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第109話 【ヤクザ潰しパート2】カルミアとのやり取り(sideリリヴィア)

 「その様子だと彼女の事を知っているみたいね」


 カルミアの名前を聞いて何とも言えない反応をするリリヴィアを見て苦笑するメノア。


 「噂を聞いたって程度だけどね。実際のところ、メノアさんから見て彼女はどんな人なの?」

 「まあ、今言った通りで……かつ噂通りの変人って感じかしらね……」

 「噂って、私が聞いたのは『研究の為なら何を犠牲にしても平気な狂人』とか『危険な薬をいっぱい作っている』とかなんだけど……」

 「まさにその通りの人間ね。普通、噂話というのは広まるうちに尾ひれがついて、実像よりもずっと大げさになっていくものなのだけど……彼女に関してはなんていうか、ありのままの話がそのまま広まっちゃっているわ。あ、もちろん功績もいっぱいあるわよ。そのおかげでいままで逮捕されずに済んでいるわけだし」

 「つまり、普通だったら逮捕されるようなことをやらかしていると……」

 「ええ。それと加えて言うなら……彼女は善とか悪とか、そういう倫理的なことはどうでも良くて、いままで誰も知らなかった知識やら真理やらを追求していくのが全てって感じね。ある意味、ものすごく自分に正直な人間よ」

 「なるほど。私の想像通りのタイプか」


 要するに倫理観が破綻したマッドサイエンティストで、研究のためならなんでもやる要注意危険人物。

 ただし、その才能は優れていて、扱いさえ間違えなければ社会に大きく貢献できる天才でもある。


 リリヴィアはこれまで聞いていた話と、いまメノアから聞いた話を総合してそう結論付けた。


 「それで、どうする? 会ってみる?」

 「会うわ。初めて噂を聞いた時からちょっと興味があったし、そういう人間なら【ジャム】について何か知っている可能性も十分あるしね」


 リリヴィアとメノアは料理を食べ終わるとギルドを出て、アルタの街の東部にあるというカルミアの家に向かうのだった。


——カルミアの家にて——————————————————————


 ギルドを出てから数十分後、リリヴィア達はカルミアの家に到着していた。

 彼女の家は他の家の5倍はある敷地の大半を占める工房と、その傍らに申し訳程度に存在する自宅で成り立っている。


 「自宅の中に職場がある」というよりも「職場の中に自宅を作りました」といったほうがしっくりくる感じの家だった。


 「よ~こそぉ~、ひっひひ。私の家にわざわざ訪ねてくるなんて珍しいね~」


 ボサボサの髪に猫背で不健康な青白い肌の女性——カルミア——は自ら淹れたお茶を出してリリヴィアとメノアを歓迎する。


 「どうもありがと。突然来てごめんなさいね」

 「気にしなくていいよ~。これでも人付き合いは大事にしてる方なんだよ私ぃ~。なんでもない付き合いからも意外な発想が出たりするし、メノアといると退屈しないしねぇ~」

 「ありがとう。ふふ」


 黒い噂や見た目も相まって不気味な雰囲気のあるカルミアだが、メノアには気を許しているらしい。

 アポなしで突然やってきたにもかかわらず、彼女は上機嫌で対応してくれている。


 「それで、そっちの子は? なんか面白そうな子だねぇ」

 「この子は冒険者のリリヴィアよ。あなたの知識を借りたくて連れてきたの」

 「初めまして。私はDランク冒険者のリリヴィア・ファーレンハイト。リリと呼んでください」


 流れに従って自己紹介をするリリヴィア。

 相手は年上かつ著名な錬金術師なので、言葉遣いは敬語で失礼のないようにする。


 「リリねぇ。うん、ああ言葉は無理に敬語使わなくてもいいよ。私も堅い言葉遣いは好きじゃないしぃ、気楽にしてくれた方がいいな。なんなら名前も呼び捨てでいいし」

 「そう。それなら普通の言葉遣いで話すわね。よろしく、カルミア」


 カルミアから許可を貰えたので、リリヴィアはその言葉に甘えて、砕けた言葉遣いで自分の事情を話す。


 話す内容はもちろん【ジャム】のこと。

 面倒ごとに巻き込まれ、事態を打開するために相手の情報を集めていることや、相手が【ジャム】と呼ばれる違法な薬物を入手していたこと、そしてその【ジャム】の正体を知りたいことなどを順序立てて説明する。


 「——ということで、もし【ジャム】について何か分かることがあるなら教えてほしいの」

 「ふーん、なるほどねぇ~。うん、【ジャム】と呼ばれる魔法薬について思い当たるものがあるよぉ」

 「えっ、本当!?」

 「うん。魔法薬っていうのは昔から大勢の人間が研究している分野だからね~。難病を治すための特効薬としてだったり~、権力者なんかが不老不死になるためだったり~……それこそ人の欲望を実現する手段って感じでいろんな薬が作られてきたからね~」

 「そうして作られてきた薬の中に【ジャム】と呼ばれるものがあるってこと?」

 「そういうことぉ~」


 カルミアは自分で淹れたお茶をすすりながら説明を続ける。


 「ひひひっ、人間は自分の欲望を叶えるためならいろんなことやるからねぇ。薬の中には他人に言えないようなことをしないと作れないものもあるしぃ、犯罪にしか使えないようなものもあるんだ~。それで、そういう類の薬は法律でしっかり規制されているから~、基本的に持っているだけで犯罪だしぃ~、なんなら手に入れようとした時点で捕まりかねないんだよね~」

 「うん、そういうものがあるっていうのは私も知っているわ」

 「だから、そういうのを作る錬金術師とかぁ、その錬金術師から薬を仕入れる犯罪組織は自分達が捕まらないように当たり障りのない名前を付けて、他人にバレないようにしているわけ。【ジャム】っていうのもそういう感じで名付けられたものの1つだよぉ。【ジャム】はかなりマイナーな薬で、一般の人にはあんまり知られていないからぁ、それを聞いて分かるのは一部の錬金術師とかその周囲の人間だけじゃないかな~」

 「実際、これまで聞いた人は貴女以外、誰も知らなかったわ。それで【ジャム】っていうのは具体的にどんなもので何に使うの?」


 そろそろ具体的なことを教えてほしいと踏み込んだ質問をするリリヴィア。

 しかしカルミアはそんなリリヴィアを焦らすようにヒヒヒと笑う。


 「それを教える前に、ちょっと取引がしたいんだけどぉ。実はいま、こっちはこっちで面倒事を抱えているんだよね~。というわけでどう? お互い協力し合わない? 私は【ジャム】のことも教えるしぃ、必要に応じてそれ以外の知識も提供する。その代わりにリリとメノアも私の抱えてる面倒事を手伝ってほしいんだけどぉ」

 (なるほど。やけに勿体ぶった説明をすると思ったら、私達を自分の味方に引き入れたいのね。さてどうするのが一番良いかしら……)


 カルミアの持ち出した取引を聞いて、リリヴィアは彼女の思惑を察して思案する。

 リリヴィアはひとまずメノアの方を向いて相談してみる。


 「メノアさんはどう思う?」

 「とりあえず、その面倒事の内容次第ね。カルミア、まずは話を聞かせてくれる? 先に言っておくけど、犯罪の片棒担ぐ真似はできないからそのつもりでね」


 返答をする前に話をするように促すメノア。

 犯罪はダメだと最初にきっちり断る辺り、カルミアの信頼度が良く分かる。


 「大丈夫ダイジョ~ブ。頼みたい内容は私の護衛なんだよ~。最近【三華連合】っていうヤクザ組織からの勧誘がウザくてさぁ~。報酬出すから自分達が指定する魔法薬作れって。それ断ったらどうなるか分からないぞ、なんてありきたりな脅し文句も言ってきて~……それで、興味ないから断ったんだけど、それで私は今狙われているわけなんだよね~」

 「なるほど。それでその【三華連合】とかいうヤクザから自分を守ってほしいと」

 「そういうことぉ。この件はもともとギルドに依頼出そうと思っていたんだけど、タイミング良くこうして冒険者が来てくれたし、リリって相当強いでしょぉ? だったらこの場で頼むのもアリかな~って。まあダメなら普通にギルドに依頼するだけだから、断ってくれても良いけどどう?」


 持ち掛けられた話はヤクザからの護衛だった。


 「リリ、どうする?」

 「そうね……引き受けても良いわ。ただし条件がある」


 リリヴィアは数秒考えて答える。


 「ひひひ、どんな条件?」

 「条件は全部で3つ。1つ目は護衛についてギルドを通して正式に依頼すること。報酬はDランク冒険者の相場通りでいいわ」

 「うん。まあ、当たり前と言えば当たり前かぁ~。いいよ~」


 護衛は拘束時間が長い。

 常に相手の近くにいて周囲を警戒しなければならないため、護衛中は他の依頼は受けられないと思った方が良い。

 であれば、これは個人の頼みとしてよりも正式な依頼として受けておくべきだ。


 「2つ目は数日後にエルトルギドラ討伐のレイドクエストがあるらしいけど、私はそれに参加しようと思っているの。だからその間は護衛できないわ。その点を了承してほしいの」

 「あ~あの件ねぇ。了解~。私としてもその件で困ってるから了承しよう。あのドラゴンのせいで錬金術に使う素材とかが手に入りづらくなってんだよね~」


 リリヴィアには今後の予定があるので、後で揉めないように事前に調整しておく必要がある。


 【ワールム商会】の方ならマッスルさん達も動いているので、なんなら全部丸投げしても彼らが商会を潰しそうな気もするが、レイドクエストに関しては譲る気はない。

 既にギルド長のラルクに参加の意向を伝えているというのもあるが、なにより彼女自身が大好きなイベントだからだ。

 ランクアップを目指すうえでも大きなプラスになるはずだし、護衛依頼などよりも明らかに優先順位が高い。


 そんなわけでこのことも護衛を受ける条件に入れておく。


 「最後の3つ目。実は私も錬金術を少し学んでいて、魔法薬も作れたりするの。せっかくだから護衛の間、あなたの仕事を見学させてもらえないかしら? もちろん仕事の邪魔しないし、見学は護衛に支障をきたさない範囲にするわ。ただ時々質問したりもすると思うけど、その時に答えられる範囲で教えてくれたら問題ないわ」

 「ふーん……」


 要するに護衛期間中に錬金術の勉強をさせろ、ということだ。

 カルミアが優れた錬金術師なのはこれまで得た情報からまず間違いない。

 せっかくだからその知識を学びたい。


 リリヴィアにとっては有用な知識を集めるのも修行のうちなのだ。


 「護衛中はどうせ近くにいるのだから、いいでしょう?」

 「……」


 問題ないよね、という感じで許可を促すリリヴィアをカルミアはじぃーっと見つめる。

 その様子は「警戒」というよりも「観察」という感じに近い。

 カルミアからは警戒心や猜疑心といったものは感じ取れず、どちらかというと好奇心や探究心からリリヴィアを見つめている気がする。


 「どうするの? カルミア」


 黙って見つめたままのカルミアに、今度はメノアもどうするか聞いてみる。

 だがカルミアは反応しない。


 「……いいよいいよ~。リリって、思ったより面白そうだねぇ。ヒッヒッヒ。仲良くしようじゃないの~」


 メノアの質問から10秒くらい経って、カルミアはリリヴィアの出した条件を全て了承。

 どうやらカルミアはリリヴィアに興味を持ったらしい。

 そして3人はその後ギルドに向かうのだった。


 物語世界の小ネタ:


 錬金術と一口に行ってもその範囲はかなり広く、魔法薬だったり魔道具だったりと多岐にわたります。


 多くの錬金術師はそうした幅広い分野の中から、自分の専門を選んで研究しています。

 カルミアも同様で、彼女は魔法薬を専門に研究している錬金術師なのです。


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