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第70話 【大蟻戦争】〖チャクラ解放〗(sideリリヴィア)

 『お望み通り攻めてやろうじゃないの!』


 念話でそう言って一気に突撃するリリヴィア。


 『ハッハ。勇敢ナノハ褒メテヤル。ダガ、ソウ簡単ニイクトハ思ワヌコトダ』


 対するギオウはリリヴィアから距離を取るように反対側へと走り出す。

 ちなみにその方向はリオーネ達がいる方向だったりする。


 「こっち来たぁー!? しかも滅茶苦茶早い!」

 「まだ距離はある! お前ら死ぬ気で走れ! 止まるんじゃねえぞ!」

 「「「もちろんでさあー!!!」」」


 絶対追いつかれたくないリオーネ達は全力で走る。

 それはもう必死に走る。


 (露骨に時間稼ぎし始めたわ……バフが切れるのを待ってるのもあるんだろうけど、私を焦らせてミスを誘う気ね。でも、貴方の動きはもうだいたい分かってるのよ)


 追いかける形になったリリヴィアはこれまでの戦いからギオウの移動先を予測し、逃げ場をつぶすようにいくつもの斬撃や魔法を放つ。

 放たれた攻撃のほとんどは避けられてしまうのだが、しだいに少しずつ攻撃が当たり出した。

 当たったと言っても甲殻に少しかすったり、〖堅鋼殻〗などの防御スキルによって防がれたりといった程度だが、それでもダメージが入りだす。


 「やべえよ! 外れた攻撃がこっちに飛んでくるーー!」

 「左だ! 左に曲がれ! とにかく奴らの攻撃範囲から逃れろ!」


 ギオウが走る先にはリオーネ達がいるので、ギオウに避けられた攻撃がその後誰を襲うかは言うまでもない。


 なお、リリヴィアの視界には必死に逃げるリオーネ達も一応入ってはいるのだが、ギオウとの戦いに全神経を集中している彼女はそんな彼らのことなど認識すらしていなかった。

 ゆえに彼女は周囲のことなどお構いなしにギオウを倒すためだけに全力を注ぎ、破壊を振り撒く。

 足元の地面が抉られ、すぐ横にある木々が薙ぎ倒される。


 次の瞬間には自分の身体が爆散しているかもしれない、そんな恐ろしい状況から脱出するためにリオーネ達は左に方向転換。

 速度を落とすことなく向きを変え、ここを先途と必死に走る。


 『サスガニヤルナ……大地魔法〖クレイマシンガン〗!』


 攻撃されているギオウもただ逃げるだけでなく反撃を始める。

 リリヴィアと反対方向に走りながら、一切速度を緩めずに放つ引き撃ち。

 しかしリリヴィアは上下左右に目まぐるしく動き、時折転移も織り交ぜ、ギオウへの攻撃を止めることなく見事に避ける。


 「さあ、そろそろ終わりそうね! 〖オーラブレード〗!」

 『……チッ! 〖堅鋼殻〗! 大地魔法〖クレイアーマー〗!』


 リリヴィアはギオウの脚を刈るように低く、かつ広い横一線の斬撃を放つ。

 ギオウはすかさずジャンプして避けるが、身動きの取れない空中に誘導されたことに舌打ちし、甲殻を頑丈にする〖堅鋼殻〗や土の鎧で身体を覆う〖クレイアーマー〗で防御を固める。

 なお避けられた〖オーラブレード〗はそのまま直進し、リオーネ達のすぐ後ろの木々を刈り取っていった。


 「ひええ……危ねえ……」

 「左に曲がってなかったら今頃みんな上下に真っ二つでしたね……」

 「止まるなっつってんだろうが! 死にてえのか?」


 間一髪のところで死を免れた手下達にリオーネは気を抜くなと一喝する。

 実際彼らはまだ助かったとは言えない状況なのだった。


 『〖魔法規模拡大〗! 狂飆魔法〖ストームレインガー〗!』


 リリヴィアはここぞとばかりに追撃の魔法を発動させる。

 〖魔法規模拡大〗はただ単に威力を高めるだけではない。

 威力を据え置きにして攻撃範囲だけを広げることもできれば、逆に攻撃範囲はそのままで威力だけを効率的に高めることも可能で、状況に合わせて自分の魔法を作り替えることが出来るのだ。


 今回はギオウを絶対に逃がさないために〖ストームレインガー〗の攻撃範囲のみを拡大。

 ギオウを中心に巨大な球状の竜巻が形成され、周囲のあらゆるものを巻き上げ、吸い込み、切り刻む。


 『グヌゥ』


 威力はそのままとはいえ、〖ストームレインガー〗は十分強力な魔法だ。

 内部の複雑な乱気流とそれが作り出す真空によってギオウの身体を覆っている甲殻や土鎧はどんどん切り刻まれていく。


 「ぎゃああーー!? 吸い込まれるー!」

 「絶対手を離すな! 根性見せろてめえら!」


 リオーネ達は近くの木や岩、あるいはそれにつかまる仲間の身体にしがみついて耐えていた。

 〖魔法規模拡大〗によってリオーネ達のところにまで範囲が広がってしまったのだ。

 側にあった木の枝があっという間に巻き上げられ、まるで巨大なミキサーにかけられているかのように切り刻まれて粉々になる。


 それを見たリオーネ達は自分達が切り刻まれるさまを幻視し、そうならないように必死にしがみつく。


 「ごくごく……ぷはぁ、ようし捕まえた! 次で決める! 〖魔法規模拡大〗———」


 リリヴィアは再び【特製マナポーション】を飲んで使い果たした<MP>を回復。

 〖ストームレインガー〗の強力な吸引力によって動けないギオウに止めを刺すべく魔力を練り上げる。


 『土魔法〖マッドバインド〗』

 「———神聖魔法〖ホーリーレイ〗ぃ!?」


 だがギオウも黙ってやられてはくれない。

 止めの魔法が発動する瞬間を狙ってリリヴィアの足元に泥の手を生成。

 妨害するため、文字通り足を引っ張る。

 引っ張られたリリヴィアは姿勢を崩してしまい、全力を込めた〖ホーリーレイ〗は全く違う方向へと放たれてしまう。


 「「「おわあぁぁぁーーー!?」」」

 「くっ、外した!」


 結果として渾身の攻撃はギオウには当たらず、リオーネ達のすぐ近くを突き抜けていった。

 攻撃の余波で吹っ飛ぶリオーネ達。

 リリヴィアは泥の手を振り払いながら悔しがる。

 同時に〖ストームレインガー〗の竜巻も消え、ギオウが地面に着地。


 『正直、肝ヲ冷ヤシタゾ。アノヨウナ状況デハ、朕トテ正確ニ狙ッテ妨害出来ルトイウ訳デハナイ。上手ク行ッタノハ、タダ運ガ良カッタダケダ』


 地面に降り立ったギオウはリリヴィアに向かってそんな感想を漏らす。

 その身体には〖ストームレインガー〗を受けてできた大小様々な傷がついているのだが、それらの傷はどんどん治っていく。

 どうやら〖自己再生〗を発動させて回復しているらしい。


 リリヴィアも<MP>を回復させるために【特製マナポーション】に手を伸ばすが———


 『サセヌ。土魔法〖クレイガン〗!』

 「ちっ」


 ———当然、ギオウが即座に攻撃して使用を阻止。

 攻撃自体は難なく避けたリリヴィアだが、回復薬が使用出来ない状態で戦いを強いられることに苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちする。


 『サテ、ココマデノ戦イデ貴様ノ手ノ内モ把握デキタ。朕ノ切リ札デコノ戦イヲ終ワラセテヤル。見ルガイイ! 〖チャクラ解放〗!』


 ギオウの身体から蒸気が立ち昇り、甲殻が熱した鉄のような赤色に変わる。

 見た目だけでなく身にまとう雰囲気も荒々しく攻撃的なものへと変わっていく。


 「まさかの第二形態!? さすがボス!」


 数秒ほどで変化は収まった。

 全身が鮮やかな赤色になったギオウはより強大な威圧感を放っており、一目でパワーアップしているのが分かる。


 「……で、その強さは? 〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :ギオウ

<種族> :タイラントエンペラーアント

<ジョブ>:皇帝蟻Lv70/135

<状態> :全ステータス上昇(極大)、HP減少(中)

<HP> :1851/2250

<MP> : 123/ 750

<攻撃力>:2700(1350)

<防御力>:2400(1200)

<魔法力>:1400( 700)

<素早さ>:1800( 900)

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 ついでに〖チャクラ解放〗についても鑑定すると結果は以下の通り


---------------------------------------------------------------------------------


<名称>:チャクラ解放

<説明>:蟻極意Lv1以上で使用できる強化スキル

     大量の魔力を使い体の中枢器官を暴走させることで自身を大幅にパワーアップさせる。

     使用中は体に大きな負担がかかるため、継続的に<HP>が減っていく。

     <HP>が1パーセント以下になると発動を維持できなくなり、最悪の場合は死亡する。


---------------------------------------------------------------------------------


 「……うん、なんていうか……まさに短期決戦用のスキルね。デメリットがある分だけ効果が強力っていう……」

 『行クゾ! 〖キャノンタックル〗!』

 「うぐ!?」


 ギオウの突進を咄嗟に横っ飛びで避けるリリヴィアだが、攻撃をわずかに避け切れず左足に被弾。

 その左足はひしゃげ、リリヴィアは撥ね飛ばされる。


 『今度ハ朕ガ攻メル番デアル! 出来ルモノナラ凌イデ見セヨ!』


 ギオウは素早く方向転換してさらにリリヴィアを追撃。

 噛みつき、脚を振り回し、あるいはお尻の毒針で薙ぎ払う。


 対するリリヴィアは〖自己再生〗と回復魔法の併用で足を治しながら、前後左右上下に目まぐるしく動き回り、大剣で受け流し、場合によっては転移する。


 彼女は〖思考加速〗を全力で使用し、なおかつ察知系、回避系、機動力強化系の様々なスキルをフル活用してなんとか攻撃を避けようとするものの、避け切れない。

 噛みつきを避け切れずに左手を喰い千切られ、受け流した衝撃で右手を痛め、攻撃が掠める度に傷が増える。

 <素早さ>の差があるうえにギオウの見事なコンビネーションがリリヴィアの回避能力を僅かに上回っているのだ。


 (まずいわ……このままじゃ負ける……)


 ギオウの攻撃はまだまだ続く。

 全身傷だらけになりながらも辛うじて致命傷を避ける、そんな状況の中でリリヴィアは〖思考加速〗で引き延ばされた時間を使い打開策を練る。


 (ギオウの<HP>はだいたい3秒間に1ポイントくらいのペースで減っている……つまり、バフは残り1時間半くらい続く……どうにかして時間を稼がないといけないわけだけど、問題が3つ……)

 『大地魔法〖クレイマシンガン〗……土魔法〖クレイスピア〗』


 〖MP自動回復〗でやや回復した<MP>を使い、ギオウは物理攻撃だけでなく魔法攻撃も繰り出してくる。


 (……1つ目は、ギオウが強すぎる……)


 連射される土の弾丸を避けながら地面に足を付けようとした瞬間にそこから槍が出る。

 スキルによって直前で察知し、素早く飛び退くが槍の先端が足の裏に刺さって血が出る。


 (こいつ、もはや完全にラスボスだわ! 私、レベルカンストしてるのに押されているし……スキルをフル活用しても凌ぎきれないし……)


 間髪入れずにギオウが突進してくる。

 しかも〖デッドリーアシッドオーラ〗を発動させて強酸のオーラを纏った状態で。

 リリヴィアはオーラに触れて手足や鼻先に火傷を負いながらも、ギリギリ手遅れになる前に転移で避ける。


 (……次に2つ目、私自身に掛けてるバフがもうすぐ切れる……〖MP自動回復〗のおかげで<MP>は多少回復しているから、かけ直すことはできるけど、反動で動きが鈍るのは避けられない……コンマ1秒を争う状況でこれは致命的。せめて【スタミナポーション】を飲めれば反動を抑え込めるんだけど、飲む暇がないのよね……)


 リリヴィアが戦う前に自身にかけた強化魔法、〖セイントストレインセニング〗の効果は10分ほど。

 それを過ぎれば疲労感に襲われる。

 動けなくなるというほどではないが、ただでさえ劣勢な現状でそうなるのはまずい。

 疲労を抑える回復薬もあるのだが、考えなしに飲もうとすればその隙をギオウに突かれて殺されかねない。


 (3つ目、これはまあ、そこまで大問題ってわけでもないんだけど……)

 『ギオウ様ーー!! コノギアン、遅レ馳セナガラ、只今参上イタシマシター! スグニ助太刀イタシマスー! 者共急ゲ! 全速前進ーー!』

 (もうすぐギアンが敵の援軍を連れてやって来る……)


 少し離れたところからギアンの念話が届いてくる。

 ギオウから目を離すことはできないので、目ではなく〖気配察知〗で確認すると数十体のキルアントを引き連れている。


 (ギアンも他の雑魚も来たところで私とギオウの戦いについてこれるとは思えないけど、でも良いところで邪魔される可能性は否めない……これはもう撤退するしかないかしら……でも、もう少し、なのよね……何か、何かないかしら、盾か囮になるものは……)


 ギオウの猛攻を躱し、〖自己再生〗や回復魔法で欠損や傷、衣服を治しながらリリヴィアはさらに考える。

 ちなみにだが、彼女が装備している服と帽子には再生能力があり、損傷しても魔力を込めると再生する作りになっている。


 「なあ、これだけ必死に逃げてるのに何で追いつかれちゃうんだ……」

 「しー! 喋るな! 奴らに聞こえたらどうする!」


 そんなリリヴィアの耳にヒソヒソ話が聞こえてきた。


 「みぃ~つ~け~たぁ~!」


 希望の光を見つけたリリヴィアの顔は、それはそれは邪悪な笑みを浮かべていたという。


 物語世界の小ネタ:


 リリヴィアの頭脳はとっても高性能です。

 こと戦いに関して、いらない情報は全てシャットアウトする反面、使える情報は決して見逃さないという、取捨選択が完璧な頭脳なのです。


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