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第57話 【大蟻戦争】カノーラ村での戦い

——カノーラ村の外れにて————————————————————


 森の中をしばらく走ったアルフレッドはルールーの村、カノーラ村のすぐ側に来ていた。

 途中数体の蟻系魔物に出くわしたものの、特に苦戦することなく倒した。


 彼は今、村の近くにある高台に立って村を見渡している。

 村にはログハウスのような木造の家が建っており、その周囲を高さ1~2メートル程度の木組みの柵に囲まれている。


 「うーん……蟻ばっかりだな。これ、村人は全滅してないか? ……いや、〖気配察知〗でかすかに感じるな。村の中心部分の建物の中に立て籠っている感じか」


 アルフレッドは〖気配察知〗で村の状況を探りながら、どう戦うかを考える。

 現状では村の大部分を蟻に制圧されている。

 その中で果たすべき目的は1人でも多くの村人を助けることで、蟻を倒すのはあくまで手段。

 であれば、まずは村人達と合流するかもしくは蟻達の注意を村から逸らすことを考えるべき。


 (とりあえずは村人との合流を目指そう)


 そう考えて村に近づくアルフレッド。

 柵を跳び越えて村に入ったアルフレッドに対し、近くにいた蟻が数体ほど襲い掛かってくる。


 「〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :

<種族> :キルアント

<ジョブ>:兵隊蟻Lv4/12

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 「〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :

<種族> :鎧アリ

<ジョブ>:働き蟻Lv3/5

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 (近づいてきているのはEランクのキルアントとFランクの鎧アリ。手早く片付けてしまおう)


 アルフレッドは自分に近づいてくる蟻達に向かって走り出す。

 そして蟻が間合いに入ると剣を振るってあっさり全て倒す。


 「ジジジィーーー!!!」


 倒された蟻の1体が断末魔の悲鳴を上げる。

 すると村の中のいたるところから数十体の蟻が出てきた。


 (最後の悲鳴は仲間を呼んでたわけか)

 「「「ギチギチギチ」」」


 蟻達はアルフレッドの姿を見ると一斉に走ってくる。


 「出てきたのはEランク以下の雑魚ばかり。これなら囲まれさえしなきゃ問題ないな。風魔法〖ワールウィンド〗!」

 「「「ギ!?」」」


 アルフレッドは蟻を十分に引き付けてから魔力を多めに込めて〖ワールウィンド〗を発動。

 直径数メートルの竜巻が現れて10体前後の蟻を巻き込む。


 「〖衝撃波〗! 〖瞬動〗!」


 竜巻の攻撃範囲から外れていた蟻達がアルフレッドのすぐ側に迫るが、〖衝撃波〗で斬撃を飛ばして3体を仕留め、すかさず一番近い民家へ向かって走り出す。


 「そりゃ!」


 途中にいた蟻2体を走ったまま剣で斬り捨てて、民家のところまで移動すると壁を背にして蟻達の方へと向き直る。


 (とりあえず、壁を背にしておけば後ろからの攻撃は気にしなくていいからな。ここで迎え撃つ!)

 「ギギィー!」

 「ふん!」

 「ギギギ!」

 「どりゃあー!」


 正面から飛びかかってきたキルアントを横殴りに斬りつけ、その隙をついて噛みつこうとした鎧アリを蹴り飛ばす。

 さらに左手にナイフを持って、剣とナイフの二刀流で蟻達の攻撃を捌く。


 「〖跳躍〗」


 蟻達の攻撃がさらに激しくなったため、アルフレッドは〖跳躍〗で民家の屋根の上に退避。

 そして家の反対側に降りて、村の中心部に向かって走る。

 蟻達も当然追ってくるが、アルフレッドの方が速いため追いつけない。


 (1体1体は弱いとはいえ、数の暴力は脅威だな。俺1人で蟻全部を倒すのは無理っぽい。ただ、思っていたより数が少ないな。村を襲っているのは数百体って話だったけど、後ろから追ってくる20体近いのを入れても100体くらいしかいない……)


 地面にはそこかしこに蟻の死骸が転がっている。

 どうやら村人達によって結構倒されたらしい。

 またルールーを追いかけていたり森の中で倒した個体もいたことを考えると既に大半が村から出て行ったと考えるのが自然だろう。


 一方で死骸とは別に血の跡があちこちについているうえに村人の物と思われる武器も所々に落ちているので、村人達にも少なくない被害が出ている模様。

 人間の死体は見当たらないが、蟻は狩った獲物を巣に持ち帰る習性があるため、あまり楽観視はできない。


 (村にいるのはこの先の中心部分の建物を囲んでいるのが50体くらい、それ以外は分散してあちこち動き回っているな。そこの家の陰にも3体いるから気を付けないと……)

 「「ギチ!」」

 「なんのっ! ……げっ!?」


 注意していた場所から飛びかかってきたキルアント2体を難なく返り討ちにしたアルフレッドだが、奥にいた個体を見てうろたえる。


 「デカい……やっぱり上位種がいたか……」


 体長1.5メートルのDランクモンスター、バレットアントがいたのだった。


 「ギィー!」

 「ちっ、〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :

<種族> :バレットアント

<ジョブ>:隊長蟻Lv2/35

<状態> :通常

<HP> :48/48

<MP> :14/14

<攻撃力>:30

<防御力>:30

<魔法力>:11

<素早さ>:21

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 飛びかかってきたバレットアントをバックステップで避け、すかさず鑑定で相手の実力を見る。


 「良かった、低レベルだ。進化したばかりの個体か」


 問題ないと見たアルフレッドは、今度は自分から飛びかかってバレットアントの頭部を斬り飛ばした。


 「ビビったけど、レベルが低いうちはそんなに強くないから助かったな。これが高レベルだったらヤバかったが———」

 「クチャ!」


 安心していると前方からまた別の個体が現れた。

 今度は体長2mで黒い体に赤いラインがある個体だ。


 ちなみにこれまで戦っていた鎧アリ、キルアント、バレットアントの体は全て黒色だったので、さらに上位もしくは亜種(突然変異か何かの要因で通常とは異なる進化を遂げた個体)が出てきたことになる。


 「なんか嫌な予感……〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :

<種族> :バレットキルアント

<ジョブ>:隊長蟻Lv24/45

<状態> :通常

<HP> :195/195

<MP> : 60/ 60

<攻撃力>:171

<防御力>:162

<魔法力>: 50

<素早さ>:135

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 今度も低レベルであってくれ、と願いを込めて鑑定したアルフレッドだったが、普通に強かった。

 攻撃力、防御力と素早さは素の数値で言えば【不死教団】のガストンよりも上である。

 Dランクの中でも上位の魔物だ。


 しかも後ろからは村に突入したときに交戦した蟻達が追いかけてきているため、このままでは挟み撃ちに遭う。


 「うん。予感的中。一時撤退だよ、ちくしょう! 〖瞬動〗」


 アルフレッドは向かって左側、魔物のいない方向へと全速力で走り出す。

 バレットキルアントは当然アルフレッドを追いかける。

 後ろから迫ってきていた他の蟻達もバレットキルアントと一緒になって追い掛ける。


 瞬発力を引き上げる〖瞬動〗で多少距離を稼いだが、素の<素早さ>ではバレットキルアントの方が上だ。

 そのため、他の蟻はともかくバレットキルアントとアルフレッドとの距離はどんどん短くなっていく。


 しかも———


 「クチャー!」

 「〖跳躍〗!」


 ———バレットキルアントから土の弾丸が撃ち出された。

 〖クレイガン〗という土属性の魔法攻撃である。

 蟻も上位の種族になると魔法を使いだすのだ。


 後ろで魔力が集約されているのを感じ取ったアルフレッドは〖跳躍〗スキルで間一髪回避に成功。

 近くにあった家の屋根に飛び乗る。


 下を見るとバレットキルアントも6本の足で家の壁をよじ登ってきていた。

 蟻は普段から木に登ったりするので、垂直な壁でも問題なく登れるのだ。


 「くそ! だけどチャンス!」

 「ギ!?」

 「飛び降りつつの〖鎧通し〗!」


 アルフレッドは足元に出てきた蟻の頭を剣で殴って仰け反らせ、さらにバレットキルアント目掛けて飛び降り、胸部に剣を突き立てる。


 アルフレッドの全体重が乗った突きを受けたバレットキルアントは壁に踏みとどまることが出来ずにアルフレッドの下敷きにされる形で地面に落下。

 落下した衝撃でさらに剣が深く突き刺さる。


 「さらに、魔剣能力発動!」


 さらに剣から竜巻が発生してバレットキルアントの身体をズタズタに切り裂く。


 「よし、倒した! 次は他の蟻達を———あうっ!?」

 「ギギ……」


 だがバレットキルアントは倒せていなかった。

 瀕死に追い込まれたものの、アルフレッドが意識を他の蟻に向けた隙に最期の力で彼の右足に噛みついたのだ。


 「くっ、この!」


 慌ててバレットキルアントに止めを刺し、今度こそ倒し切る。

 その直後に追いかけてきていた蟻達の内、先頭を走っていたキルアント1体がアルフレッドのところに到達し、襲い掛かる。


 「〖強撃〗!」

 「ギ!?」


 右足のふくらはぎ辺りを噛まれたアルフレッドは右膝をついた状態で、咄嗟に剣を両手で持ち渾身の力で横殴りに斬りつけて、その個体を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた個体は相応のダメージは負ったものの、死んではおらず再び向かってくる。

 また他の蟻達も次々にやってきている。

 追いかけてきていた蟻の数は最初20体弱だったはずだが、いつの間にか30体ほどに増えていた。

 どうやら知らないうちに他の蟻達が合流してしまっていたらしい。


 (まずい、足がやられてまともに動けないうえに踏ん張れない。そのせいで剣にも威力が乗らない。とにかく何が何でもこの場を凌がないと……)


 アルフレッドは〖思考加速〗スキルでゆっくり流れる時間の中で考え、素早く【マナポーション】を飲む。

 飲み干すとほぼ同時に後続の蟻達が襲い掛かってきたため、アルフレッドは体中の魔力を集中させつつ、左右の手にそれぞれ持った剣とナイフを振り回して応戦する。


 (落ち着け、落ち着け俺。まだ終わってないから……くそ、足が使えないとこんなに戦いにくいのかよ)


 アルフレッドはまだ諦めるなと自分に言い聞かせるが、足をやられたことによる影響は逃げられなくなったというだけではなかった。


 威力のある斬撃とは単純な腕力だけでなく、足腰を起点に体全体を使って繰り出すもの。

 片足をやられたために体のバランスが崩れてしまい、単純な腕力で剣を振り回さざるを得ず、本来の攻撃力が発揮できない。


 また剣で斬りつけた後、姿勢を保つことが出来ずによろけてしまい、その度に蟻達に大きな隙をさらしてしまう。


 ほんの10秒ほどの攻防でアルフレッドは腕や体のあちこちに噛みつかれてしまった。

 幸い噛みつかれたのはアルフレッドが着ている鎧の上からだったので、ダメージはない。


 鎧のすね当てを容易くかみ砕いたバレットキルアントとは違って、いまアルフレッドを囲んでいるのは下位種のキルアントや鎧アリだ。

 そこまで強くない彼等にはアルフレッドが着ている鎧を壊すほどの力はないのだ。


 (よ、よし十分引き付けたし、魔力も練った。いまならこいつら全部仕留められる!)


 アルフレッドは集中していた魔力を全てつぎ込んだ魔法を発動させる。


 「風魔法〖ワールウィンド〗!!!」

 「「「ギィーーー!?」」」


 アルフレッドを中心に、直径10メートル近い竜巻が発生してアルフレッドを囲んでいた全ての蟻達を吹き飛ばす。


 足をやられた際、アルフレッドは傷を治す【ポーション】ではなく、あえて<MP>を回復させる【マナポーション】を飲んだ。

 消耗していた<MP>を回復させて迫ってきている蟻達を一網打尽にするためである。


 傷の治療は敵を倒してからでよい。

 それよりも確実に敵を全滅させるだけの火力を得ることを優先したわけである。

 アルフレッドは狙い通り、自分に襲い掛かっていた約30体の蟻達を全滅させた。


 「ーーー!」


 そしてアルフレッド自身も空高く巻き上げられ、声にならない悲鳴を上げる。

 自分の中心に竜巻を発生させたのだから当然だ。


 この世界はゲームではないため、自分の魔法によって自滅することも普通にあり得るのだ。


 「がはっ、ごほっ、……」


 10メートルくらい巻き上げられた後、竜巻の外側に出されて屋根の上に落ちたアルフレッドは辛うじて意識をつなぎとめて周りの状況を確認する。


 「最後受け身をとれなかったら死んでたな。っていうか、マジで死ぬかと思った……」


 周りに敵がいないことを確認したアルフレッドはそう言って、足を治療するのだった。


 物語世界の小ネタ:


 同じ種類の魔物でも強さはレベルによってかなり変わります。

 ランクの高い魔物でもレベルが低いうちは割と簡単に勝てたりします。


 一方でランクの低い魔物でも最大レベルに近い場合は、それなりに手強いです。

 実質1つ上のランクだと思って戦わないといけません。


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― 新着の感想 ―
技術の暴力も恐ろしいけどやっぱり数の暴力って恐ろしいですな
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