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第65話 【大蟻戦争】巨大巣穴(sideリリヴィア)

第65話 【大蟻戦争】巨大巣穴(sideリリヴィア)


——蟻の巣穴にて————————————————————————


 「ふー。大分進んだけど、まだまだ先は長そうね」


 リリヴィアは蟻の体液のついた自分の大剣に、魔法スキルの〖クリア〗をかけながら独り言ちる。

 〖クリア〗は〖光魔法〗の〖Lv8〗で覚える、汚れを落とす魔法である。

 戦闘には全く役に立たないのだが、部屋の掃除をしたり旅の中で自分の身体を洗ったりと生活で役立つ魔法の1つだ。


 「これまでの戦いで大分仕留めたし、領軍や襲われた人たちの遺品も結構回収できたし、後は奥にいるはずの女王蟻を仕留めれば文句なしなんだけど……」


 最初にぶつかった蟻の群れは難なく全滅させ、その後彼女はどんどん進み、いくつかの部屋を確認した。

 部屋には蟻に殺されたと思われる兵士や村人の死体や所持品などが無造作に積み重ねられており、彼女はそれらを〖ディメンション〗の亜空間や【魔法の袋】などに入れて回収しながら進んでいる。


 なぜわざわざ死体や遺品まで回収しているのかというと、出発の際に村長から「もしも村人の遺品などを見つけたら、可能な限りでいいので持ち帰ってほしい。もちろん報酬は支払うから」と依頼されていたからである。

 もちろん元々欲しがっていた蟻素材もきっちり回収している。


 そうして進む中で蟻達は何度も出てきてはリリヴィアに突撃するのだが、彼女はその全てを一蹴。

 オーガアントさえ一撃で倒して彼女は進む。


 既に彼女が巣穴に突入してから数時間が経過しており、外はすっかり夜になっている。

 何百体もの数を倒しているのだが、彼女に疲労の色は全く見えない。

 まだまだ余裕の表情で奥へと進む。


  ・

  ・

  ・


 ……数分後


 「うわあ、広い……」


 快進撃を続けていたリリヴィアは巨大な通路に出て、思わず息をのむ。

 それまで進んでいた通路も十分広いと言えるのだが、いま彼女がいる通路は横幅が30~40メートルくらい、高さも10メートル以上あるのだ。


 「ここ、本当に蟻の巣穴なの? 天然の洞窟……じゃないわね。ここの壁、土魔法で固められてるし……もともと洞窟だったのかもしれないけど、蟻達が住むために土を掘って固めて作ったので間違いないわね……」


 この広大な空間が、自然にできたものでも人によって作り出されたものでもなく、ただの蟻の魔物によって作り出されたということにリリヴィアは驚く。


 「見ていて信じられないんだけど、蟻ってこんな大きな空間作れたっけ? あと今まで通ってきたのはメインストリートじゃなくて脇道の1つだったのね……ほんとにどれだけ大きいのかしら……」


 しかし、驚きはしてもやることは変わらない。

 リリヴィアは気持ちを落ち着けると、改めて周囲を観察する。


 「私がやることは蟻の間引き。奥にいるはずの女王蟻を討伐することだから、とにかく奥を目指さないと……風の向きからすると右に行けばいいみたいね。それにしても【ランタンゴケ】がいっぱい生えているのには助かったわね。おかげで穴の中なのに明るいし」


 【ランタンゴケ】とは苔の一種でエメラルド色に発光する性質があり、ランタンなどの明かりとしても使われる植物である。

 それが巣穴の中には大量に自生しているため、夜中でしかも地下であるにも関わらず、十分な視界を確保できていた。

 ちなみに【ランタンゴケ】は錬金術の素材にもなるので、探索のついでに多少採取していたりもする。


 「あ、縦穴発見! つうかこれも大きいわね……幅も深さも……」


 リリヴィアが見つけた縦穴は直径がいま彼女のいる通路とほぼ同じで深さは優に100メートル以上ある。

 パッと見た感じ穴というよりももはや崖と思えるほどに大きいのだ。

 ちなみにだが、この縦穴は直接地上に繋がっているらしく、上を見上げると夜空が見える。


 「うーむ……この縦穴、ここを含めていくつも横穴があるけど……どこをどういけばボスのところにたどり着くのかしら?」


 リリヴィアは穴の淵でしゃがみこんで下を覗き込む。

 【ランタンゴケ】が壁に大量に生えて光っているおかげで周りは十分に明るく、いま覗き込んでいる縦穴についても奥まで良く見えるのだが、しかしだからといってどこをどう行くのが正解かなどは分からない。


 もともと、彼女は巣穴の内部構造についての前情報など全く無いまま来ているので、どうしても行き当たりばったりの探索にならざるを得ないのだった。


 「考えても仕方ないし、とりあえずは一番下の大きな横穴に行ってみましょう」


 リリヴィアは帰るときに迷わないよう壁を剣で斬りつけて目印をつけると、そのまま飛び降りる。

 下までかなりの高さがあるのだが、彼女は空中に足場を作る〖空間機動〗スキルが使えるので落ちて死ぬことはない。

 そうして目標の横穴に着くと彼女はさらに奥へと進む。


  ・

  ・

  ・


 ……さらに数時間後


 「ようやく女王蟻か……」

 「ギギ……」


 リリヴィアは広場のようになっている場所で10数体の蟻達に囲まれる女王蟻を発見。

 〖気配察知〗スキルで周囲の状況を探りつつ通路を進んでいたところ、複数の蟻の気配を察知して見つけ出したのである。

 女王蟻は体長3メートル程で黒い甲殻に覆われており、同じ大きさのオーガアントと比べて頭や腹部が大きい。

 なお既に深夜といって良い時間帯であり、そろそろ引き上げようかと考え始めていたところだった。


 「さて、強さのほどは……〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :ギアン

<種族> :クインアント

<ジョブ>:女王蟻Lv30/60

<状態> :通常

<HP> :300/300

<MP> :210/210

<攻撃力>:150

<防御力>:210

<魔法力>:140

<素早さ>:175

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 「ふーん、割と強いのね。防御寄りのバランス型って感じ」

 『何者ダ! 侵入者ヨ、ココヲギオウ様ノ領域ト知ッテノ狼藉カ? ギノ帝国ニ何ノ用ダ!』


 リリヴィアがクインアントの強さを確認していると、クインアントから〖念話〗が飛んでくる。

 〖念話〗は相手の思考を読んだり、相手に自分の思考を伝えたりするスキルなので言葉が通じなくても意思の疎通ができるのだ。


 『ごめん。ギオウって誰? 察するにあんた達のボスってことでいいのかしら? あとギの帝国っていうのはここの洞窟のこと?』


 リリヴィアはどう返すか一瞬迷うが、取り繕っても意味がないので正直に〖念話〗を返すことにする。

 クインアントの周囲を固めている蟻達から「えっ!? それすら知らないの? 馬鹿なの?」という感情が伝わってくる。


 『いや、仕方ないじゃない! 私、人間だから蟻の事情なんか知らないのよ!』

 『ヤレヤレ、本当ニ知ラズニヤッテ来タノカ……ショウガナイ。コノギアンガ説明シテヤル』


 なんとなく居たたまれなくなったリリヴィアに、ギアンと名乗るクインアントが説明してくれた。

 意外と親切な蟻らしい。

 ちなみにギアンからも残念なものを見るような視線が向けられている。


 『ギオウ様トハ我々ノ偉大ナル指導者デアリ~』

 (やっぱりそいつがボスなのね)


 ……10分後


 『~トイウワケデ、ギオウ様ハ大変素晴ラシイ事ニ~……ギオウ様ハトテモスゴイ! ソシテ~』

 (何か誉め言葉多過ぎない? いや情報教えてくれるのはありがたいんだけどさ……)


 ……さらに10分後


 『~サスガギオウ様、スゴイ、トッテモスゴイ~』

 (……「スゴイ」が多すぎてウザいわ! もっと簡潔に教えてくんないかしら……やばい、眠くなってきた……そういやもうとっくに夜だったっけ……)


 二言目には「すごい」や「偉い」といった誉め言葉が出てくる、下手なプロパガンダみたいな説明が2時間くらい続く。

 その内容を要約すると以下の通り。


 ・ギオウ様はとっても偉大な王様! 偉い! 称えよ!

 ・ギオウ様の命令に従って我々は勢力を拡大してきた。ギオウ様、すごい!

 ・ギオウ様はある時、自らの巣穴およびその周辺をギの帝国と名付けた。ギオウ様、すごい!

 ・ギの帝国は外敵を駆除しつつ現在も勢力拡大中。ギオウ様、すごい!

 ・ギの帝国は人間がクリカラ山脈と呼ぶ場所にあったが、勢力拡大に伴い巣穴も拡張を重ねている。さすがギオウ様!

 ・最近この辺りにも進出し、人間とも戦うようになった。ギオウ様なら大勝利疑いなし! 偉い! 称えよ!


 『~トマア、コンナトコロダナ』

 (やっと終わった……もう少しで寝るところだったわ……)

 『ドウダ、少シハギオウ様ノ偉大サガ分カッタカ?』

 『うん、よく分かったわ。説明はもう十分よ……』


 ギアンは得意げに胸を張り、一方のリリヴィアはもうお腹いっぱいです、という感じでギオウに関する説明は終了。


 ちなみに説明の中に出てきたクリカラ山脈というのはツヴァイレーン帝国の東部にある広大な山脈だ。

 山脈の端の部分がリリヴィア達のいるアインダルク王国やその北のブルグムドライ連邦との国境を跨いでおり、今回蟻の巣穴があったキーツ山もクリカラ山脈の外縁部に位置している。


 『それで、そのギオウはどこにいるの?』

 『ナンダソノ言イ方ハ! チャント、ギオウ様ト言ワンカ! ……トコロデ、何故ギオウ様ノ居場所ヲ知リタガルノダ?』

 『えっ? そりゃあ、居場所が分からないと倒せないでしょ。私はあなた達を倒しに来たわけだし』

 『貴様、敵ダッタノカ!?』

 『ええっ!? そこ? てっきり分かったうえで話しているのだと思ってたんだけど!? っていうかあなた、最初に私のこと侵入者って言ってなかった?』

 『イヤ、初メハ敵カト疑ッテハイタノダガ……何モ知ラナイミタイダシ、タダ単ニ迷イ込ンダダケナノカモト……ト、トニカク! 敵ト分カッタ以上容赦ハセヌ! 者共、掛カレ!』


 ギアンの命令で周囲の蟻達が一斉に動いてリリヴィアを取り囲む。


 「やれやれ。まあでも、結局戦って全部倒しちゃうのが一番シンプルなのよねえ……女王蟻だけは生かしておいてあげるわ。ボスのところに案内してもらわないとね!」

 「「「ギギ―!」」」

 

 取り囲んだ蟻達がリリヴィア目掛けて一斉に飛びかかるが、リリヴィアは右手に持つ大剣で次々に斬り伏せて、あっという間に全滅させる。


 『DランクのバレットアントやEランクのキルアント程度じゃ何体来ても相手にならないわよ』

 『オノレ……土魔法〖クレイスピア〗!』


 勝ち誇るリリヴィアにギアンが土魔法で攻撃。

 リリヴィアの周囲の地面から土の槍が大量に生えてくる。


 リリヴィアだけでなく、その周囲の空間全てを巻き込んでの範囲攻撃だ。

 単純に彼女だけを狙っても当たらないと思ったのだろう。

 ギアンはリリヴィアがどう動いても当たるように、逃げ場を全て潰すつもりで攻撃したのだ。


 『ふ、その程度のスピードじゃ私には当たらないわよ。それ!』


 しかしリリヴィアは圧倒的なスピードでギアンの土槍が伸びるよりも早く背後に回り込む。


 『アウッ!?』

 『勝負あったわね。私の勝ちよ』


 リリヴィアは大剣の腹でギアンを叩いて転がし、ひっくり返ったギアンに大剣を突き付けて勝利を宣言する。


 『さあ、死にたくなければボスの居場所を教えなさい!』

 『誰ガ言ウカ!……妾ハ決シテギオウ様ヲ裏切ラヌ!』

 『立派な覚悟なのは褒めてあげるけど———』

 『喰ラエ! 〖ポイズンショット〗!』

 「———わっ!?」


 情報を聞き出そうとしたリリヴィアだが、ギアンはそれに応じない。

 腹部の先端にある針から毒液を放つ。

 リリヴィアは咄嗟に横に跳んで躱すが、その隙にギアンは立ち上がって逃走を試みる。


 「あーもうっ! 説得はやめよ! アンタがそう来るんなら、こっちは蟻に自白剤が効くか試してやるわ!」


 リリヴィアは〖ディメンション〗で特製自白剤【ゲロ―ル】を取り出すと、逃げるギアンを猛然と追い掛ける。


 『アグッ!?』

 『捕まえたわ!』


 そしてあっという間に追いつくと後ろから蹴り倒して、再び地面に転がし、用意していた自白剤を無理やり飲ませる。


 『クゥッ、止メロ!』

 『止めるわけないでしょ! 観念しなさい!』

 『イヤーーー!!!』


 その後リリヴィアはギアンから情報を手に入れ、さらに巣穴の奥深くへ進むのだった。


 物語世界の小ネタ:


 ギの帝国のように魔物が自分達の縄張りを国と呼ぶ事例はまれに起こりますが、人間がそれを正式な国と認めることはまずありません。


 ギの帝国はいわゆる未承認国家なのです。


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