええそうよ。オットーさんに協力した報酬としてもらって、今は私の物ってわけ。ついでに一緒に貰った他の武器や鎧も出しとくから、必要に応じて取りなさい」

 「……そうかよ。じゃあ遠慮なく取るぞ!」


 リリヴィアが【魔法の袋】から出した武器防具の中から、リオーネは自分が着ていた鎧を取って少し離れたところで素早く装備する。


 「俺の【バハムート】ぉぉ! うわあああん! 良く戻ってきたっす! もう手放さないっすぅー!」

 「デリク、お前そういや剣に名前つけてたっけな。それ、ただの【鉄の剣】なのに……」

 「別にいいでしょ! これは盗品なんかじゃなく、盗賊になる前の真面目に働いていた頃に俺の金で買った、正真正銘俺自身の剣なんすから!」


 そしたら今度は近くにいて2人のやり取りを聞いていた手下の1人がやってきて【鉄の剣】を掴んで号泣しながら刀身に頬ずりしだした。

 彼にとっては大切な剣だったらしい。


 「あーうん。分かった分かった。とりあえず、そこをさっさと離れろ。かなり騒いじまってるから攻撃されてもおかしくねえぞ」

 『大地魔法〖クレイマシンガン〗!』

 「あがっ!」


 リオーネの忠告を受けてデリクが動こうとした瞬間、ギオウの攻撃が炸裂。

 無数に放たれた土の弾丸の1つがデリクの左足を吹き飛ばした。


 「くっ、〖衝撃波〗!」

 『……』

 (当たった!? 回避よりも攻撃を優先した!)


 ギオウの攻撃を中断させるためにリリヴィアが斬撃を飛ばす。

 しかし、ギオウはそれまで避けていた攻撃を敢えて無視して〖クレイマシンガン〗を放ち続ける。


 「ひぎいっ!」

 「ああぁあぁーー! 腕がぁーーー!」


 さらに他の盗賊達の内、2人に命中。

 1人は右肩を抉られ、もう1人は左腕を吹き飛ばされる。


 「だったら、これを喰らいなさい! 神聖魔法〖ホーリーレイ〗!」


 リリヴィアから白い光線が放たれる。

 牽制目的で放った先ほどの〖衝撃波〗とは違い、本気の攻撃だ。

 さすがにこれを受けるわけにはいかないギオウは〖クレイマシンガン〗を中断して回避に移る。


 「怪我した奴等は離脱しろ! ロー、お前も離脱して怪我人の手当てに回れ!」

 「承知しやした! デリク、掴まれ!」


 ギオウの攻撃が中断された隙にリオーネが手下達に指示を出す。

 怪我人の救護を命じられたローという手下は素早くデリクのもとに駆け寄り、彼を背負って走っていく。

 ちなみに欠損した左足は傷口の少し上の部分をきつく縛って止血済だ。

 戦い慣れている彼等【赤獅子盗賊団】は指示も行動も素早い。

 だがしかし、どれだけ的確な判断をしたとしても、彼等がいま窮地に立たされていることに変わりはない。


 『大地魔法〖アースクエイク〗!』


 グラグラグラ……ベキッ、ドン!


 「うわあ!?」

 「う、立っていられない!」


 〖ホーリーレイ〗を避けたギオウはさらに攻撃を放つ。

 〖アースクエイク〗は自分の周囲に地震を引き起こす魔法だ。

 震度5くらいの揺れが発生し、木々が何本か倒れ出す。

 走り回っていた盗賊達も転びそうになり、動きを止めざるを得なくなる。


 (明らかに行動パターンが変わった! 攻め主体で一気に攻勢をかけてきた!)

 『〖キャノンタックル〗!』

 「〖オーラブレード〗! ……くっ」


 ギオウはリリヴィアがいるところに向けて突進。

 リリヴィアは斬撃を飛ばして迎撃するが、ギオウはそれを喰らいつつも怯まずそのまま突撃を強行。

 その突撃をリリヴィアは横に跳んで紙一重で避ける。


 『フン!』

 「何の! お返しよ!」

 『〖デッドリーアシッドオーラ〗!』

 「あぐ、〖気鋼闘衣〗! 空間魔法〖短距離転移〗!」


 リリヴィアが突進を避けた瞬間、ギオウは急停止して尾部で薙ぎ払うように追撃。

 その追撃を〖空間機動〗を駆使して空中で避けたリリヴィアは大剣でギオウの身体を斬りつける。

 対するギオウはその斬撃を敢えて受け、斬られた直後に紫色の強酸オーラ〖デッドリーアシッドオーラ〗を発現。

 攻撃のために避け切れなかったリリヴィアは酸で全身を焼かれながらも〖気鋼闘衣〗で致命傷を避け、さらなる追撃を転移で回避する。


 『……ふん! ようやく焦り出したみたいね』


 転移で100メートルくらい距離を置いたリリヴィアが念話でギオウに話しかける。

 もちろん攻撃は警戒しつつ、〖自己再生〗で火傷も同時に治しながら。


 『……』


 ギオウはリリヴィアの方を向き、〖デッドリーアシッドオーラ〗を消しつつも体内の魔力を高めてさらなる攻撃準備に入る。


 『でも———』

 『……』

 「———ちぃっ、空間魔法〖短距離転移〗!」


 話しかけるリリヴィアに対してギオウは無言で突撃。

 大きな顎での噛みつきをリリヴィアは転移で避けてさらに距離を取る。


 『ええい! 何か返事しなさいよ!』

 『フフ、朕トシテモソロソロコノ戦イヲ終ワラセタクナッタノデナ。見エ透イタ時間稼ギニ付キ合ウ気ガ無クナッタノダ。貴様ガ喋ルノハ勝手ダガ、ソレデ朕ノ攻撃ガ止マルトハ思ワヌコトダ。土魔法〖クレイガン〗、土魔法〖マッドバインド〗!』


 ギオウの攻撃は止まらない。

 土魔法による牽制、拘束から始まり巨体を活かした体当たり、脚による薙ぎ払いや顎の噛みつきなど、魔法と物理のコンビネーションでリリヴィアを追い詰める。

 数人の盗賊達がその余波で吹っ飛ばされて戦線離脱した。


 リリヴィアは察知系、回避系、機動力強化系の各スキルに加えて時折転移を交えてギオウの攻撃を躱し続ける。

 <特性スキル>の〖勇者〗による効果でリリヴィアの<ステータス>は元の値の2倍以上に強化され、今も数値は上昇し続けている。

 だがしかし———


 (避け切れない! スピードの差はかなり縮まっているはずなのに、動きを読まれて後手に回されてる!)


 ———ギオウの攻撃は次第にリリヴィアを捉え始める。

 致命傷こそ避けているものの完全に避け切ることはできず、彼女の身体にはどんどん傷が増えていく。


 (全部の傷を治していたら回避が間に合わない! 回復よりも回避を優先しないと!)


 大きな怪我や機動力に影響しそうな傷は治すがそうでないものは放置。

 その分意識を相手の攻撃を捌くことに回す。

 そうしないとリリヴィアはギオウの攻勢を乗り切れない———否、そうしてもなお、彼女は追い詰められている。


 「空間魔法〖短距離転移〗!」

 『土魔法〖クレイガン〗!』

 「……っ!」

 『貴様ノ動キハ十分見タ! モウ逃ガサヌ!』


 転移直後のリリヴィアに土の弾丸が直撃し、ダメージで硬直したところをギオウの大顎が襲う。


 『グウゥウゥゥ~~~ッ!?』

 『あっははは! はぁ、はぁ、動きを見続けたのは、貴方だけじゃないのよ! このタイミングでここに転移すれば、噛みつきが来ると思ったわ! ぜぇ……』


 ギオウの大顎による噛みつきはリリヴィアの脇腹の一部と左腕を食い破った。

 だが、悲鳴を上げたのは攻撃したギオウの方。


 『ーーーッ!』


 ギオウは蹲って必死で何かを吐き出している。

 その口や吐しゃ物からは紫色の煙が立ち上っている。


 『【デビルブラックトリカブト】! それが、貴方が今食べたものよ! これは先日偶然私が作った猛毒で、恐ろしく不味いうえに下手するとどんな強者でも1発で死ぬわ! 即死効果は出なかったようだけど、さすがの貴方でも平気ではいられないようね? 村での戦いをアルに聞いておいてよかったわ』


 ギオウの攻撃を予測していたリリヴィアは噛まれる瞬間、ただ避けるだけではなく【魔法の袋】から【デビルブラックトリカブト】を取り出してギオウに食わせていたのだった。

 苦しむギオウから距離を取り、体の欠損を〖自己再生〗で再生しながら勝ち誇るリリヴィア。


 「まだ戦いは終わってねえぞ! 動ける奴らで陽動を続けろ! ロイ、クソ女が言っていた15分まで後何分だ?」

 「あと5分くらいです!」

 「「「おっしゃあーーー!!!」」」


 ガンガンガンガン……


 リオーネの指示を受けた盗賊達が再び騒ぎ出す。

 それを見たリリヴィアも【煙玉】をばら撒く。


 「陽動よろしく! 【煙玉】はあと5個くらいしかないから、そのつもりで!」


 大声でそう言うと彼女は気配を消して身を隠す。


 『マサカココマデ追イ詰メテ、仕留メ切レヌトハナ……』


 ギオウが復活した時には再び煙と騒音がリリヴィアの居場所を隠していた。


——カノーラ村の門にて—————————————————————


 「いま戻った。状況は変わりないか?」


 その頃、門の見張り台のところには見張りを続けていたアルフレッドとニールの他に、村長への報告を終えて戻ってきたエルと鐘の音を聞いて駆け付けた村人達を合わせて11人の男達が集まっていた。


 「早かったなエル。状況は、そう大きくは変わってない。山の方じゃ相変わらず戦いが続いているみたいだ。変わったことといえば逃げてくる魔物がいなくなったことくらいだ。たぶん、みんな逃げ散って、この辺りからはいなくなったんだと思う。……ああ、それと、見ての通り応援が8人来てるから指示を頼む。ちなみに、村長の方はどうだった?」


 エルの問いにニールが代表して答える。


 「村長はいま集会所にいて、戦えない者達をそこに避難させているところだ。さっき教えてもらったことを村長に報告して、対応について話したが……現状で出来ることは襲撃に備えながら、できるだけ情報を集めることくらいだな」

 「情報集めってことは、誰かが行かなきゃならないってことか」

 「それなら俺が行ってもいいですか? リリが戦っているのは間違いないんで、あいつを良く知っている俺が適任だと思うんですが」


 アルはすかさず名乗りを上げる。

 もともとリリヴィアのもとに駆け付けるつもりだったので、ここで偵察として選ばれればそれができるからだ。


 「ありがたい。ただ、さすがに1人で向かわせるわけにはいかないから自分も行く。そして、あと2人ついてこい。4人1組で偵察に向かう。それ以外はここの防衛だ。村の見回りなんかは村長の方で手配してくれているから、防衛班は門の防衛に専念しろ」

 「「「了解!」」」


 こうしてアルフレッド、エル、その他2人が偵察に向かい、ニールを含む7人が門の防衛として残ることになった。

 村人達はもともとある程度の役割分担がなされているらしく、チーム分けなどで揉めることはなかった。

 実にスムーズにメンバーが決まり、偵察班が出発する。


 「全員、走りながら聞け! この偵察の目的は、山で起きているであろう戦いの様子を確認すること、そしてその情報を村に持ち帰ることだ! 敵を倒すことじゃないから、軽々しく突撃するなよ!」

 「はは、分かってるよ!」

 「そうそう。言われなくたってそこまで馬鹿じゃないって」

 (うっ……)


 移動しながらエルが任務の内容を皆に言い聞かせる。

 村人達は当然のこととして流している中、戦いに参加するつもりだったアルフレッドは不意に釘を刺された形になって、ギクリとなる。


 「それと、この中で1人でも大怪我した奴が出たら、その時点で偵察は中止して村に戻る! 例え情報が何も無くてもだ! ただの偵察で死人を出すわけにはいかんからな! いいな!」

 「「「了解!」」」


 目的だけでなく任務中止の条件もちっきりと周知する。

 引き際を明確にしておくことで、いざというときに全滅しないようにするのだ。


 (すげえリーダーシップ……エルさん、身のこなしからして単純な強さは俺と大差ないんだろうけど、こういうところは大違いだな)


 村レベルとはいえ人を率いているエルは、まだまだ駆け出し冒険者に過ぎないアルフレッドと比べると経験や統率力が違う。

 それを感じたアルフレッドは走るエルの背中を感心しながら見つめるのだった。


 物語世界の小ネタ:


 リリヴィアが装備している服と帽子には再生機能が付いています。

 <MP>を消費して魔力を込めることで破れたりしていても瞬時に再生して、元通りになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ