第66話 【大蟻戦争】蟻の帝王(sideリリヴィア)
——蟻の巣穴の奥深くにて————————————————————
「ようやく、ボスのところに到着ね」
リリヴィアはギアンを捕まえた後、自白剤で無理やり情報を手に入れ、それを基に進撃を再開。
途中の入り組んだ通路で迷ったり、敵の主力部隊らしいオーガアントの集団と出くわして戦いになったり、錬金術の素材になるキノコを見つけて採取したり……
そんなこんなでさらに数時間かけて彼女は蟻達のボス、ギオウがいるという部屋の前に到着したのだった。
「それにしても洞窟の奥に巨大な門って……ここ、もはや完全にゲームのダンジョンね。ギオウって意外と地球出身の転生者だったりするのかしら?」
彼女の目の前には魔法で土を固めて作ったと思われる巨大な扉がある。
彼女がいるのは厳密には蟻の巣穴であって洞窟ではないのだが、人間が余裕で動き回れるほど広いので見た目は完全に洞窟だ。
加えて中でポップする敵(もちろん全て蟻系魔物)がいて、ドロップアイテム(蟻素材や採取した植物、蟻に襲われた人間の遺品など)があり、最後に巨大な扉で隔てられたボス部屋が存在するのである。
確かにゲームにありがちな洞窟系ダンジョンそのものだった。
『何ヲゴチャゴチャ言ッテイルノカ分カラヌガ、ココマデ来タカラニハ後戻リハデキンゾ。精々覚悟ヲ決メルコトダナ』
門の前で仁王立ちしているリリヴィアにロープでグルグル巻きにされたギアンが後ろから念話で語り掛ける。
彼女はリリヴィアに捕らえられてボスの居場所や巣穴の構造やらを喋らされた後も情報源として連れ回されていたのだった。
もちろん最初から大人しく従う気などなく、彼女はリリヴィアに対して何度か不意打ちをしたり逃げ出そうとしたりしていた。
だがしかしリリヴィアに不意打ちは通用せず、逃げてもすぐに追いつかれてしまい、結局なすすべなく引きずられてきたのである。
『確かに、〖気配察知〗で扉の先を探ってみると強くて大きい魔物が複数いるのが分かるわね。久々に楽しい戦いになりそうだわ』
『部屋ノ中ニイルノハ、ギオウ様ト側近ノ方々ダ。ギオウ様ハ当然、側近ノ方々モギノ帝国デ選リスグリノ精鋭! 貴様ニ勝チ目ハ無イト思エ!』
『ますます面白そうだわ』
リリヴィアは激戦の予感に胸を躍らせながら巨大な扉を開けて躊躇なく部屋の中に入る。
扉の先にあったのはおよそ100メートル四方の空間だった。
天井も高く、ざっと20~30メートルくらいはある。
壁や床にはこれまでの通路と同様に【ランタンゴケ】が大量に生えており、陽は差さなくても視界に困ることはない。
「おおー……」
思わず息をのむ光景だが、しかしリリヴィアが思わずそんな声を上げたのはそんな部屋を見たからではない。
部屋の中央にいままで遭遇した蟻とは比較にならない程巨大な蟻がいたからだ。
体長30メートル前後で灰褐色の鋼のような甲殻に覆われ、角のような触角をはやした怪獣みたいな蟻がいたのだ。
またその蟻程ではないものの、その個体の左右にも体長10メートル近い大きな蟻が2体、リリヴィアの方を見ている。
「……ではさっそく、まず左の蟻から〖鑑定〗!」
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<名前> :ギカン
<種族> :クインオーガアント
<ジョブ>:女王蟻Lv50/75
<状態> :通常
<HP> :500/500
<MP> :400/400
<攻撃力>:320
<防御力>:440
<魔法力>:210
<素早さ>:310
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「次に右の蟻は……〖鑑定〗!」
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<名前> :ギダー
<種族> :キングオーガアント
<ジョブ>:王蟻Lv50/85
<状態> :通常
<HP> :650/650
<MP> :300/300
<攻撃力>:510
<防御力>:405
<魔法力>:180
<素早さ>:335
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左右の取り巻きはどちらもBランク。
一般的にBランクとは「数十人~数百人規模の部隊と同程度の強さ」であり、ギルドが数十人の冒険者を集めてレイドクエストを発令するか、あるいは国の騎士団を動かす、といった対応が必要になる。
普通の冒険者が単独で遭遇したら、まず助からないレベルの怪物だ。
しかしここにいるのはリリヴィアで、彼女ならば難なく倒せる程度の相手であるため、Bランクの魔物が2体いるとしてもそのことについては慌てる必要はない。
「取り巻きでBランクってことは、ボスは当然それ以上よね……」
問題はその2体を従えているボスの存在だ。
魔物の世界は弱肉強食のため、基本的に一番強い個体がボスになる。
またギアンから聞いた話や体の大きさを考えても、中央の個体がボスで、かつ最強なのは間違いない。
リリヴィアは期待と不安が入り混じったような顔で中央のボスを鑑定する。
「気になる中央のボスの強さは……〖鑑定〗!」
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<名前> :ギオウ
<種族> :タイラントエンペラーアント
<ジョブ>:皇帝蟻Lv70/135
<状態> :通常
<HP> :2250/2250
<MP> : 750/ 750
<攻撃力>:1350
<防御力>:1200
<魔法力>: 700
<素早さ>: 900
<装備> :
<特性スキル>:
〖皇帝蟻〗 :Lv―
〖HP自動回復〗 :Lv7
〖MP自動回復〗 :Lv5
<技能スキル>
〖蟻闘術〗 :Lv10
∟〖蟻奥義〗 :Lv10
∟〖蟻極意〗:Lv 5
〖特殊フェロモン〗:Lv 5
〖土魔法〗 :Lv10
∟〖大地魔法〗 :Lv 6
〖念話〗 :Lv 7
〖気配察知〗 :Lv 7
〖危険察知〗 :Lv 5
〖魔力探知〗 :Lv 7
〖魔力制御〗 :Lv 8
〖思考加速〗 :Lv 8
〖隠密〗 :Lv 7
〖回避〗 :Lv10
∟〖脱兎〗 :Lv 9
〖自己再生〗 :Lv 8
〖瞬動〗 :Lv10
∟〖縮地〗 :Lv10
∟〖瞬神〗 :Lv 2
〖連携〗 :Lv10
∟ 〖部隊連携〗:Lv 7
〖統率〗 :Lv10
∟ 〖戦術〗 :Lv 6
〖威圧〗 :Lv 8
<耐性スキル>:
〖物理耐性〗:Lv6
〖魔法耐性〗:Lv4
〖毒耐性〗 :Lv5
〖麻痺耐性〗:Lv5
〖恐怖耐性〗:Lv5
〖混乱耐性〗:Lv4
<称号> :〖伏蟻太皇〗
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「うん、さすがボス! 文句なしのAランクモンスターだわ。ここ、蟻の巣穴が何でこんなに広くて大きいのか疑問だったんだけど、このボスが通れるようにするためだったのね。なるほど! ……1人で来たの、失敗だったかも……」
楽しそうに、しかし若干後悔しながらポロっと心情を漏らすリリヴィア。
Aランクは「数千~数万規模の軍勢と同程度の強さ」とされており、討伐するには相応の大軍を動かさなければならないとされている。
はっきり言うとリリヴィアでも勝てるとは限らない。
(ギアンからこいつの話聞いた時点で、なんとなくこうなるんじゃないかと思ってたのよね……でも、味方を連れてくるにしてもAランク級とまともに戦えるの私だけだし。用意できる物も限られてるし。そもそも私はメノアさんの護衛だから何日もここに留まれないわけだし……うん、仕方ない仕方ない……)
『サテ、名を聞コウカ。侵入者ヨ』
とりあえず心の中で自分を正当化しているリリヴィアに対して蟻達のボスであるギオウが念話で話しかけてきた。
『私はリリヴィア・ファーレンハイト。Dランク冒険者よ。この近くの村が貴方達に襲われたから、反撃しに来たのよ』
『フム』
リリヴィアも念話で応答する。
このまま戦うか、それとも一旦撤退するか、彼女は若干迷っていたりするのだが、しかしまずは目の前のことに集中すべきと思考を切り替える。
『申シ訳アリマセン! ギオウ様。妾モ抵抗シタノデスガ、コノ者ハ恐ロシク強ク、妾デハドウニモ……結局ギオウ様ノ元ニ強敵ヲ連レテキテシマウコノ失態、処罰ハ如何様ニモ……』
『良イ、我等ノ領土ヲ広ゲルウエデ、強敵ノ出現ハ予想出来タコト。並ノ兵デハ手ニ負エヌ強敵ニ備エルタメ、朕ガココマデ出向イテイルノダ。今回モ、コノ場デ朕ガコノ者ヲ討チ取レバ良イダケダ』
『ギオウ様……』
謝るギアンを責めることなくあっさり赦すギオウ。
その様子は威風堂々とした覇王であり、かつ寛大な君主といった感じだ。
ロープにグルグル巻きになった状態のギアンも彼の言葉を聞いて感激している。
そんな中、リリヴィアはギアンの側で考える。
(出向いている、か。彼らからするとここは領土の端っこで、本拠地は魔境の奥なのね。ギオウが前線近くまで出向いてきたおかげで、私は今こうして向かい合っていると。もし来ていなければ、私は戦わずに済んだけど、その代わりに村は今後ずっとギオウに脅かされることになる……運が良いんだか悪いんだか……)
そこまで考えたリリヴィアは、戦う前にどうしても確認すべきことがあるということに思い至る。
それは———
(……そういえば、ギオウの配下ってあとどのくらいいるのかしら? 私が今知っていることっていったらギアンを捕まえた時に吐かせた情報だけだし……)
———ギオウ達の群れの規模である。
ギアンから聞き出した情報や今のギオウの発言によれば、彼等はクリカラ山脈という魔境の奥から勢力範囲を拡大してきたわけで、ここが本拠地というわけではない。
つまり、ここ以外の場所にも巣穴があり、ギオウの群れに属する蟻達が存在するということになる。
そしてそれが全部で何体いるのか分からない……
ちなみに彼女がギアンに吐かせたのは主にギオウのことと、ギオウのところに行くにはどこをどう行けばいいかということであり、敵の数などは特に聞いていなかった。
(ギオウを倒した後の残党の討伐については、別に国に投げてもいいんだけど……それでも大体の数は知っておきたいわね)
というわけで、ちょっと探りを入れてみる。
『私を討ち取ればいいって言ったけど、ちょっと遅いんじゃない? 私、ここに来るまでに100体か200体か、既にそのくらいは倒したわよ? それに村で起きた戦いでも100体以上の蟻が倒されたみたいだし、仮にここで私を倒したとしても死んだ蟻達は生き返らないわよ。果たして立て直せるのかしら?』
『フ。心配ニハ及バヌ。コノ地ニ連レテキタノハ単ナル先遣隊ニ過ギヌ。我等ノ本軍ヲ呼ビ寄セレバ良イダケダ』
(やっぱり別の場所に大勢いるのね……ひょっとしたらここに全員でやってきていたり、なんて都合の良いことはないか。しかもこの反応だと、残り数百体ってレベルじゃなさそう……)
リリヴィアも、ギオウの群れが立て直せないほど追い込まれているとは思っていない。
だが敢えてそう言って挑発したのは、不自然にならないように敵の数に触れて相手の反応を見るためだ。
素直に「貴方達は全部で何体いるの?」と聞いてみてもいいかもしれないが、正直に教えてくれるか分からないので、一旦変化球で様子見してみたのだ。
『ちなみに、本軍ってどのくらいの数いるの?』
『サアナ。我等ノ数ハ常ニ変動シテイル。今モ産卵ニヨッテ新タナ蟻ガ生マレテイルシ、ソノ一方デ外デノ戦イニヨッテ絶エズ死ンデイル。具体的ナ数ハ朕ニモ分カラヌ。タダ、数百体程度ノ損失ナド、ギノ帝国全体カラスレバ微々タルモノダ』
(なるほど。ということは全体の数は少なく見ても数千、あるいは数万規模か……よし。私の仕事はギオウを倒すところまでに決定! 残りは国になんとかしてもらおう! 村に戻って村長さんに連絡しとけばOKよね?)
ギオウの群れがかなり大きいことを知って、今後の後始末を国に投げることにしたリリヴィア。
『話ハコノクライデ良カロウ。リリヴィアトヤラ、覚悟ハ良イカ?』
そんな彼女にギオウは戦闘開始を宣言した。
物語世界の小ネタ:
参考までにリリヴィアの<ステータス>の数値を記載します。
彼女は物語開始時点で既にレベルがカンストしているため、スキル関連はともかく数値自体は変わっていません。
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<名前> :リリヴィア・ファーレンハイト
<種族> :人間
<ジョブ>:勇者Lv100/100
<状態> :通常
<HP> :1000/1000
<MP> : 800/ 800
<攻撃力>: 850+110
<防御力>: 500+130
<魔法力>: 800+100
<素早さ>: 700
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