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第67話 【大蟻戦争】連携(sideリリヴィア)

 『〖戦闘フェロモン〗! ギダー、ギカンヨ! 我等ガ威ヲ示セ!』

 『『ハッ! 仰セノママニ!!!』』


 ギオウから濃密な魔力があふれ出し、それと同時に下された命令によって取り巻きの2体、キングオーガアントのギダーとクインオーガアントのギカンが動き出す。


 『大地魔法〖クレイマシンガン〗!』

 (む!)


 ギカンの顔の近くに魔力が集まり、次の瞬間には無数の土の弾丸となってリリヴィアへ向けて射出される。

 ちなみに大地魔法は土魔法の上位スキルで、人間でも使えるのはそれなりに限られている強力な魔法だ。

 リリヴィアはすぐさま横に走って回避するが、弾丸は次々と撃ち出されて走る彼女のすぐ後ろに着弾する。


 『〖ハードタックル〗!』

 (思ったより早い!)


 弾丸を避けて走り続けるリリヴィアに別の方向からギダーが体当たりを仕掛ける。

 それを上に跳んで躱す。

 空中に浮いたリリヴィアをギカンの〖クレイマシンガン〗が襲う———


 「〖空間機動〗」


 ———がリリヴィアは空中を蹴って回避する。


 さらにそこにギダーが襲い掛かり、攻撃を避けると今度はギカンの攻撃が来る。

 息つく暇もない連携攻撃を捌きながらリリヴィアは改めて2体の取り巻きを鑑定する。


 「〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :ギダー

<種族> :キングオーガアント

<ジョブ>:王蟻Lv50/85

<状態> :攻撃力上昇(中)、素早さ上昇(中)

<HP> :650/650

<MP> :300/300

<攻撃力>:612(510)

<防御力>:405

<魔法力>:180

<素早さ>:402(335)

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 (やっぱり。やけに早いと思ったら、ギオウが最初に放った〖戦闘フェロモン〗は手下を強化するバフスキルか)


 ギカンの方も鑑定したが、こちらもギダーと同様に攻撃力と素早さが2割上がっていた。


 (でも、多少強化したところで私の方が上! 敵の動きにも慣れたし、そろそろ反撃開始よ)


 リリヴィアは激しい攻撃を掻い潜りつつ、ギダーが次に突撃してくる瞬間を待つ。

 ギカンが放った土の弾丸の一つがリリヴィアの身体をかすめる。

 間髪入れず、直後にギダーの突撃が来る。


 (よし! タイミングバッチリ! ここでカウンター合わせてまず1体!)


 リリヴィアは待ってましたとばかりに大剣を持つ手に力を籠める———


 『土魔法〖マッドバインド〗』

 「くっ、空間魔法〖短距離転移〗!」


 ———がその瞬間、泥の腕が地面から無数に生えてきてリリヴィアを捕まえようとしてきたため、反撃を止めて転移で逃げる。


 『全然動かないからてっきり見物しているものだと思っていたのだけど、不意打ちなんてせこい真似するわね』


 チャンスを潰されたリリヴィアは魔法を放った相手に対して悔しそうに吐き捨てる。


 『マサカ卑怯トハ言ウマイ? コノ戦イハ我等ト貴様ノ生存競争。ソシテココニ1人デ乗リ込ンダ時点デ、多数ノ敵カラ攻撃サレルコトハ当然想定スベキ。デアレバ、ココデ朕ガ戦イニ参加シナイ理由ハナイ』


 その相手、ギオウは悪びれる様子もなくそう言い放つ。


 『ふん、ならこっちが貴方に攻撃しても文句ないでしょうね? 不意打ちでやられたからって負け惜しみはなしよ!』


 強気に言い放つリリヴィアだが、その後も防戦一方の戦いが続く。

 遠距離から主に魔法で攻撃してくるギカン。

 そのギカンの攻撃の間隙を縫って突撃してくるギダー。

 基本的には動かず配下の2体に任せながら、ここぞというタイミングで不意打ちしてくるギオウ。


 特にギオウの不意打ちのせいで反撃の機会を得られずにリリヴィアは次第に追い詰められていく。


 (このままちょっとじゃまずいわね。なんとか打開しないと……)


 ギカンの〖クレイマシンガン〗による弾幕を避けるため、〖空間機動〗スキルで空中を跳び回りながらリリヴィアは考える。


 (まず、ギカンの魔法攻撃は<ステータス>の数値からいって、当たっても大したダメージにはならない。だから敢えて喰らって迎え撃つ手もあるんだけど……)


 考えながらリリヴィアはギダーの体当たりを〖短距離転移〗で躱し、ギカンのすぐ後ろに出現する。

 そのまま反撃しようとするが、ギオウの魔法による横槍が来たため、すぐにその場を離れる。


 (ああもう! ギオウが邪魔過ぎる……取り巻き2体だけならとっくに倒してるのに、あいつのせいで反撃チャンスをことごとく潰されるし。この分じゃ仮にギカンの攻撃を耐えて反撃しようとしても、確実にそこを狙い撃たれるわね……ギオウの攻撃を喰らったら私でもまずいし、下手に動かず狙いすましている以上、隙見せたら絶対逃がさないだろうから、イチかバチかで動いてもまず負ける……)


 走りながらリリヴィアは大剣を振り、いくつもの〖衝撃波〗を放つ。

 だがギオウ、ギダー、ギカンのいずれも器用に動いて難なく躱す。


 <素早さ>でリリヴィアを上回るギオウはもちろん、ギダーとギカンも〖戦闘フェロモン〗によって<素早さ>が上昇しているため、苦し紛れに放った攻撃ではまず当たらないのだ。

 当然避けながらもリリヴィアへの攻撃は続いている。


 『サスガギオウ様! サスガ側近ノ方々! アノリリヴィアガ手モ足モ出ナイ! コレハ大勝利疑イナシ!』


 部屋の入り口付近ではロープでグルグル巻き状態のギアンが大喜びしている。

 リリヴィアは忌々しげに彼女を見るが……


 (やかましいわ! ……って、反撃の糸口発見!)


 しかしその瞬間リリヴィアの頭脳に打開策が閃き、入り口に向かって猛ダッシュする。


 『クッ、コッチニ来ル!? サテハ妾ヲ人質ニスル気カ! オノレ、ソウハイクカ!』


 ギアンが迎撃の魔法を撃とうとするが、リリヴィアはそれを無視して開いたままになっている扉から外の通路へと出る。


 『アレ!?』

 『逃ゲタカ』

 『フ、ナラバ追イ打チダ!』


 呆気にとられるギアン。

 その横をギカンとギダーの2体が、リリヴィアを追撃すべく走る。

 しかし、部屋を出た先の通路にはリリヴィアが待ち構えていた。


 「よし、ここならギオウの邪魔は入らない。蒼龍魔法〖タイダルウェイブ〗!」


 ドドドドドドーーーー!!!


 「ギ!?」

 「ギギ……」

 「ガボ!?」


 リリヴィアの周囲から大量の水が出現し、濁流となって蟻達に襲い掛かる。

 〖タイダルウェイブ〗は水魔法系統の最上位、蒼龍魔法のスキルで膨大な量の水を生成して敵を押し流す魔法だ。


 不意を突かれたギカン、ギダー、ギアンはあっという間に部屋の中に押し流された。

 さらにその後も生成された水は止まることなく部屋へと大量に流れ込む。


 (部屋ヲ水没サセテ溺レサセル気カ!)


 Aランクモンスターといえどもギオウは完全な陸上生物である。

 どれだけ強くとも水中では生きられないので、部屋が水没してしまえば確実に溺死することになる。

 だんだん水位が上がっており、既にギオウの胸のところまで来ている。


 『大地魔法〖ストーンウォール〗!』


 水没を避けるため、ギオウは大地魔法で石壁を生成して部屋の入り口を塞ぐ。

 それによって水の流入は止まった。


 『皆、無事カ?』

 『ハッ、痛手ハ被リマシタガ、〖自己再生〗デスグニ回復デキマス。戦闘ニ支障ハアリマセン』

 『私モ、ギダート同ジデス。ギアンノ方ハ、一応ハ生キテオルノデスガ……』


 ギオウの問いにギダー、ギカンが答える。

 2体とも〖タイダルウェイブ〗をまともに喰らって流され部屋の壁に叩きつけられていたのだが、ギオウが水をせき止めたことで体勢を立て直し、壁をよじ登って水から出ていた。


 一方でギアンは気絶していた。

 もともとギオウ達ほど頑丈でない上にロープで拘束されて満足に身動きできない状態で流されたため、耐えきれなかったらしい。

 ギカンに咥えられてぐったりしている。


 一方部屋の外ではリリヴィアが仁王立ちして大剣を構えていた。

 通路は半ばまで水没しているのだが、水面の上に〖空間機動〗スキルで空中に足場を作って立っている。


 「ふっ、昔の人は良いこと言ったわ。『人の嫌がることは進んでやりなさい』ってね! 〖オーラブレード〗! さらにもう1発、蒼龍魔法〖タイダルウェイブ〗!!」


 リリヴィアは〖オーラブレード〗で放った斬撃でギオウの〖ストーンウォール〗に穴をあけ、そこにさらに〖タイダルウェイブ〗で生成した大量の水を流し込む。


 ちなみに「人の嫌がることは~」という言葉は「人の嫌がることを引き受けなさい」という意味であって、決して「人に嫌がらせをしなさい」という意味ではない。

 なのだが彼女の中では後者の意味になっている模様。


 〖タイダルウェイブ〗の追撃によって部屋の中の水位がみるみる上昇していく。


 『ギオウ様! 完全ニ水没スル前ニ突撃イタシマショウ! 私ニ先陣ヲオ命ジクダサイ』


 ギダーが突撃を進言する。

 この部屋の出入り口は1つだけ。

 そのたった1つの出入り口から水がどんどん流れ込んできているのだ。

 逃げ道はない。


 ギオウが仮にもう一度〖ストーンウォール〗によってせき止めても、再びリリヴィアに破壊されてしまう以上、このまま立て籠もっていては確実に負ける。

 早急に打って出てリリヴィアを倒すべきだとギダーは考えたのだ。


 『待テ。ココデ我等ガ突撃ニ出ルコトハ、当然奴モ読ンデオルハズ。デアレバ無理ニ打ッテ出タトシテモ迎撃サレ、戦況ハ確実ニ我等ガ不利ニナル』


 しかし、ギオウは進言を却下。

 この状況で敵のリリヴィアが突撃を予測していないとは考えられない。

 確実に待ち構えて、部屋を出たところを一気に仕留めようとしてくるはずだ。


 部屋を出た先の通路は一本道で身を隠せるような障害物など存在しないため、部屋を出た瞬間からリリヴィアの猛攻に晒されることになる。


 ギオウは先ほどの攻防でリリヴィアの実力をある程度感じ取っており、彼女の攻撃は決して無視できるものではないことも理解していた。


 『シカシ、他ニ手ガアルトハ思エマセヌガ……』

 『……ココハ一旦放棄スル。脱出シテ立テ直ス。土魔法〖ピットフォール〗!』


 ギオウは部屋の壁際に移動し、天井に向けて大量の魔力を込めた魔法を放つ。


 〖ピットフォール〗は本来地面に落とし穴を作る魔法なのだが、地下であれば下だけでなく上に向かって穴を空けることもできる。


 穴の大きさは魔力量に比例するため、ギオウが通れるような巨大な穴を掘るためには相応の<MP>を消費する必要がある。

 しかしそれで窮地を無傷で脱出できるというのなら安いものだ。


 『地上ニ出ル。皆続ケ』

 『『ハハッ!』』


 ギオウ達は上に向かって壁を登っていく。


 「……気配が上に向かってる……てっきり突撃してくるものと思ってたのに。でも、まあいいわ。それなら私も地上に出るだけ。割と近くに縦穴があったからそんなに時間はかからないはず。地上で決戦よ!」


 リリヴィアもまたギオウ達の動きを察知して移動を開始。

 その表情はとても楽しそうだったという。


 物語世界の小ネタ:


 土魔法系統は操る土の種類ごとにそれぞれ魔法があります。

 ・〖クレイ~〗 :粘土

 ・〖ストーン~〗:石

 ・〖マッド~〗 :泥


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